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1−2−3 在宅ホスピスケアの位置づけ
 
 上記のように、多岐にわたるテーマで実習に取り組んできたが、そこに流れるものは上記にもあるように、医師として実際に直面するであろう様々な課題・とくに病院内での医療の教育のみでは対応できない問題を設定することである。
 とくに、衛生学・公衆衛生学とは、主に疾病の治療が中心である臨床医学とは異なり、人間の生活全体を対象としていることが重要である。一次予防、二次予防、三次予防という概念でわければ、臨床医学は主に二次予防であるが、その前後には、疾病の予防、そして疾病が完全に治癒できなかった場合に、その疾病と共存しながらよりよい生活を支えるという部分がある。この臨床医学のみでは教育できない部分こそが、良医を教育するために、衛生学・公衆衛生学における担うべき部分であると考える。
 その点から、ホスピスケアは、疾病の治癒が望めない患者のケアという三次予防の重要な部分となる。加えて、“人生の最期を在宅で”という希望が多い中、施設ホスピスでなく、在宅でホスピスケアを行うということの意義は大きい。さらに、その実施には、患者自身の身体的側面のみならず、家族も含めた心理的社会的側面への配慮がより大切になり、その実際を医学生として体験することは公衆衛生学の教育として大変重要であると考えた。
 また、SEは、優れたチューターという人的資源があってこそ成り立つものである。その点、在宅ホスピスケアの第一人者である医師の協力が得られたことは、我々の教育全体としても得がたい機会であると考えている。さらに、看護学生との討論など、ユニークな点も含んでおり、今後co-medicalとの協調が必要な医師として、学ぶ点の大きいSEとなっている。
 
参考文献
1)McNair, NP(ed.). The Case Method at the Harvard Business School. New Yourk : McGraw-Hill, Inc., 1954.
2)植村研一:「医学教育におけるシミュレーションの役割」 日本医学教育学会編. 医学教育マニュアル5:シミュレーションの応用. p18, 東京:篠原出版, 1984.
3)上畑鉄之丞、他:教育研修教材の改善(1)事例研究とケースメソッド. 代表 古市圭治. 平成8年総合的地域健康教育検討事業・公衆衛生における卒後教育研修体系に関する研究報告書. P71-201, 東京:公衆衛生振興会, 1997.
 
【地域保健−在宅ホスピスケア−】
 
【GIO】
1. がん治療における「末期がん患者」の位置づけを理解する。
2. 「末期がん患者」を支える医療、特に家で過ごす末期がん患者に対する医療のあり方について理解する
3. 在宅ホスピスケア(Home hospice care)の歴史・概念を理解し、施設ホスピスケア(Institutional hospice care)との連携について学ぶ。
4. 地域における在宅ホスピスケアの実際にふれ、在宅ホスピスケアに必要なシステムとケアについて学ぶ。
 
【SBO】
1. 在宅ホスピスケアの概念を説明することができる。
2. 在宅ホスピスケアに関わる専門職の法的根拠と役割を述べることができる
3. 在宅ホスピスケアに必要な地域ケアシステムを説明できる。
4. 在宅ホスピスケアのチームケアの原則を説明できる。
5. チームの一員としてカンファレンスで発言することができる。
6. 末期がん患者の死までの病状経過を述べることができる。
7. 末期がん患者のケア計画を立案することができる。
8. 末期がん患者の疼痛コントロールの方法を説明できる。
9. 末期がん患者と家族が抱える心理・社会・霊的な問題を説明できる。
10. 家族を失った人の悲嘆を理解し悲嘆のケアについて述べることができる。
11. 在宅死を前提とした「死の教育」について説明できる。
12. 末期がん患者と家族とのコミュニケ―ションの原則を理解した上でコミュニケ―ションをとることができる。
13. 在宅ホスピスケアにおける法的・倫理的課題を述べることができる。
 
《ケース》
 患者は36歳男性、胃がんの末期である。病名の告知などは一切されておらず、病気は胃潰瘍だと説明されている。両親は入院中の生活が見るに忍びないので、何とか家に連れて帰り、残された時をできるだけ豊かに過ごさせてやりたいと思っている。本人は治ると信じて療養生活を送っているが、病状が一向に好転しないので、入院後1ヵ月経過したころからイライラが募っている。
 ある日、患者の両親が2人でホスピス外来へ相談に来た。
〈設問〉
Q1. 両親に対してどのようなアドバイスをすればよいか。
《ケース続き》
 数日して、患者の母親と妻がホスピス外来へ相談に来た。告知に対する母親の意見は「このような状態になってから告知するのは時期が遅すぎるので、家に連れて帰るにあたって告知して欲しくない」ということである。一方妻の方は、病院の医師から余命一ヶ月以内と説明を受けているので、「子供達(小学校1年と3歳の女の子)と自分に言葉を遺して欲しいので、病気を正しく説明して欲しい」と願っている。両者とも「家に連れて帰りたい」という気持ちは同じであるが、告知すべきかどうかに関しては、意見が全く分かれている。
〈設問〉
Q2. このようなときに、医療者はどのようなアドバイスをすればよいのであろうか。
《ケース続き》
 家に帰ってしばらく順調な日が続いたが、腹水の貯留、尿量の減少、食欲の低下等、全身状態の悪化が見られ、患者は家に帰ってきたことを喜ぶ一方、これでよいのかと不安を持ち始めた。母親は依然として告知に反対であり、妻はもうここまできたのだからはっきりと病状を説明して欲しいと強く思っている。
〈設問〉
Q3. 医療者はどのように対応すればよいであろうか。
《ケース続き》
 家族の希望通り、患者は在宅死した。死亡直後、家族は理想の看取りができたと悲しみの中でもホスピスケアチームに感謝していた。
 患者が亡くなって一週間後、医師と看護婦が在宅ホスピスの経過について文章を書き、それを患者の両親と妻に送った。ところが、それを読んだ母親が、辛い時期に息子の最期の様子を書いた文章を持ってこられ、しかも事実とはちょっと違ったりするところもあると非常に立腹し、父親を通してケアチームに抗議してきた。
〈設問〉
Q4. このケースはグリーフケアの難しさを物語っているが、ホスピスケアチームはどの様な点に注意すべきだったのであろうか。また、母親の抗議に対して、どのような対応をすればよいか。
〈設問〉
がん患者の在宅ケアに関して
(参考文献:川越 厚:「がん患者の在宅ケアQ & A」臨床看護 第22巻第13号 1996年11月臨時増刊)
Q5. 末期がん患者の在宅ケアがなぜ今求められているのだろうか?
Q6. かつては「家で生まれて家で死ぬ」のが当たり前であったが、末期がん患者の在宅ケアが難しくなった背景にはどのようなことが考えられるか?
Q7. がん患者が在宅死すれば、それだけで在宅ホスピスケアというのであろうか?
Q8. 在宅ホスピスケアを行う医療機関は、どのような条件を満たす必要があるか?
Q9. 患者がどのような状態のときに在宅ホスピスケアを始めればよいか?
Q10. 在宅ホスピスケアを始めるときどのような設備、器材が必要か?
Q11. 在宅でホスピスケアを受けるため、家族はどのような条件を満たす必要があるか?
Q12. 在宅ホスピスケアでは患者の苦しみはどのようなものがあるか?
Q13. 在宅ホスピスケアにおける疼痛管理はどのように行われるか?
Q14. 在宅ホスピスケアでは点滴はどうするか?
Q15. がんの種類によるケアの難しさはどのようなものがあるか?
Q16. 在宅ホスピスケアでは告知の問題をどのように考えればいいか?
Q17. 在宅ホスピスケアはどの時点で終了するか?
Q18. 家での看取りが難しいのはどのような場合か?
Q19. 在宅での看取りは本当に家族だけでできるか?
Q20. 医療者は看取る家族にどのように死を教えればよいか?
Q21. 在宅死の場合、家族にどのような注意を与えればよいか?また法律的な問題はないか?
【参考文献】(*は必読)
1. *「在宅ホスピスケアを始める人のために」 川越厚編 医学書院 1996年
2. *「家で死にたい」 川越厚 保健同人社 1992年
3. 「在宅ホスピスケアの基準」 川越博美、水谷哲朗 臨床看護、 24, 1125-1129, 1998.
4. 「家庭で看取る癌患者−在宅ホスピス入門」川越厚編 メヂカルフレンド社 1991年
5. 「ガン告知を生きる」 川越厚他 日本基督教団出版局 1995年
6. 「生と死のはざまで」 川越厚 保健同人社 2000年
7. 「遺された言葉」 川越 厚編著 日本基督教団出版局
8. 「やすらかな死」 川越厚 日本基督教団出版局 1994年
9. 「アクティブ・デス」 川越厚 岩波書店 1997年
10. 「がんの痛みはとれる−モルヒネの誤解をとく」 加賀谷肇、松本禎之 丸善 2000年
 
【参考ビデオ】
1. 「在宅ホスピスケア−家庭で看取ること−」在宅ホスピス協会 企画、東京シネ・ビデオ株式会社 製作
2. 「家で看取った息子の死−在宅医療で息子を送った家族と医療者の記録−」テレメンタリー'93、テレビ朝日、1993年4月25日
3. 「愛する人々へ 最後は家で・・」サンデースペシャル、テレビ朝日 1993年12月5日。
4. NHKニュース“21” 特集21 NHKテレビ、1993年2月18日
 
【留意事項】
1. 服装はシャツ、ネクタイ着用
2. 聴診器を持参、白衣は必要ない
3. 時間厳守
4. 患者様、実習先の方々に失礼のないように十分留意すること
 
【実習方法】
 帝京大学医学部の学生2名と聖路加看護大学の学生1名が1グループとなり、患者様を受けもち、実際のケア計画を作成してもらう。学生が主体となり、川越先生、訪問看護師の方々をはじめとするスタッフの方々へのインタビュー、ロールプレイ、ディスカッションに参加し、在宅ホスピスケアへの理解を深めていく。







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