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II 研究の内容・実施経過
対象と方法
 1995年5月から2001年3月の間に、聖ヨハネホスピスへ入院したがん終末期患者のうち、症状コントロール目的などの入院により軽快退院した症例を除いた、全症例852名を対象として入院診療録から情報を収集した。
 調査した項目は性別、年齢、原発部位、入院期間、輸液の有無とその期間、輸液の種類(電解質輸液か高カロリー輸液か)、鎮静の有無、鎮静を必要とした理由、鎮静の方法(間欠的か持続的か)、鎮静に使用した薬剤である。
 輸液施行症例とは、経口摂取量の減少などにより補液や栄養補充を目的としたもののみを対象とし、抗生物質やその他治療薬(例、ステロイド、抗うつ薬など)を投与するための100ml生理食塩水の輸液や、頭蓋内圧下降目的の浸透圧利尿薬投与、また高カルシウム血症治療のための輸液は輸液施行例には含めていない。行なわれた輸液の種類は電解質輸液であったか、または高カロリー輸液であったかに分類して収集をした。長期にわたり輸液を行なった症例の中で、高カロリー輸液施行期間が電解質輸液施行期間を上回っているものは、高カロリー輸液施行者群に含めた。
 今回の検討においては鎮静を以下のように定義した。すなわち患者の生命予後が日単位から時間単位と考えられる時期に行なわれた終末期鎮静で、患者の意識低下を目的とした1次的、かつ深い鎮静を対象とし、夜間の睡眠を目的とした睡眠剤の投与や、他の症状緩和のために使用された薬剤の副次的影響による2次的鎮静、会話や応答が可能な浅い鎮静は含まれない。鎮静方法としては間欠的鎮静、持続鎮静の両者を区別して調査した。
 全症例において上記項目を調査収集した上でさらに、今回の研究の解明目的である、鎮静を必要とした症例における輸液療法の影響の有無を検討するために、当ホスピス入院期間において21日間以上の輸液を施行した症例に対し、入院期間が21日以上でかつその間全く輸液を行なわなかった症例を比較対照とし、最終的に持続鎮静を必要とした症例を比較検討した。
 データの処理と統計学的検討は、Stat View日本語版 ver5.0統計ソフトを使用した。輸液施行の有無と鎮静施行の間における相違の比較にはカイ2乗検定を用いて検討した。検定においてはp値が0.05以下をもって有意差ありと判定した。
 
III 研究の成果
1. 対象患者の背景因子
 対象患者の背景因子を(表1)に示す。男性368名、女性484名、計852名で、男女の割合は男性43.2%、女性56.8%であった。平均年齢は63.9±12.7歳、男性64.8±12.9歳、女性63.0±12.5歳であった。
 原発病巣は胃140名(16.4%)、大腸139名(16.3%)、肺137名(16.1%)、乳房104名(12.2%)の順に多く以下、表1のとおりである。
 
2. 輸液施行の状況
 電解質輸液と高カロリー輸液の両者を含めて、輸液の行なわれていた患者は714名(83.8%)であった。そのうち電解質輸液施行者は510名(59.8%)、高カロリー輸液施行者は204名(23.9%)で全輸液施行者中における高カロリー輸液施行者の割合は40%であった。平均輸液期間は27.5日(最短1〜最長582日)であった。
 
3. 鎮静の状況
 間欠的鎮静を含む鎮静施行者は、全852名中610名(71.5%)であった。その方法は(1)間欠的鎮静 376名(61.6%)、(2)間欠的鎮静から持続鎮静へ移行 150名(24.6%)、(3)初回から持続鎮静 84名(13.8%)であった (図1)。最終的に持続鎮静による苦痛症状の緩和を必要とした(2)、(3)を合わせた症例数は234名で、全症例852例中27.5%また全鎮静施行者610名の38.4%、となる。
 鎮静を施行した理由を(表2)に示す。最も多かった理由は呼吸困難で36.2%、続いて不穏、せん妄が35.9%、全身倦怠感が23.6%、他に痛み、嘔気・嘔吐、けいれんにより鎮静が行なわれていた。最も頻用された鎮静薬剤はmidazoram(92.0%)で、大部分は単剤で持続点滴静脈注射または持続皮下注射により投与された。他にbromazepam坐剤(4.4%)が単剤またはmidazoramと併用で用いられた症例、またmidazoramの耐性出現によりchlorpromazineの併用やflunitrazepamへの変更を必要とした症例が見られた。持続鎮静を行なった症例ではphenobarbital(1.3%)への変更も見られたが、大部分はmidazoramの持続使用で最後まで鎮静を継続していた。







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