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6. がん終末期における鎮静の必要度と輸血の関係について
聖ヨハネホスピスケア研究所・研究員 石巻靜代
 
I 研究の目的・方法
 ホスピスケアにおいて患者の苦痛症状を緩和することは最も大切な目的の一つである。終末期がん患者に対する苦痛緩和のための手段としての鎮静については様々な面から緩和ケア関連の雑誌で論議されている。鎮静の定義については間欠的鎮静を含めるのか、浅い鎮静を含めるのか、スピリチュアルペインに対する鎮静を含めるのかなど一致した意見を得られていない部分もあるが、標準的治療により緩和することが困難である耐えがたい苦痛を緩和するために薬剤により患者の意識レベルを低下ことさせることという点では一致をみている。日々の臨床においてあらゆる手段をもってしても緩和困難であり、意識を低下させることでしか苦痛を緩和でき得ない症状は実際に経験するところである。苦痛症状を緩和することはもちろん重要なことではあるが、鎮静によりその最後の場面において患者はコミュニケーションの手段を失ってしまうことになる。患者にとってもまた家族にとってもコミュニケーション手段が失われてしまうことは可能ならば避けたい結果ではないであろうか。今回我々は鎮静を要するそれらの苦痛症状の中には、事前に異なった治療方法を行なうことで、その耐えがたい苦痛症状の発現自身を予防し得ることは無いだろうかと考えた。海外の報告と比すと我が国の鎮静の実施率は高い傾向にあるように感じられる。その差を生じる要因を類推すると、様々な症状コントロールの手法において鎮痛剤を初めとする薬剤の使用方法ついては我が国と海外のホスピスの間に大きく異なる点は無いと考えられるが、輸液の施行に関しては明らかに海外のホスピスにおいてはその施行率が低いことに気付かされる。終末期患者に対する輸液の是否についても様々な意見が交わされており、一定の見解を得るには至っていないのが現状である。終末期患者への適切な輸液がどのようなものであるかの結論は得られてはいないながらも、日本の医療においてはあたりまえのように行なわれている輸液療法、特に高カロリー輸液が、最終的に鎮静を必要とするほどの苦痛症状の発現に影響を与えている可能性は無いであろうか。この疑問を明らかにするために我々のホスピスで苦痛症状を訴えて鎮静を必要とした患者における輸液療法の実施状況を後方視的に検討した。







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