3)歯科口腔外科:(1)緩和病棟入院患者で、5人に1人以上の割合(21.7%)で、何らかの歯科的問題が生じて、歯科の介入を必要としていた。この数字は、患者の平均年齢が高く、年齢的に義歯を装着している患者が多いこと、また緩和病棟に入院する前の長期の闘病生活中に、ほとんど歯科的治療を受ける環境になかったり、時間的余裕がなかったこと、また治療を受け入れてくれる治療施設(歯科開業医)がなかったのではないかと考える。近年がん患者において、可能な限り中心静脈栄養に頼らない、自然の形での栄養を積極的に勧めることもあり、咀嚼、嚥下の第一の役割を果たす口腔機能の役割は、大変注目されている。にもかかわらずこのような高い比率の患者が、歯科的介入を必要としていることを考慮すれば、全国の緩和ケアを受ける患者が口腔にトラブル対策に歯科医師、歯科衛生士の介入ができる体制が必須であろう。
(2)また口腔内トラブルで、口腔内乾燥が原因で口腔内疼痛、経口摂取ができないと訴える患者が多いのが判明した。入院の患者は、抹消からの補液が主体で、脱水気味の管理下にあり、全身状態が徐々に低下し経口摂取が進まない状態になれば、一段と口腔乾燥が強くなるのは想像するに難くない。我々は対症療法であるが、口腔内の市販保湿剤使用、保湿効果のある含嗽剤の使用を勧め、約半分の患者で症状の改善を得ることができている。しかしこれまでに有効な口腔乾燥対策は確立されておらず、今後我々は確実な対策、処置方法を考案していく必要性がある。
(3)緩和病棟患者の平均在院日数は、約3週間しかなく、今回われわれの介入した1名の患者あたりの介入回数は、わずか約3回である。さらに75%が歯科外来へ移動してくることのできない、全身状態の低下した患者であったことを考えると、おのずとその治療は口腔清掃、口腔ケア指導を中心としたケア主体の介入になること、義歯不適合に対しても早期に口腔機能を回復させるために、応急処置を主体とした治療にならざるを得なくなっている。しかし今後、緩和ケア病棟に入院する患者に早期に介入をはじめ、口腔内トラブルを回避、もしくは軽減していく連携システムを作ることが重要である。
(4)結果:緩和ケア病棟入院患者の5人に一人の割合で、歯科口腔ケア介入が必要であった。口腔乾燥に対する、効果のある処置方法の開発が必要と思われた。口腔ケアをおこなうタイミング、処置内容は患者の病態により制限されるので、多種職医療チームの一員として、効率的な介入システムを構築していく必要がある。
4)WOC:活動性・可動性の低下した終末期患者に起こる褥瘡は、体圧分散寝具などを中心とするケアの発達、医療者側の知識の向上によって、かなり改善させられるようになった。あらたな課題として、せん妄や不穏などによる体動のある患者、自発性のある患者の褥瘡が浮上してきた。これらの患者では、ベッドとの間に引っ張り応力とせん断応力が大きく起こり、褥瘡が治癒しにくい状況になると考えられる。このことは、動く患者には褥瘡ができない、という一般的な知識に反するものであり、今後の研究が課題として、科学的な取り組みが必要となった。
V 研究成果等の公表予定(学会、雑誌)
本年度の日本がん治療医学会で「緩和ケアチーム医療のあり方」の演題で応募する予定である。
緩和医療、ターミナルケアなどの雑誌へ投稿する予定である。
謝辞:笹川医学医療研究財団からこの度、研究助成金を頂きましたお陰で、このような研究成果を得られた事に対して深謝の意を表します。日本における緩和ケアチーム医療は端緒についたばかりであると認識しております。当センター緩和医療科は今後ともこれを機会にモデルを構築し、日本における緩和医療の推進していく考えです。今後ともご助言、ご指導、支援をお願い申し上げます。
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