IV 今後の課題
本邦においては昭和大学付属病院内で高宮らが医師看護師を中心としたがん緩和チーム医療を指向しているが職種も限定され病院全体に認知されるに至っていない。また国立がんセンター中央病院内においても安達らが中心となり医師、看護師、ソーシャルワーカーらが緩和ケアチームを組織したが、医師の独自性が強くチーム医療を指向するには至っていない(安達、2002)。また聖路加国際病院ではリエゾンアースが中心となり病院内外でのチーム医療を指向しているが、他のコメディカルスタッフや医師を含めた普遍化したチーム医療形態にはない。米国のMDアンダーソンがんセンター、英国のセント・クリストファーズ・ホスピスではほぼ理想的ながんチーム医療が実現されているが、豊富な医療スタッフと医療システムの違いから本邦の保険医療内でのがんチーム医療を指向するモデルとならない。本邦の医療保険制度にマッチした現実的なチーム医療のあり方を指向する必要性がある。
そこで、静岡がんセンターでは、1)緩和医療グループが多種職医療チームから成っている。このチームの特色を生かし、各種専門医療職とどのようなチーム体制をつくるべきか、組織作りを構築できる。2)50床という日本最大の緩和ケア有床ベッドが本院病棟内に25床と別棟に25床とがあることで、如何なるがん患者の要求にも対応できる体制がある。3)当センターが615床の病床数を有していることから、他施設より数多く各種臓器がん患者を効率的に調査できる。4)当センターには36の診療科があり各種臓器がんの特性を考慮したチーム医療のあり方の臨床研究が出来る素地がある。また、各臓器がんの専門家は本邦における最高の医療技術を有しており、過去に豊富な臨床経験を有しているので、的確ながん臨床判断ができる。5)がん専門看護師が多数おり、チーム医療のリーダーシップを発揮することが出来る。6)また看護職以外にも有能なコメディカルスタッフを有しているので、理想的なチーム組織を構築できる。7)当センター緩和医療科で緩和専門医、看護師やコメディカルの人材育成の場として提供できる。8)地域医療者との連携、住民の協力体制が得られやすい。
このような素地をもとに、緩和医療におけるチーム医療のあり方を、開院当初から模索してきた。現実的に病院が稼動して来る中でチーム医療を見直すと、種々の問題点が浮き彫りになってきた。以下これらの点に関して考察を加え、今後の方向性を明らかにしたい。
1、多職種チームの介入方法:
がん終末期患者・家族には多様なニーズと種々のハンディキャップを持っている。これらをどのようにくみ取り、優先順位をつけて解決してゆくべきか、だれがこれらを判断していくのか、さらに患者の容態も日々変動していることも加わると現実的に難しいことである。プライマリー・ディシージョンは患者家族にもっと近くにおり、頻回に接触している緩和医療者であるナースと医師が中心となることが本来であるが、これらの情報をどのように開示、提供していくべきかについても工夫が必要である。電子カルテなど電子媒体を介して提供される場合には、フェース対フェース機会が少なくなるので、誰もがリアルタイムにカルテ上で見る事ができるようにすること、毎日の患者引き継ぎ検討の際に適切に指摘でき、迅速に対応していくこと、などが必要となる。
2、チーム医療は何のために存在するのか:
患者家族の満足度、QOLを高めていくことに尽きる。終末期がん患者のへのケアの提供が、メディカル面に重点が置かれている現状にあることと医療者が患者ケア面の認識度が低いことも影響されて、対応が極めて遅いことが指摘さている。がん診断と治療初期からチーム医療が介入されるべきである。これには病院全体におけるシステムと医療者の認識を高める努力が必要であるが、緩和医療科のスタッフがより積極的に他の診療科への働きかけと診療への積極的な参入が必要と考える。
3、日常診療に合致した実用性の高いチーム医療への工夫:
日本における保険医療制度下では人的不足は今後も解決されことは期待できない、特に看護師以外のコメディカルは限られて少ない人員で多くの対象患者をケアしている。一同に会してフェース対フェースの検討する機会は限られている、また継続ケア面でも限界がある。解決には効率化と評価基準の作成が必要である。具体的な解決策として、(1)チーム構成員の情報の共有化を工夫する。電子カルテには患者のあらゆる情報が記載されているが、チーム医療の共有掲示板を設けて日常診療の問題点を誰もが提示できるようにすること。チーム医療をコーディネートするリエゾンナースをおき、患者の抱える問題の情報の収集にあたること。などである程度解決される。(2)患者担当の医師と看護師らがチーム医療が必要とされる問題点を明確にし、必要とされる専門家を集めリアルタイムに早期アセスメントとケアゴールを設定していく、またこれらを定期的に検証、評価していく。(3)各専門領域の評価基準を作成し、日常診療で検証、評価する。
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