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症例1
1. 症例1の概要
K.Y 年齢86歳(死亡時) 女性
病名は(1)混合型痴呆 (2)多発性脳梗塞 (3)高血圧症
 
2. 当院へ入院するまで
 結婚して3男1女をもうけた。77歳で夫が死亡し、以後、次男一家と同居していた。
 40歳頃から高血圧にて加療。平成2年(75歳)脳梗塞発症。右不全麻痺にて補装具を着用するようになった。平成6年(79歳)脳梗塞再発。入院加療後、自宅療養していたが、平成8年(81歳)ごろから昼夜逆転、物忘れから始まり、今いる場所、食事したかどうかもわからなくなり、失禁、ベッドからのずり落ち、転倒を繰り返すようになった。デイサービスや老健も利用したが、自宅療養限界との判断で平成11年2月12日(84歳)、当院入院となった。
 
3. 入院後の経過
 入院時、比較的よくしゃべって明るい印象だが、HDS−R0/30点と重度の痴呆、見当識障害、認知障害のため、自分の状況を判断できずに、立ち上がってしまうため、大変危険であった。
 トイレ誘導、廊下・ホールでの見守り、援助、夜間入床中の見守り、傾聴、語りかけ、タッチコミュニケーションの向上、レクリエーション、認知訓練、環境の整備(危険な環境の改善)等々スタッフの観察、援助、声かけ努力にも関わらず、わずかなすきをみての立ち上がり、介護への抵抗(ケアの拒否、払いのけ、引っ掻き)などがあって、転倒し、頭部、顔面、胸部、上肢の打撲、皮下出血といった受傷を繰り返した。また、感冒をきっかけとした気道感染もくり返し、対症的に安静加療するうち、徐々に自発的動き、発語が少なくなり、全般的な体力、活動性が低下してきた。スタッフの協力のもと、可能な限りの活動性の向上を目指したが、退行はすすみ、食欲、嚥下機能も徐々に低下した。
 平成13年10月31日朝、起床後少しして意識レベルが低下し、食事も摂れず、頭部CT検査にて右小脳の広範囲の梗塞と診断された。ご家族に連絡を取り、相談したところ、高度な医療、無理な延命治療は望まないとのご意向であり、補液、脳浮腫改善剤、抗生剤、酸素吸入などにて保存的に加療した。
 急性期を過ぎて11月8日ごろからはスタッフ、ご家族の呼びかけに開眼、うなずきもみられるようになった。しかし、嚥下能力の回復はみられず、徐々に黄色粘調痰、咳嗽出現、11月中旬には再び意識レベルが低下し、無呼吸もみられるようになった。
※ 徐々に一般状態悪化。体力低下が進行。12月に入って昏睡状態。血圧も低下してきた。ご家族も頻回にお見舞いに来られた。12月10日、一般状態不良のため、最期の近いことを告知。ご家族は患者さんに苦痛表情のみられないのをせめてものこととご納得され、最期の最期に間に合わないかもしれないことをご了解されてご帰宅。翌朝12月11日午前8時56分、一切の蘇生行為をせずに眠るように永眠された。
 
4. コメント 43日間
 向精神薬は入院直後、フルニトラゼパム(1mg)1/4錠を、4日間位、不眠は続いたがそれ以後は中止、夜間ベッドから起き上がりや、車いすに移動することがあったため本人がねむくなるまで車いす乗車でホールで過ごしてもらい見守りを行っていた。
 食べてもらう工夫はいろいろ行った。水分もむせが多く、とろみをつけ全介助であった。
 何度も転倒、その行動を家族はよく理解してくれた。「苦しめたくない」と脳外科病院への転院を家族は拒否した。当院でもほぼ同じ治療、意識レベル改善し、家族への肯き等もできてお別れできた。
 
症例1 資料
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症例 1 図表記
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