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III 研究の成果
 
1. 結果
(1)がんのEOLケアの割合・援助内容
 全業務量の中でがんのEOLケアに関わる割合は平均1.0割であり、77.7%が2割未満で占められていた。ホスピス・緩和ケア病棟を持たない機関では平均0.85割、ホスピス・緩和ケア病棟を有する機関では平均2.3割であった。
 医療スタッフから依頼のある援助内容については、“在宅援助”、“転院選定援助”が多く、“心理的サポート”、“患者・家族と医療スタッフとの関係調整”は少ないことが明らかとなった。また、ホスピス・緩和ケア病棟の有無で統計的有意差があり、特に一般病院ではMSWの専門的役割についての認知は不充分であった。
 
(2) がんのEOLケアにおけるMSWの認識
心理的サポート
 83.6%のMSWが重要性を感じていることから、がんの終末期ケアに関する心理的側面も踏まえたサポートの必要性は、MSW全体で認識されていることが判明した。しかし、MSWが担うことができるかについては、賛否に統計的有意差はみられなかった。自由記述からもそこまで介入していくべきであるとの意見が見られる一方、臨床心理士などの専門家に任せるべきであるとの意見も散見された。また、今の自分の力では不安であり、スキルアップ研修を設けて欲しいとの記載も多く見られた。そして、実際にできていないとの回答は92.1%であった。これについてホスピス・緩和ケア病棟の有無、専任・兼任で統計的有意差はみられなかった。また、対応できる環境にないと考えているMSWも半数いることが明らかとなった。
 
患者・家族と医療スタッフとの関係調整機能
 77.1%が重要であると回答しており、重要性についてはある程度認識されていると判明した。しかしながら、担うことができるかについては、“心理的サポート”同様に統計的有意差はみられず、意見の分かれる結果となった。そして、実際にできていないと回答したMSWは81.5%であった。また、ホスピス・緩和ケア病棟の有無では、有している機関が、さらに専任・兼任では専任MSWの方が、この機能を果たしていることが統計的に明らかとなった。したがって、患者・家族との信頼関係を築き上げた上で、そのニーズを聴き、思いを理解し、医療者側と良好な関係を構築できるよう支援するためには、それだけ深く関わることができる環境・体制が必要不可欠であると言える。
 
遺族ケア
 遺族ケアを行っているとの回答は62.2%であったが、そのうち80.7%は遺族が尋ねてこられた場合のみや電話があった時のみという受身的な関わりであった。さらに、90.5%のMSWは充分にできていないと回答しており、ホスピス・緩和ケア病棟の有無で統計的有意差はなく、いずれも充分なサポートができていないと感じていた。また、ケアの必要性については賛同群52.1%、否定群42.6%と意見が別れた。ホスピス・緩和ケア病棟の有無や専任・兼任による統計的有意差が認められなかったことから、所属機関を問わずMSW自身が、どこまで遺族ケアに関与するべきかの共通認識ができていないことが判明した。







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