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平成14年度(2002年)研究報告

 事業名 医学医療に関する研究助成
 団体名 笹川保健財団  


 本研究では、日本の末期肝がん患者が病名と余命を告知されなかった場合の、死の受容に至るまでの心理変化を明らかにした。その特徴として、以下の点があげられる。
 まず、患者には告知が行われないため、自分で病状や予後について推察する期間が存在することである。この間、患者は不安と疑い(第1−2ステージ)の中で、家族や医療関係者といった周囲の人間に対して、自分に真実を知らせないことに対する怒りと拒絶(第1−2ゲート)という感情を抱く。これは告知された患者の場合には、起こりえないプロセスである。
 次に特徴的なのは、患者が死を疑い始めたときに、まず死とは何かという一般論から、死についての思いを巡らせていく点である。死を告知された患者は心理的に自分の死から逃避することが困難であるのに対して、非告知の患者の場合は、その初期においては一時的に自分の死と直接対峙することを避けることができる。そのとき、患者は、まず一般論として死を考え、語り始める。しかし、この段階では患者は死は空虚なものであるとの結論に達し、その捕らえ方は否定的である。
 本研究結果が示す大きな特徴の一つは、察し合いのコミュニケーションであろう。患者は体調の変化の中で徐々に死の恐怖を感じ始めるが、周囲は何も言わないのでコミュニケーションが成立しない。そこで患者は同じ病室の人の死を話題にすることで、それに自分を重ね合わせて、自分の病状や死の可能性などについて、家族とのコミュニケーションを試みる。他人の死についてであれば、患者も家族に話しやすい上、患者に事実を隠しとおそうとしている家族の側も、その思いを表しやすい。両者とも患者の死について直接語ることなく、他人の死を通じて、患者の死に対する思いを察し合うのである。そうした中で、患者は自分の死に対する家族のつらさを認識し、家族から見守られている思いの中で癒されていく。
 本研究結果の最大の特徴は、患者の死の恐怖からの解放(第4ステージ)であろう。家族との察し合いのコミュニケーションは、患者を死の恐怖から解放する重要なきっかけとなる。自分の死に家族が苦しむ様子をみた患者は、心を打たれ、勇気を与えられ、思考が肯定的になっていく。そして患者は、人の一生における死を達観することで、死が人間にもたらす意義を肯定的に見出そうとする。また仏教の輪廻の思想を連想させる考え方を用いて、自らを励ましていく。そしてそれが死を肯定的に見る姿勢へとつながり、死の恐怖からの解放へと向かっていく。
 本研究の最後の特徴は、死の受容の段階で患者に見られる、これまでの人生への満足感や、終末期における心の平穏であろう。自分のこれまでの人生を語る患者の会話には、満足、幸せ、安らぎ、といった言葉が満ちている。また家族との間では、残された人生をともに暖かく穏やかに過ごしたいという夢が、明るく語られる。またそうした会話の端々には、残される家族に対する感謝の思いが満ちている。そして患者は、調査者に対する配慮さえ見せる。そこには、調査者の存在が患者の死の受容過程において一定の肯定的影響を及ぼしたことを感じさせるとともに、家族以外の他人に対する配慮をも忘れない、患者の心の余裕さえうかがうことができる。
 以上、本研究では、日本において病名および余命の告知が行われなかった末期肝がんの男性患者について、死の受容に至るまでの心理プロセスの変化が明らかになったが、最終的な死の受容の段階においては、調査者の当初の予想をはるかに超える、穏やかな心があった。しかしそれは、だから告知をしないほうがよいと主張するものでは決してない。なぜならば、患者は告知されなかったがゆえに不安や恐怖とたった一人で孤独に戦わざるを得なかった時期があり、そのことは患者に、告知された場合とは別の意味で、相当な苦痛を与えたと考えられるからである。また、死の受容のプロセスは、国やその人の持つ文化や宗教観、また性別や年齢なども、大きく影響すると考えられ、告知の有無だけによって、死の受容のプロセスと受容の内容が左右されるとは、考えられないからである。
 本研究では、これまで明らかにされてこなかった、日本の末期がん患者の、非告知の場合の死の受容に至るまでの心理プロセス変化が明らかにされた。それによって、末期がん患者に対する本人告知の行われることがまだ少ない日本において、終末期患者の心のケアに対する理解が深まり、よりよりケアを考える際の有用なデータとなれば幸いである。
 
IV 今後の課題
 今回の研究で非告知の末期がん患者の死の受容までの心理的プロセスを明らかにした。その中で家族というものが死の受容までに重要な役割をもっているのではないかということが本研究から示唆された。そこで、次の研究においては非告知の末期がん患者の家族にターゲットを絞って、患者の死の受容までの心理プロセスにどのような影響を与えているかを研究するつもりである。
 
V 研究成果等の公表予定
 本報告書と同時にこの研究成果を国際雑誌Social Science and Medicineに投稿する。
Title :What kind of Process do uninformed patients go through to accept the fact that they are going to die in Japan?
 
Figure 1. What kind of process do uninformed patients go through to accept the fact that they are going to die?
(拡大画面:43KB)







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