4. 結果
1)被験者数及び一般属性:51名、性別:女性、年齢平均:21.1歳(標準偏差1.94)
2)被験者の実習に関する状況
(1)実習時期:9月27名、10月24名
(2)実習病棟:病院3施設の成人老人が入院している病棟
(3)受持ち患者の状況
(1)健康段階:急性期2名、慢性期32名、予後不良及び終末期17名
(2)診断名:悪性腫瘍19名、代謝機能障害(糖尿病)8名、排泄機能障害(主に腎不全):11名、循環機能障害(主に心不全)8名、呼吸機能障害2名、その他3名
3)STAIの特性不安とCAとの関連
看護学生のCAが特性的な傾向として起きていないかを確認するために、特性不安とCAとの相関分析を行った。その結果、実習開始時、SST前、SST後のCAと特性不安との関連は認められなかった。
4)SST前後のコミュニケーション目標、CS、リレーション、CAの変化
SSTを行うことでコミュニケーション目標CS、リレーション、CAの変化を明らかにするために、対応のあるt検定で実習開始時、SSTの実施前、SST実施後(実習終了時)の各尺度得点を比較した。Table12−1参照
(1)CSとリレーションの変化
意味の伝達スキル及び感情の伝達スキルは、実習開始時に比べ実習終了時(SST後)には有意に上昇した。CS両尺度ともに、実習開始時からSST前までの変化と、SST実施後の変化を比較すると、統計的にはその差は認められない。リレーションは、実習開始時に比べ実習終了時(SST後)には有意に上昇した。その変化では、各リレーションは統計的にSST前には上昇がなく、実施後には上昇した。CSとリレーションの関係では、学生のCSと患者との関係性を示すリレーションとは対応した尺度である。このため、学生のCSが上昇すれば、患者の関係性を示す反応も増加する可能性があるが、SST前では、CSのみの変化に止まった。
(2)目標とCA
コミュニケーションで「情報の共有による相互理解」や「問題解決」をしようとするねらいは、実習開始後に比べ実習終了時(SST後)には有意に上昇した。両尺度ともに、実習開始時からSST前までの変化と、SST実施後の変化を比較すると、統計的にはSST後に有意な上昇が認められた。また、その傾向はCAも同様であった。
したがって、SSTを受けた51名においては、SST後には、CS、患者の関係性、目標は変化し、一般的リレーションを除き、有意水準1%で有意差が認められた。
5)コミュニケーション目標、CS、リレーション、CAの変化を群別に比較
学生が実習で受け持った患者の健康段階別に、急性期・慢性期を非終末期群(N=34)とし、終末期には至っていないが予後不良、終末期を終末期群(N=17)とした。その群毎に平均値を比較した。
(1)SST前後の変化の比較
両群のSST前後の変化は、おおむね同じ変化を遂げているが、CAには顕著な違いがあった。また、両群ともリレーションも数値的には大きな違いはないが、非終末期群では、調査対象の人数も影響して統計的には有意な変化を認めたという違いがあった。
終末期群はCAが実習開始時からSST前で低下せず、SST後では若干低下する程度であった。それに比べて、非終末期群では実習開始時より徐々に低下し、統計的にも有意差が認められた。また、各群の尺度得点を実習開始時、SST前、SST後で違いがあるかについて対応のないt検定を行った。その結果、実習終了時もCAのみ、終末期群が非終末期群に比べ、高得点であり、統計的にも有意差が認められた。つまり、終末期群は、非終末期群と同様に目標、CS、リレーションも上がっているのに、CAのみが低下しなかったとになる。( Table2−2、 2−3参照)
次に両群のSST前後の変化量の関連を明らかにするために相関分析を行った。その結果、非終末期群は、目標、CS、リレーションが正の相関を示し、目標、CS、リレーションはCAと負の相関を示した。つまり、SSTでCSが上昇することで目標も上昇し、CSが上昇することで患者との関係性も強くなったと解読する傾向があった。また、CAとの関連では、CS、目標、リレーションが上昇することでCAは低下している。それに比べて終末期群では、CS、目標、リレーションの各下位尺度間以外で関連が認められたのは、CSの意味の伝達とリレーションが負の相関、リレーションとCAとが負の相関であった。つまり、意味の伝達スキルが上昇しても、患者との関係性は上昇しないあるいは低下する。また、患者の関係性が低くなれば、CAは上昇するという関連があった。( Table2−4参照)
上述したことから、終末期群では、SSTでCSが上昇することでそれに見合った目標に上昇させることはできたが、患者の関係性を示す反応が低いと解読する傾向があった。その患者との関係性が低いと解読したことで、CAが高まったといえる。( Table2−4.
2−5参照)
(2)終末期群のCAに及ぼす要因
各尺度の変化量の相関から、CAに関連するのは、CSと患者の反応性の解読であるリレーションであると考えられたので、CS及びリレーションがCAに及ぼす影響をパス解析で検証した。
(1)SST前:CSの意味の伝達が患者の問題解決リレーションに影響を及ぼしていることを示すバス係数は.59で、一般的なリレーションヘのパス係数は.35であった。また、CAへのパス係数は−.61と−.32であった。言い換えれば、学生が患者と積極的に関わり、情報を共有しようとする意味の伝達スキルを獲得することで、学生は患者の問題解決に対する反応や対人関係を深めようとする反応は多いと解読する傾向にある。また、意味の伝達スキルが獲得されることで直接的にCAも改善する傾向にある。
CSの感情の伝達が患者の問題解決リレーションに影響を及ぼしていることを示すパス係数は−.34で、一般的なリレーションヘのパス係数は−.34であった。また、CAヘのパス係数は−.54と−.24であった。言い換えれば、学生が患者の出来事に対する感情を反映し、患者に要約して伝えても、患者の問題解決に対する反応や対人関係を深めようとする反応は低いと解読する傾向がある。また、感情の伝達スキルが獲得されることで直接的にCAも改善する傾向にある。 Fig2−2. 2−3
(2)SST後:CSの意味の伝達が一般的なリレーションに影響を及ぼしていることを示すパス係数は.30であった。しかし、それ以外のパスが極めて低い状況であった。また、CAへのパス係数も低かった。それに比べ、問題解決のリレーションがCAに及ぼすパス係数は、−.46で、一般的リレーションに及ぼすパス係数は−.57であった。言い換えれば、CSは獲得されても、患者の問題解決や対人関係を深めようとする関係性を示す反応が上がらなければ、CAは改善しない傾向にある。 Fig2−4. 2−5
上述したことから、予後不良や終末期の患者を受け持った学生は、急性期や慢性期の患者を受け持った学生とは、SST後のCAに対する反応が有意に高く、軽減しない傾向があった。そして、その要因としては、CSの欠損によるものではなく、学生との関係を築こうとしたり、患者の問題解決しようとしたり反応そのものから関係性を解読することが影響していた。しかし、決定係数が低いためにその説明率は低い。
6)CAの高さと目標の適切性との関連
CAと目標との関連を明らかにするために相関分析を行った。その結果、実習開始時、SST前、SST後のCAと目標との間に有意な相関はなかった。そこで、CAの平均値の高さを基準に、高群(N=16)、中群(N=20)、低群(N=15)の3群に分類し、群毎の目標の高さの違いについて分散分析を行った。CAの高群の内、終末期の患者を受けもっていたのは、11名であった。分散分析の結果、「情報の共有による相互理解」と「患者の問題解決」の2つの目標は、実習開始時、SST前、SST後ともに同じように変化した。それは、実習開始時では低群が最も高く、中群は最も低い。また、SST前では、低群が最も低く、高群が最も高い。しかし、統計的には有意差は認められなかった。SST後では、低群が最も高く、中群が最も低い。高群は中位であった。この二つの目標のうち、「情報の共有による相互理解」は、5%有意水準で有意差を認めた。
それ以外のCS、リレーションは、3回ともに、低群が最も高く、高群が最も低かった。つまり、CAの高い群では、学生のCSは低く、患者の関係性を示す反応は低いにも関わらず、目標は最も高いか、中位かという状況であった。それに比べ、CAの低い群は、初回の目標は高いが、SST前では最も低く、SST後は最も高くなった。また、CS、リレーションは3回ともに最も高かった。つまり、CSが高いにも関わらず、SST前では、目標を低く持ち、CSの上昇に伴い目標を高くする傾向があった。
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