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5. 考察
1)特性不安との関係
 マクロスキーは、CAは個人の特性から状況による連続帯のなかで位置付き、その分類には、特性、文脈、聴衆、場面の4つがあると述べている。さらに、最も不安が出現する割合が多いのは特性的な傾向をもつ場合で、それから文脈、聴衆、場面であるとしている。学生のCAはSTAIの特性不安との相関がないことから、特性的な傾向によるものであるといえる。そのことは、ターミナルケア場面の何らかの要因でCAが喚起されており、その要因が明らかになれば、CAは改善する可能性があるともいえる。
 
2)CSの獲得とCAとの関係
 これまで、ターミナルケア場面で喚起されるCAは、CSの欠損であるという指摘があった。確かにCSの不足はその場面における否定的な評価を受ける可能性を予期させる要因である。しかし、今回の研究ではCSが獲得されてもCAは改善しないことがあった。そして、パス解析において、CSがCAに影響するのは、CSが欠損していると認知している実習開始時やSST前においてである。また、患者の関係性を示す反応への解読も影響しない。しかし、SST後にCSが獲得されてからでは、患者の関係性を示す反応がCAに影響するようになる。つまり、学生がCSは獲得されたと認知する前では、CSはCAに影響し、獲得されたと認知した後は患者の関係性への反応への認知がCAを起こす。それは、学生が実習開始時やSST前では、患者のコミュニケーションの反応を解読することでCAを喚起していたのではなく、自己のCSでは患者の反応に対応できないと感じてCAが喚起されていた可能性がある。しかし、CSが獲得されれば、患者の反応を注意深く観るようになる。その結果、患者の反応が見えるようになったことで、そのコミューケーションの内容に対してCAを喚起するようになったと考えられる。
 ここでCSの獲得とは、患者の話を傾聴し、その意味や感情を伝えたりすることで積極的に関わろうとしたり、患者の考えを引き出し要約したりする行動である。このため、患者は安心して本音を語れるようになる。また、学生にとっても患者との親近感を増すことにもなる。しかし、このような関係において、患者は、死への思いや不安、虚しさなどネガティブな情動も表出しやすくもなる。そのスピリチュアルな苦悩ともとれるコミュニケーションの内容は必ずしも、学生が解決したくてもできない内容もあると予測される。著者の先行研究によれば、学生は患者の心理状態が抑うつ、怒りなどのネガティブな状態であるとCAが増強する傾向があることが明らかになった。また、学生の情動は患者の情動への認知と関連する傾向もあった。つまり、実習開始時では患者とのコミュニケーション場面では患者と多くコミュニケーションが取れるためにCSの欠損はCAの喚起に影響するが、CSが獲得されることで患者のコミュニケーションの内容がCAを喚起させる可能性がある。
 本研究では、どのような内容をどのように認知するかでCAを喚起させているかは明らかにできない。したがって、その検討は今後の課題とする。
 
3)コミュニケーションの目標設定とCAとの関係
 ターミナルケア場面における学生のCAの要因として、コミュニケーションの目標の適切性について検討した。その結果、全体的には、目標の設定とCAとに関連は認められなかった。しかし、CAが高い学生の中には、目標設定を高くする傾向もあった。つまり、学生のCAには、目標設定の高さが影響していることも考えられるが、その傾向を統計的に証明するまでには至らなかった。
 また、コミュニケーションの目標には「情報の共有による相互理解」と「患者の問題解決」との2つの側面がある。その二つの内容的なことから考えると、目標の達成状況としては、「情報の共有による相互理解」の達成がなされてのち、「患者の問題解決」の達成を目指すと考えられる。しかし、学生の目標設定は、同時期にほぼ同じ程度の目標の達成状況をねらう傾向がある。また、患者との対人関係が十分にはかれていないときから、患者の問題解決をコミュニケーションで図ろうとする傾向がある。これは、恐らく、看護教育が学生に限られた期間で患者の問題を抽出し、援助計画の立案・実施をねらうことが影響していると考えられる。しかし、この傾向は、患者との対人関係が築けず、相互理解ができないときに問題への介入をすることになるので、必ずしも患者の個別性を考慮した援助を実施する可能性を低くさせることにもなる。患者との相互理解が深まらないと、患者も本音をうち明けようとはせず、終末期患者への暖かいケア、つまり、ホスピスケアを提供することは困難であると考える。
 終末期患者へのホスピスケアは、これまでの看護が展開してきた問題解決志向で対象をみようとすると、患者の問題のある部分だけを情報としてとらえようとする傾向が起こる。しかし、一般的に人々は個人の弱い部分だけを知ろうとする人に、安心して自己開示ができるであろうか。終末期の患者であっても人生の強さがあったり、弱さがあったりする。学生がまず、目の前にいる患者の強さも弱さも知ろうとすることがケアを検討するまえに不可欠である。その結果に成立した対人関係を基盤として、ケアを相談しながら選択することで患者の感じている問題を解決することができると考える。
 したがって、学生のコミュニケーションに対する不安を検討するうえには、コミュニケーションの目標設定を検討する必要がある。しかし、それは、コミュニケーションのスキルや患者との関係性から、その順序性も併せて検討することが重要である。







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