日本財団 図書館


3. 研究の成果
◎院内緩和研究会の成果
 毎月の例会には毎回20人から30人の看護師を中心とする人が集まり、症状コントロールのスキルアップを図ることが出来た。残念ながら医師の参加は毎回少なかった。
 ケースカンファレンスをすることで、例えば頭頚部腫瘍の場合には、例会参加者が耳鼻科病棟に戻り、同じような症状の患者さんの症状コントロールに活かせるようにできたと考えている。ケースカンファレンスは、実際の病棟で症状コントロールに悩む医療者からリポートしてもらい、どうすれば良好な医療を提供できるか全員で考える体制をつくることができた。
 また、ケースカンファレンス以外のテーマを決めた勉強会ではセデーションについて:参加者40名 放射線治療:参加者30名 呼吸困難:参加者 33名 
 デュロテップパッチについて: 参加者 42名 内富庸介先生の「がん患者の心の反応とその変調への対応:サイコオンコロジーの視点から」 参加者 75名 とテーマを決めた勉強会の時には参加者が増加した。また各勉強会の後には活発な質疑応答が行われた。勉強会によって実践的な知識を得ることができた。
 実際の現場である病棟では、日々がん終末期患者に対する症状コントロールの知識不足に悩み、知識習得のニーズが高いことが判明した。
 会を重ねるごとに、緩和ケアチームのメンバーになる医療者が増え、チーム結成直後は外科医1名、麻酔科医1名、看護師1名、薬剤師1名の計4名での出発であったが、その後内科医、放射線科医の参加、臨床心理士、悪性疾患を扱う病棟婦長がチームに加わった。今回の研究助成金より、緩和ケア関連の図書を購入し、勉強会に利用した。
 
◎患者、家族向けの院内緩和ケア講習会の成果
 毎回10名前後の参加者ではあったが、計163名の参加者があり、105名よりアンケートを回収することができた。内訳は患者本人より51名、家族、その他より54名であった。患者本人からは、がんによる苦渋の体験談、受け持医との終末期医療における思いの相違、在宅での疼痛治療法について、モルヒネを投与されていたが、事前に副作用対策の話や、実際にその対策がなされていなかったことへの不満。家族からは精神的、霊的苦痛についての家族の対応の仕方、患者とは別個に家族に対するケアをして欲しい、などの要望、意見を得ることができた。実際に、このような要望から、緩和ケアチームが現場に介入し主治医と情報交換したり、疼痛治療に対してアドバイスを加えたり、在宅緩和医療医の紹介、近隣緩和ケア病棟への紹介など、橋渡し的な活動をすることもあった。毎週定期的に緩和ケアチームの回診を行っているが、さらに活動の場を広げている。
 
◎外科医師へのアンケート調査
 アンケート結果では急性期患者に時間が取られて、終末期患者に十分な医療、ケアができない。終末期患者がすごす場所として現在の一般病棟は適切ではない。現在の診療体制では、ゆっくりと患者、家族と接する時間がないと6割以上の外科医が回答した。またがん終末期患者を受け持つことで医療者自身に生じている問題として、個々の患者の治療や看護が行き届いていない。ストレスや疲労が増すと6割以上の外科医が回答しているが、終末期患者を誰かに任せてしまいたいという項目では、そう思わないと半数の外科医が回答しており、外科医自身もがん終末期患者に対する関心はあると思われた。
 次にがん終末期患者の症状としてもっとも多く認められる疼痛に対してのWHO 3 step ladderについては、残念ながら良く知っていて使えると答えたのは5名(9%)であり半数の29名(50%)の外科医は、名前だけ聞いたことがある、あるいはよく知らないとの回答であった。すでに、WHO 3 step ladderは緩和ケアにおける疼痛対処法の基本として普及しているが、現実問題として当院の外科医にはまだまだ普及しているとはいえない状況であった。WHO 3 step ladderを知らないと回答した外科医の内訳は卒後5年目までが8名66%(8/12)、若手医師の指導医となりうる11年目以上の外科医が84%(16/19)という結果であり、若手医師を指導する立場の外科医に啓蒙されていないことが問題であると考えられた。
 モルヒネ単独でとれない痛み、直腸癌術後局所再発時などに生じる神経因性疼痛などで使用する鎮痛補助薬についての設問では、ほぼ大半の医師が使いこなせていない状況であった。
 
◎研究会への参加
 東邦大学医学部では医学部学生に対する緩和ケアの講義が麻酔科で一時限しか設けられていない。医師になって実際にがん終末期患者の受け持ち医となっても、有効な症状コントロールの方法、コミュニケーションスキルの方法などは残念ながら学習する機会がない。以前からのパターナリズムの延長、各医師個人のフィロソフィーに則ったがん終末期への対処が行われていた。そこで、緩和ケアチームのメンバーが一般医療者に研究会への参加を呼びかけ、緩和ケア病棟、ホスピスで働く現場の医療者との交流をはかることで少しでも緩和ケアとの接点を持つ機会を増やした。
 城南緩和ケア研究会では東邦大学医学部付属大森病院の周辺地域との、がん終末期患者をめぐる関連施設との問題点を考える機会を得た。また第4回城南緩和ケア研究会を緩和ケアチームが主催することで、積極的に院外へも活動をアピールすることができた。多施設緩和ケア研究会は首都圏の緩和ケア病棟、ホスピスで働く第一線の緩和医療者から構成されており、この研究会への参加で最新の緩和医療に関する情報を得ることができた。
 大学病院の緩和ケアを考える会に緩和ケアチームから世話人を派遣することで他大学の活動状況を知り、全国の大学内で活動する緩和ケアチームのノウハウを得ることができた。2004年6月には「第10回 大学病院の緩和ケアを考える会総会」の主催校として推薦されるにいたった。
 
4. 今後の課題
 今回の研究期間の活動を通じ、今後の課題として以下の問題点があげられた。
◎緩和ケアの概念、知識の普及、啓蒙について
 緩和ケアチームの活動を通じて、病院全体に緩和ケアの名前だけは誰もが知ることになったが、いまだに関心を持てなかったり、独自の理論、方法でがん終末期医療を行っている医療者が存在すること。
 若手医師を教育する指導医レベルの啓蒙が必要である。
 医学部教育の中に緩和ケアやコミュニケーションスキルの講義数を増やし、研修医の段階では基礎的知識を理解できるようにすることが重要であると考えられた。
 講義に関しては緩和ケアチームから大学へ提案中である。
 
◎緩和ケア外来の必要性
 患者、家族のニーズは、症状コントロール、精神的援助、医療者とのコミュニケーションの問題など、多様であることがわかったが、月2回の院内緩和ケア講習会における相談のみでは充分な時間をとることができない。可能であれば、緩和ケア外来開設の必要性が考えられた。(回診で介入しているケースは除いて)
 
◎緩和ケアチーム医師の専任化
 現在、緩和ケアチームは筆者をはじめ、医師は全員所属科との兼任医である。
がん性疼痛認定看護師も、一般外科病棟勤務との兼任で活動しており独立した医療部門として病院内に位置することが必要であると考えられた。
 
◎精神科医の必要性
 昨年より緩和ケアチームの診療報酬加算が行われるようになった。しかし、厚生労働省の決定した緩和ケアチームの正式基準には、専任精神科医の参加が条件としてあげられている。現在は、チーム内の医師全員が兼任であることに加え、心理療法士の参加はあるが、精神科医がチームに参加していない状況である。現在、精神科に要請しているが、早急にこの問題を解決したい。
 
◎緩和ケア病棟開設について
 現在東邦大学医学部付属大森病院は、2004年に200床増床のための新病棟建築中である。新病棟建設後は病院執行部により緩和ケア病棟開設の構想もあげられているが、現状はハードウエア、ソフトウエアの充実をはかることが最優先であると考えられた。
 
5. 研究の成果などの公表予定
学会発表
 すでに昨年、戸倉が下記の学会で発表した。
「当科における消化器末期癌患者の対応−緩和ケア病棟と比較して−」
第57回 日本消化器外科学会総会 京都、2002.07
「教室における緩和ケアへの取り組み」
第64回 日本臨床外科学会総会 東京、 2002.11
今後の学会発表予定
平成15年6月 大学病院の緩和ケアを考える会総会
「緩和ケアチームを立ち上げて」という演題で緩和ケアチーム、がん性疼痛認定看護師の下条奈巳がシンポジストとして発表予定である。
 
論文
 戸倉により「緩和ケアに対する教室の取り組み」の題名で日本臨床外科学会雑誌に投稿中である。
 また、学内雑誌東邦医学会誌に「東邦大学医学部付属大森病院に緩和ケアチームを立ち上げて」という題名で投稿準備中である。 以上







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION