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6. 東邦大学医学部付属大森病院における緩和ケアチームの運営に関する研究
東邦大学 医学部外科学第一講座・助手 戸倉夏木
 
平成14年度笹川医学医療研究財団研究報告書
1. 研究の目的・方法
目的
 緩和ケアとは治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾患を持つ患者に対して行われる積極的で全人的な医療である。またこのようなケアが行われる場が緩和ケア病棟、ホスピスである。がん終末期における緩和医療のニーズの高まりから全国的に緩和ケア病棟、ホスピス病棟が増加している。しかし、これらの施設で最期を迎えることのできる患者は、1年間にがんが原因で亡くなる患者の数%にしか充たない。厚生労働省も医療財源費の見直しの中、がん終末期医療に重点を置き、全国のがんセンターをはじめ、大学病院、地域の中核病院への緩和医療の普及を提唱している。
 東邦大学医学部付属大森病院は東京城南地区の特定機能病院として位置づけられており、高度先進医療を実践している。がん患者の診療も全体の中に大きな比重を占めている。その中で不幸にして治癒不能になる患者も多く存在し、そのほとんどは急性期患者との混合病棟という条件下で十分なケアが受けられているとは言い難い状況であった。また医療者の緩和医療の知識も他施設に比べ、残念ながら満足といえるものではなかった。そこへ、川崎社会保険病院緩和ケア病棟より筆者が帰院、大学病院看護部よりがん性疼痛認定看護師が誕生し、両者により2001年5月には草の根的な緩和ケアの普及活動が行われるようになった。2001年11月には正式に院長直属という形で院内緩和ケアチームが発足し、大学病院医療者に対する緩和ケアの啓蒙、普及、将来の院内緩和ケア病棟設立を目標として活動を開始した。
 今回の研究目的は、緩和医療に立ちおくれた一大学病院で緩和ケアチームを運営していくのにどのような問題点があるのか知ること、また今後の活動内容の指標を得ることである。
方法
 本研究の開始月である平成14年4月より、毎月第4木曜日に院内医療従事者(医師、看護師、薬剤師、その他のCo-medical staff)を対象とする院内緩和ケア勉強会を開催し、がん終末期患者を扱う医療者に緩和ケアの知識の啓蒙、スキルアップをはかる。現場から出る意見を拾い上げ検討する。これと平行し、毎月第2、4木曜に患者、家族のための院内緩和ケア講習会を開き、がん疼痛治療を解説し、同時にアンケートを実施。普段医療者に直接話すことのできない疑問、悩み、がん終末期患者の抱える問題点を拾い上げた。
 筆者は外科学講座に所属しているが、今回は東邦大学医学部付属大森病院でがん患者を扱う外科医師にがん疼痛対処法に関する認識状況をアンケートにて調査し検討する。
緩和ケアにおける情報交換の場として、また緩和ケアチーム運営上の問題点を知るために研究会に出席する。
 平成14年6月の第8回「大学病院の緩和ケアを考える会総会」に緩和ケアチームとして出席し、他大学との情報交換、交流した。平成14年6月には地域医療機関との情報交換のための「第4回城南緩和ケア研究会」を緩和ケアチームとして開催した。その他、多施設緩和ケア研究会に参加し、第一線の緩和ケア、ホスピスに従事する医療者と交流しスキルアップをはかった。
 これらの活動をもとに、東邦大学医学部付属大森病院における緩和ケアチームの運営に関してのノウハウを得る。
 
2. 研究の内容・実施経過
◎院内緩和ケア研究会
 以下の内容で院内緩和ケアチーム研究会例会を施行した。
平成14年4月:ケースカンファレンス
1)病棟にて疼痛コントロールが良好であった症例
 S状結腸癌 多発肝転移 仙骨浸潤の1例
2)病棟にて最期まで疼痛コントロールをはじめとする諸症状、および家族ケアが良好に経過した若年者膵頭部癌の1例
平成14年5月:ケースカンファレンス
喉頭癌をはじめとする、頭頚部腫瘍による疼痛管理
平成14年6月:ケースカンファレンス
肝臓癌末期の症状コントロールについて
平成14年7月:勉強会 がん終末期患者に対するセデーションについて
平成14年8月:勉強会 がん終末期医療に関する放射線治療の役割
平成14年9月:緩和ケアの経験のある一看護師の講演
「私が経験した緩和医療」
戸田中央病院 緩和ケア病棟経験者 八田看護師を招いて
平成14年10月:勉強会 呼吸困難を生ずるがん終末期患者の症状コントロール
平成14年11月:勉強会 新しい強オピオイド製剤であるフェンタニール
貼布剤 デュロテップパッチの使い方について
平成14年12月:勉強会 国立がんセンター研究所支所部長
内富庸介先生を招いて
「がん患者の心の反応とその変調への対応:サイコオンコロジーの視点から」
平成15年1月:ケースカンファレンス
緩和ケアチームにコンサルテーションを受けた患者の検討
平成15年2月:勉強会 再度モルヒネの使い方を見直す
計11回の院内緩和ケア研究会を実施した。
 
◎院内緩和ケア講習会
 がん患者またその家族のための院内緩和ケア講座を毎月偶数週の木曜午後に
 がん患者の入院しうる各病棟をまわり開催した。この講習会ではがん終末期における疼痛治療方法としてのWHO 3 step ladderを説明。モルヒネに対する誤解を解く。モルヒネ使用に際しての副作用とその対策。がん患者の持つ社会的、精神的、霊的な苦痛について解説した。また会の後、個別に相談を受ける時間を作った。
 平成14年4月以降、休日などの理由で開催されない日を除き、本研究期間内に計15回の講習会を実施した。参加者は計163名であり105名からアンケートを回収した。
 
◎外科医師へのアンケート調査
 外科医のがん終末期医療に対する意識調査としてアンケートを実施した。東邦大学医学部付属大森病院第1、第2外科および胸部外科に所属し、がん終末期患者の受け持ち医になり得る58名を対象とした。内訳は研修医を含む卒後5年目までが17名、6〜10年目までが12名、11年以上が29名の計58名であった。
 アンケート内容はがん終末期患者に対する医療の中で感じること、および一般外科病棟に終末期患者と急性期患者が混在することにより生じる問題について、さらにがん終末期患者の主訴として最も多い疼痛対処法について設問した。
 
◎研究会への参加、主催など
 平成14年6月
 第8回大学病院の緩和ケアを考える会総会に参加
1 活動報告および事例検討「大学病院における地域との連携」
2 セミナー「緩和ケアにおけるアウトカムとQOL評価」
3 シンポジウム 「大学病院における緩和ケア病棟のあり方を探る」
 上記の内容で総会が開かれ、緩和ケアチームのメンバーが参加し他大学の緩和ケアチームの現状、大学病院内への緩和ケア病棟の設置にあたる情報などを交換した。
 
平成14年7月
第4回城南緩和ケア研究会を主催
テーマ:「緩和ケアにおける他職種の役割」
薬剤師 心理療法士の立場から
シンポジウム:「モルヒネ依存の誤解を解く」
星薬科大学 薬品毒性学教室 鈴木 勉先生を招いて
 
平成14年8月
第3回多施設緩和ケア研究会に参加
テーマ:呼吸困難
1 「薬物治療拒否傾向の強い患者での呼吸困難への対応」
2 「モルヒネによる呼吸困難の緩和が可能であった症例」
教育講演:「呼吸困難緩和のための呼吸理学療法」
 
平成14年12月
第4回多施設緩和ケア研究会に参加
テーマ:リンパ浮腫
1 「神経因性疼痛と蜂窩織炎を伴ったリンパ浮腫」
2 「乳癌術後再発患者のリンパ浮腫」
教育講演:リンパ浮腫の病態生理と治療
 
第5回城南緩和ケア研究会に参加
平成15年1月
テーマ:「緩和ケアにおける訪問看護師の役割」
シンポジウム:病診連携の問題点をさぐる







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