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平成14年度(2002年)研究報告

 事業名 医学医療に関する研究助成
 団体名 笹川保健財団  


4. ターミナル期の患者を持つ家族に対する看護職の「共感」に関する研究
東京大学大学院 医学研究科家族看護学分野・修士課程 北野和代
 
I 研究の目的・方法
1. 目的
 一般に患者中心看護の中、看護職にもそして患者を介護する家族自身にも、家族は患者の背景として捉えられる傾向がある。一方、ターミナル期では患者のみならず、家族もまた看護を必要とする存在であり、従来からホスピスなど緩和ケアを実施する施設(以下緩和ケア)では、家族とのかかわりも重要な看護と位置付けられてきている。
 患者や家族とのかかわりには感情の交流をともなう。ターミナル期は死に直面する不安や恐れなど激しい感情反応が患者や家族に生じるため、彼らの感情に影響されて看護職にも、様々な感情反応が生じる。看護職に生じる感情反応には共感的な感情や否定的な感情も存在する。看護職に生じた感情によって、提供される看護ケアが異なったという報告もあり、看護職の感情は看護の重要な要素の一つと言える。従って、ターミナル期の患者を含めた家族への具体的な看護を考えるために、患者や家族とのかかわりにおける看護職の感情に着目することは重要であると考えた。
 そこで、本研究はターミナル期において看護職は家族を含めた看護をどのように捉え、実践しているのかを明らかにするために、以下の2点を具体的な目的とした。
(i)ターミナル期の患者と家族とのかかわりにおいて、看護職が感情反応を生じるような場面に対する看護職の感情と背景因子との間にはどのような関連があるのかを調査する。
(ii)ターミナル期の患者や家族の看護を専門としている緩和ケアの看護職は、一般病棟の看護職と比べて、ターミナル期の看護場面に対する感じ方にどのような違いがあるかを調査する。
 
2. 方法
1)本研究の目的を満たす調査票を作成するために、文献検討を実施する。
2)実際にターミナル期の患者を看護している看護職へ面接調査を実施し、調査項目を検討する。
3)ターミナル期の患者や家族とかかわった経験のある看護職に対して予備調査を実施し、本調査票作成のための分析検討を行う。
4)文献検討、面接調査、予備調査の検討ののち、本調査に使用する調査票を作成する。
5)調査対象者を選定する。
6)調査対象者に調査票を配布回収する。
7)調査結果を分析する。
8)分析結果について、文献検討を実施し、内容をまとめる。
 
II 研究の内容・実施経過
1. 本調査票
1)ビニエット法(vignette method)
 本研究はビニエット法を用いて、ターミナル期の看護場面に対する感情を尋ねた。ビニエット法とは仮想的に設定された場面を使用して調査する方法である。ビニエット法は観察法に比べて、時間とコストが低いこと、プライバシーが侵害されないため倫理的なジレンマが少ないこと、フォーカスされたリサーチクエスチョンに対して多数の集団に実施でき多量のデータを得られることが利点としてあげられる。また、直接的に見解を尋ねる質問に比べて回答者の抵抗感が少なく、答えにくい内容についても回答が得られやすい方法である。一般的に質問に回答する際に回答者によって想起される場面を、ある程度一定にコントロールすることも可能である。今回の研究テーマのようにターミナル期の看護場面のような倫理的な配慮を必要とし、さらに看護職の感情や行動などのセンシティブな内容を観察することは非常に難しい。ましてや、否定的な感情をも対象とするには、回答者の個人的な見解が脅かされにくい方法であるビニエット法が適していると考えた。
2)設定された場面
 それぞれの場面の内容はターミナル期の看護において、患者や家族の感情が特徴的であり、看護職にも感情反応が生起すると想定される場面とした。場面のテーマは、1. 感情を表出しない患者、2. 不安を表出する家族、3. 怒りを表出する患者、4. 病状(死)を受け入れられない家族、5. 怒りを表出する家族である。例えば、場面3は以下のようなシナリオであった。
患者:80代 男性
経過:手術、化学療法を行ったが、肺に転移が見つかった。高齢なため積極的治療は行わない方針となった。患者は普段から何か気に入らないと「うるさい。あっちへ行け。」と物を投げたりし、多くのスタッフがそのような場面に遭遇し、難しい患者と捉えていた。患者の体力は徐々に落ちてきていたが、今なら介助のもとで入浴することができるため、ある日入浴を勧めると、突然「もうかまわないでくれ!」と怒り出した。最近家族はほとんど面会に来ていない。
3) 質問内容
(1)場面に関する質問
a)場面に対する感情
 各場面のシナリオに続き、場面に対する感情として設定した13項目の質問を「感じる」、「どちらかといえば感じる」、「どちらかといえば感じない」、「感じない」の4件法で尋ねた。13項目のうち4項目は各場面に対する印象を尋ねた。質問内容とラベルは以下のように、「このような場面に出会ったら、つらいまたはしんどいだろう(つらい)」、「このような場面に出会ったら、避けたくなるだろう(回避)」、「このような場面に出会ったら、積極的にかかわるだろう(積極)」、「感情に影響されずに看護するだろう(感情管理)」と設定した。9項目には場面の中に登場する患者、家族、スタッフに対する共感的な感情をそれぞれ「心情を思って身につまされるだろう」、「このような態度をとるのは自然なことだろう」と尋ね、「患者共感」、「家族共感」、「スタッフ共感」とラベルをつけた。否定的な感情も同様に「怒り、非難、嫌悪などを感じるだろう」とそれぞれに尋ね、「患者否定」、「家族否定」、「スタッフ否定」とラベルをつけた。また、自分自身に対する肯定的な感情を「役に立つだろう(自己肯定)」とし、否定的な感情を「無力であるだろう(自己否定)」とした。共感と否定感情以外の項目として「家族の態度に関係なく患者を看護するだろう(患者中心)」も設定した。
b)患者と家族に対する志向性
 各場面で看護する際に心の中に占める患者と家族の割合を尋ねた。100mmの直線上に分割する線を書いて、左側を患者、右側を家族の割合として表現するよう求めた。
(2)場面と独立の質問
a)背景因子
 年齢、性別、臨床経験年数、病棟、教育歴を尋ねた。
b)経験
 介護経験、身内の看取り経験、「よい看取り」の経験を、「あり」「なし」の2件法を用いて尋ねた。
c)家族看護の志向性
 ターミナル期の看護をする際の家族の捉え方として家族看護の志向性を1.家族まで考えがおよばず、患者のみが対象となることが多い、2.家族に介入するが、患者の背景として捉えることが多い、3.患者と家族両方を同じレベルで捉え、問題を持つ家族成員に必要な介入を考えることが多い、4.家族を一つの単位として捉え、家族間の相互関係も含め総合的に捉えようとすることが多い、の4分類で尋ね、1と2を家族看護志向なし、3と4を家族看護志向ありとした。
d)調和性
 性格についてはNEO‐FFI性格検査の調和性の部分を使用した。
 
2. 調査の実施
1)対象
 本研究の対象者は調査協力の得られた都内にあるA特定機能病院とB一般病院の緩和ケア病床担当と一般病棟の看護職125名であった。一般病棟はA病院29病棟のうちターミナル期の患者が比較的多い病棟として看護部の教育担当責任者によって推薦された5病棟(内科系3病棟、外科系2病棟)であった。
2)調査時期
2002年9月〜10月に無記名自記式質問紙による調査を実施した。なお、調査への同意の有無については書面にて確認した。
 
3. 分析
 統計的な解析には統計パッケージSAS Windows 版 ver.8.2を使用した。
質問項目間の関連を探索的にみるために、全ての組み合わせについてクロス表をつくり、独立性の検定(Fisherの正確検定)を実施した。
背景因子である病棟、年齢、教育と場面の4項目を要因として、感情の13項目と患者と家族の志向性のロジスティック回帰分析を実施した。また、家族看護の志向性と調和性については、場面と独立の項目であるため、場面を除いた3項目を要因として、ロジスティック回帰分析を実施した。







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