日本財団 図書館


I. ホスピスケアに関する研究
1. がん患者がサポートグループにおいて人生の意味を見いだすプロセスと看護者の関わり
―生きる責味の変化とサポートグループの影響―
 
札幌医科大学大学院 保健医療学研究科 川村三希子
 
I. 研究の日的・方法
1. 研究目的
 がんの5年生存率は着実な改善を示しており慢性疾患として位置づけられるようになったが、未だ人生を脅かす病気としても存在し続けている。がん患者が、病気や人生に意味を見いだそうとすることは、苦痛に耐える力と希望を獲得しようとすることで、肯定的対処と捉えられスピリチュアリティに含まれる概念として位置づけられる1)。がん患者が病気や人生の意味を見いだすプロセスの研究は、診断を受けたばかりの早期の患者、あるいは終末期の患者を対象にしたものであり2)4)、わが国では、慢性期にあるがん患者を対象とした研究は少ない。本研究では、慢性期にあるがん患者は、どのような生きる意味をもっているのか、それはがんの罹患によって、どのように変化するのか、また、サポートグループ5)はその変化にどのような影響を与えていたのかを明らかにし、慢性期のがん患者をどのようにサポートしていくかという看護援助を検討することを目的とする。
 
2. 研究方法
 グラウンデッド・セオリー・アプローチによる質的研究を選択し、データは、面接調査法(個別面接とフォーカスグループ・インタビュー)と参加観察法で収集した。
(1)面接調査法
 S市で行われているNPO主催のがん患者のサポートグループに参加している、診断後1年以上経過し終末期以前のがん患者8名を対象とした。面接内容は、対象者の許可を得て全て録音した。
(1)個別面接
 個別面接は8名中7名に半構成的質問により、1名につき、1回を行なった。面接時問は60分〜120分であった。
(2)フォーカスグループ・インタビュー
 8名中、同意が得られた3名を1グループとし、120分の半構成的グループ面接を1回行った。
 
(2)参加観察法
 S市とT都で開催されているサポートグループ3カ所に対し、それぞれ1回づつ参加観察を行った。各グループとも観察の内容は、「がん患者はどのようなことに直面しているのか」ということを中心に観察した。参加観察後に観察した内容と研究者が感じたことをメモにとった。グループの参加者は、3〜4名であった。
 
3. 分析方法
 データ分析はグラウンデッド・セオリー・アプローチに基づいて行った。
II. 研究の内容・実施経過
1. 面接調査法の対象者の概要
 対象者の概要は表1に示した。対象者は、8名のがん患者で、男性が3名、女性が5名であった。年齢は、男性が65歳〜72歳、女性が39歳〜55歳であった。本研究の対象者は、サポートグループに主体的に参加したり、インターネット上の患者会に入会し情報交換するなど、主体的な対処行動をとることができるという特徴があった。
 主病名は、乳がん3名、大腸がん2名、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がんが各々1名であった。診断からの期間は、2年6ヶ月〜17年であった。対象者のうち7名にはがんの再発・転移が認められ、1名には認められなかった。7名の方が病名を告知され転移・再発について医師から説明されていた。1名は、診断書を見てがんであることを知っていた。
 
2. がん患者の生きる意味
 がん患者の生きる意味について分析した結果、図1に示すように、《時間に対する意味》《存在に対する意味》《揺らぎ》という3つのコアカテゴリーが見いだされた。《時間に対する意味》《存在の意味》は2つの交差する軸で表され、《揺らぎ》は2つの軸に共通したカテゴリーであった。存在の意味には“自己”と“関係性”という2つの側面があった。全てのケースが時間と存在について、自分なりの意味づけをしていた。がんになってすぐに生きる意味を考えたケースもいたが、再発してはじめて生きる意味を考えはじめたケースもあり、疾患の進行度とこの意味づけを行う時期は一致しなかった。
 以下、導き出されたコアカテゴリーと各々のカテゴリーについて論述する。本論文では、コアカテゴリーは《 》、カテゴリーは【 】で示した。また、カテゴリーを説明するために、データから内容を端的に表している部分を引用した。その中で、内容の理解が難しいと思われる部分には( )で補足した。
 
3. 《時間に対する意味》
 第1のコアカテゴリーの時間に対する意味とは、自分の持ち時間をどのように捉えているかという認識を表している。がん患者は、図2に示すように自分の生きていく時間に対する意味が、【時間がある】から【時間は不確かである】【時間がない】という限りのあるものに変化した。がんに罹患した時から、時間の意味が変化したがん患者もいれば、がんが再発して初めて時間の意味が変化したがん患者もおり、時間の意味は主観的なものであった。がんに罹患する前は健康に自信をもっていた、また、例えがんに罹患していても死を自分のこととして考えていない等、時間の限りについては意識せずに【時間がある】、という認識の中で生活していた。しかし、その時間は、がんの罹患、がんの再発によって突然、限りがあるものになる。しかもその時間の長さは予測不能で不確かであり、がん患者の時間の意味は、治療の成果によって、【時間は不確かである】と【時間がない】、という曖昧な中で揺らいでいた。ほとんどのケースは【時間は不確かである】、という中におり、不確かな時間の中で、その時、その時を生きていく、という態度に変わっていた。
 以下に《時間に対する意味》を構成する3つのカテゴリーについて述べる。
 
1)【時間がある】
 このカテゴリーは、将来に対する時間が保証されていると確信していることを表している。死について考えたことはあっても、それは他人事であり自分の身におきることとしては捉えていなかったり、自分の人生に展望を持ち、将来の計画を立てたうえで毎日の生活を送っていた。
 
「まずね、死だなんてこと、考えたこともなかった。」事例E
「普通に結婚したら、普通に子どもを持ち、生きていく過程として、それがごく自然なことという思いがあったんですね。」事例B
 
2)【時間は不確かである】
 このカテゴリーは、時間の長さが曖昧で、不確かであると認識していることを表している。がん患者は、ゴールの見えない治療の中で見通しをもった行動ができず曖昧な時間の中にいた。また、命の長さが限られていることを意識して生活し、思い残すことがないように行動していた。
 
「がまんしていても、もしかして半年先にはわかんないかもしれないから言いたいことは、その時、その時でやっていこうみたいな感じで。今は割りとがまんしないでのびのびとやっています。」事例A
「3ヶ月後の旅行を一緒に行きましょうって言われても、こっちは治療している身だったら3ヶ月後の予定なんか立たないし。」事例A
 
3)【時間がない】
 このカテゴリーは、自分の持ち時間がもはや残されていないと認識していることを表している。がん患者は、医師から伝えられた平均生存期間を自分の残された時間と認識しその時期が迫ってくると時間がないと考えていた。また、効果のある治療方法が少なくなってきたときに、死が現実的に自分の身の上に迫ってきた、と認識していた。
 
「宙でね、頭の中で考えることではなくてね、1日の、目の前に起こってきている問題、そういう違いがあるんですよ。」事例G







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION