4. 《存在の意味》
第2のコアカテゴリーの、存在の意味とは、自分を取り巻く環境の中で自分がどうあるかという位置づけを表しており、図2に示すように自己と関係性という2つの側面があった。自己は他者との関係性の中で確認され、他者や社会からの影響によって変化した。また関係性も自己のあり様によって変化した。
1)自己の変化
自己の変化とは、自分とは何か、自分はどのように、何のために生きていけばいいのかという、生きる目的や理由を問う自分に向き合う作業であり、その中でがん患者の考えや価値観は、変化した。
がん患者の自己の変化は、がんを持ちながら生活していく中で、【変化した自分に気づく】ことから始まっていた。そして、自分自身の存在の意味が大きく揺さぶられながらも【がんと共に生きる】ことを引き受け、不確かな時間の中にありつつも【自分が納得した生き方を探す】という方向へ揺らぎながら向かっていた。
2)関係性の変化
関係性の変化とは、がんに罹患したことにより社会や人との関係性の中で自分とのつながりが変化することであり、【社会の中で役割が変わる】【人との付き合い方の価値基準が変わる】という段階から始まり、【人から支えられていることを意識する】【人とのつながりの中で生きる】と変化した。
3)存在の意味の変化
自己の変化と関係性の変化は相互に影響しているため、存在の意味の変化については、変化の時期を大きく3段階に分けて論述する。
第1段階
【社会の中での役割が変わる】【変化した自分に気づく】【人との付き合い方が変わる】時期
がん患者の存在の意味の変化は、がんを持ちながら生活する中で、まず、【社会の中での役割が変わる】ことにより、【変化した自分に気づき】、【人との付き合い方が変わる】ことから始まっていた。
【社会の中で役割が変わる】
このカテゴリーは、社会から期待されていた役割を今までどおりには果たせなくなり役割が変化していくことを表している。がん患者の社会での役割は、がん治療の影響によって女性としての役割を果たせなくなったり、治療のために仕事を辞める、というように、否応なしに変わっていた。
「結婚して11年で、子どもを産んでもいいかなって初めて思ったその矢先に子宮をとることになって、ショックだった。」事例C
【変化した自分に気付く】
このカテゴリーは、がんに罹患した自分は以前の自分ではなくなっていると認識する、ということを表している。がん患者は、社会の中での役割が変わることで、自分は人より劣っているのではないかと認識するようになっていた。また、“がん患者”というレッテルを貼られ、周囲から特別視されることにより、普通であることを意識したり、普通であることを誇張するような態度になっていた。
「変な意味パーフェクトじゃないって思っている自分がいて嫌だなあって“敗北者”っていう言葉に反応する自分って、“五体不満足”なのかなあって思っちゃう。」事例C
【人との付き合い方の価値基準が変わる】
このカテゴリーは、今までの人との付き合い方の中心となっていた価値が変わることを表している。がん患者は、親しい友人と疎遠になる、がんであることを知らせると“かわいそうな人”として扱われ同情を受ける、ということを体験していた。
その体験から、所詮他人には自分のことはわかってもらえない、と人との関係を割り切ることで自分が傷つかないようにしていた。また、表面的な付き合いはしない、ストレスになる人とは会わないなど、自分にとっての価値のある付き合いと価値のない付き合いをふるい分けていた。
「やっぱりがんであることを言うと声もかけられなくて、それっきりになった友達とかいるんですよね。」事例A
「たとえばね、同情心でご飯ごちそうしやるって言われたら今までだったら、いいですと言ってたんですけど、そういうのにも答えるようにしたんです。もう割りきって。受けるようにしたんです。それからは、かわいそうだからなんかやってやるって言われたら、やって、やってって遠慮しなくなりました。」事例A
このように自己と関係性が変化する時期は、自分とは何なのか、自分は何のために生きていけばいいのか、という自分の存在が大きく揺さぶられる時期であった。がん患者は、自己の内面に向き合い人との関係性を再評価しながら、自分の存在の意味を探しだしていた。
この時期は、自分の変化に気づくという、苦しい時期ではあるが、自分の存在の意味を探しだすことへのきっかけとなる時期でもあった。
第2段階
【がんと共に生きていく】【人から支えられていることを意識する】時期
がん患者は、自分自身の存在の意味が大きく揺さぶられながらも【がんと共に生きていく】ことを引き受け、【人から支えられていることを意識する】ようになっていった。
【がんと共に生きていく】
このカテゴリーは、がんであることを身体的にも精神的にも自分から切り離せなくなり、がんと共に生きていくことを表している。がん患者は、繰り返す再発や目に見えないがんの脅威に対して、それを制御できないこととして受け止め、がんを自分の体の一部としてとらえていた。また、がんである自分もがんではない自分も同じ自分であると考えるようになっていた。
「この病気と付き合っていくしかないんだなあ、今度どこにでるのかなあと思って」事例D
「私はがんになって11年だけど、その人生でしか生きていないから、病気をしていないから自分がどう歩んでいたか、まずわからないんですよ。(中略)だから病気したから気づいたことって言われても、もしかして病気しなくても今の私がいるのかもしれないし」事例B
【人から支えられていることを意識する】
このカテゴリーは、自分が人から支えられて生きていることを意識して生活していることを表している。がん患者は、がんと共に生きていくことを覚悟し、特に同病者や、身近な家族から支えられていることを意識して生活していた。
「私がこうしているのは、患者さんとかから得るものが多かったんだなと思っている」事例B
第3段階
【自分が納得する生き方を探す】【人とのつながりの中で生きる】時期
がんと共に生きていくことを覚悟したサバイバーは、【自分が納得する生き方を探し】【人とのつながりの中で生きる】ことに生きる意味を見いだしていた。
【自分が納得する生き方を探す】
このカテゴリーは、結局は自分自身が納得できる生き方を探す、ということを表している。がん患者は、自分らしい生き方とはどんな生き方なのかを模索し自分の人生の脚本を描いたり、自分らしい死に方を考えていた。そして、自分らしさとは周囲からどう評価されるかではなく、どんな自分であっても、今在るありのままの自分が自分らしいと考え、自分自身が納得できる生き方を探すようになっていた。
「常に病気と向き合う日々なんですよ。でも、よし、やっぱり自分は今から生きる道をと、そのあたりでシナリオを考えるようになって」事例G
「今一番悩んでいることは、最期の姿を人にみせるのはどうしようかと思っていて、・・・」事例B
「人生に勝ち負けはない。どんなあなたでも、あなたはあなたなんじゃないかしら、と言われて、自分に負けたくないと思って必死に戦っていたものがふっと楽になったんですよね」事例B
【人とのつながりの中で生きる】
このカテゴリーは、人とのつながりの中に自分の存在があると感じ生きていることを表している。がん患者は、具体的に目の前にいる人の役に立ちたいと考え行動していた。また、具体的に行動しなくても、自分の考えが、自分の死んだ後に人の心に触れるだけでも、今、生きている意味があると感じていた。
「例えば私のこと思い出さなくても、私が何か言ったその一言が、その人の考えのその先っぽにつながっているだけで、私が生きている意味があったんだろうから」事例B
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