5)動力伝達系統
船外機の動力伝達系統は2・360図に示すようになっている。エンジンの動力はドライブシャフト→ピニオンギヤ→前進(後進)ギヤ→クラッチ→プロペラシャフト→プロペラヘと伝達され、船の推進力となる。中立状態では、エンジンが回転している時でも、ピニオンギヤが前進ギヤ、後進ギヤと常に噛み合っているため、前進ギヤ、後進ギヤともプロペラシャフト上を空転し、プロペラシャフトには回転力を伝えない。
シフト機構を前進(または後進)に作動して、前進(または後進)ギヤにドッグクラッチが噛み合ってはじめてエンジンの動力がプロペラまで伝わり、船の推進力となる。
(1)減速ギヤ
減速ギヤは各種組み合わせによって、回転速度、トルク及び回転方向を変えることができる。船外機には2・361図に示すようなストレートベベルギヤまたはスパイラルベベルギヤが使用され、クランクシャフトの回転はこのギヤによって減速されかつ水平方向に変えられプロペラに伝達される。エンジンの回転速度はピニオンギヤと前(後)進ギヤの歯数比によって減速される。般に船外機の減速比は1.7〜2.1程度が多く採用されている。
減速比=前進(後進)ギヤの歯数/ピニオンギヤの歯数
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2・360図 動力伝達系統
2・361図 減速ギヤ
2・362図 ドッグクラッチ
(2)クラッチ
船外機のクラッチは2・362図に示すようなドッグクラッチ噛み合わせ式で、前進(後進)ギヤの爪とドッグクラッチの爪とが噛み合って前進(後進)ギヤからドッグクラッチに動力が伝わり、プロペラヘ伝えられる。ドッグクラッチはシフトプランジャにより作動する。構造、組立が簡単なため、殆どの船外機はこの方式を採用している。
(3)シフト機構
小型船外機にはプランジャシフト方式が、また大型船外機には強制シフト方式が採用されている。
i)プランジャシフト方式
プランジャシフト方式には、シフトカムの形状により2・363図に示すように棒カム式と回転カム式に分かれる。ここでは棒カム式について説明する。
2・363図 シフトカムの形状
2・364図 棒カムの位置
シフトハンドルに直結しているレバーシフトロッドの動きによってシフトロッドとシフトカムが上下に動く。プロペラシャフトに内蔵されているスプリングはクロスピンとシフトプランジャをシフトカムに押し付けている。ドッグクラッチはプロペラシャフトとスプラインによって結合され、クロスピンによって前後に動く。
シフトカムには後進、中立及び前進の位置に段付部があり、シフトカムを上下に動かすとシフトプランジャは前後に動く。ドッグクラッチを動かす力は次のようになっている。
・中立→前進・・・スプリングの反発力
・前進→中立・・・シフトカムで強制的に動かす
・中立→後進・・・シフトカムで強制的に動かす
・後進→中立・・・スプリングの反発力
前進及び後進時、ドッグ歯面には駆動トルクによる摩擦力が発生し、中立にシフトするにはこの摩擦力に打勝つ必要がある。後進→中立はスプリングの反発力で動かすため、後進側のドッグ歯面は抜け易い方向に角度が付けられている。
エンジン停止時にシフトハンドルを動かす場合、ちょうど歯が噛み合う位置であれば問題ないが、歯先が突き当たる位置にあるとシフト機構に無理な力が加わり損傷の原因となるので注意すること。
シフトハンドルを動かす場合、各位置までシフトハンドルを一気に動かすこと。ゆっくり動かすかまたは途中で止めると、ドッグクラッチがスムーズに噛み合わず歯先が損傷する。また、エンジン回転速度が高い場合も同様である。回転カム式についても、シフトカム部を除けば基本的に同じ構造である。
ii)強制シフト方式
2・365図に示すように、シフトカム、シフタ、スライドシフト及びクロスピンが最小限のスキマを持たせた状態で連結されている。従って、全ての位置でシフトカムがドッグクラッチを強制的に動かす。ドッグクラッチの位置を確保し、迅速かつ確実に噛み合わせるため、プロペラシャフト内部に段付き部が設けられている。スライドシフトに内蔵されたボールがスプリングの反発力でこれらの段付き部に嵌合する働きによってシフト機構は確実に作動する。
シフトレバーの操作速度にかかわりなく、ドッグクラッチの迅速な作動が作り出されるため、スムーズで確実なシフトが行われる方式である。
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2・365図 強制シフト方式
(4)ロワーユニット内の潤滑
2・366図に示すように、小型の船外機ではブッシュに刻まれた溝に沿ってオイルが上がり、ロワーユニット内を潤滑する。また、大型の船外機ではドライブシャフトが回転することにより、スリーブドライブシャフトに刻まれたらせん状の溝に沿ってオイルが上がりロワーユニット内のオイルを循環させて各部を潤滑している。
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2・366図 ロワーユニット内のオイルの流れ
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