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3.9 点火装置
 船外機の点火装置にはフライホイールマグネット点火装置、AC式CDI点火装置及び
DC式CDI点火装置がある。
 
1)マグネット点火装置
 永久磁石を回転させて電源コイルに交流(AC)を発電させ、この電気をポイントの断続でイグニッションコイルに流して高電圧を誘発させる方式であり、コイル内蔵式と別体式がある。
(1)コイル内蔵式マグネット点火装置
 2・347図に示す構造で、クランクシャフトと一体に組み付けられているフライホイール(永久磁石)を回転させると、磁気回路の磁束が変化し固定されているコイルに電圧が誘起され、ポイントを閉じた状態では1次コイルに電流(AC)が流れる。
 次にポイントが開くと、1次コイルの電流は急激に遮断されるので、自己誘導作用によって1次コイルに数百ボルトの電圧が生じ、相互誘導作用によって2次コイルに高電圧が発生しプラグに火花を飛ばす。
 
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2・347図 フライホイールマグネット(コイル内蔵式)
 
(2)コイル別体式マグネット点火装置
 2・348図に示す回路と部品で構成されている。ソースコイル(電源コイル)の外周をクランクシャフトと一体で回転する永久磁石(フライホイールマグネット)が回転し、電源コイルに交流を発電する。この電流が最大の時にカムの回転でポイントを開くと、鉄心の磁束が急激に変化して、ソースコイルには自己誘導作用により200〜300Vの電圧が誘起され、これがイグニッションコイルの1次コイルに加わる。この時2次コイルには相互誘導作用により、1次コイルと2次コイルの巻数比倍の高電圧10,000〜20,000Vが発生しプラグに火花を飛ばす。
 コンタクトブレーカポイントはイグニッションコイルの1次コイルヘの電気を流したり切ったりして、1次コイルに自己誘導作用を起こさせるスイッチの役目をしている。ポイントの開いたときが点火時期である。カムの回転によりヒール面が接触して機械的な作動を繰り返しているので、各部の摩耗や弛み、ポイント面の汚れ焼損等により、点火時期の狂いや、電気系統の増加、切れの悪さ等が生じ、「正しい時期に強い火花」を発生させることができなくなってしまうので、定期的に点検整備を必要とする。また、ポイントギャップは点火性能に影響し、ギャップが広すぎるとポイントの閉じている時間が短くなり充分に1次電流が流れず、狭過ぎると開いたときに1次電流を完全に切れずに火花が飛んでしまい、いずれも2次コイルに充分な高電圧を誘発できない。
 
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2・348図 フライホイールマグネット式(コイル別体式)
 
 コンデンサは一時的に電気を蓄える機能を持っており、これを利用してポイントに対して並列につなぐことによりポイントが開いたとき、自己誘導作用による高電圧がポイント間に火花を飛ばそうとするのを吸収して、ポイントの電流の切れを良くし、かつポイントが火花によって焼損するのを防ぐ役目をしている。また、ポイントが閉じたときは蓄えた電気を放出して1次電流を補う。コンデンサの容量は0.2〜0.3μF(マイクロファラッド)程度のものが使用されている。
 イグニッションコイルはポイントまたは電気信号での断続作用による電流の急激な変化で1次コイルに自己誘導作用による200〜300Vの電気を誘発し、これが2次コイルに相互誘導作用により両コイルの巻数比倍の高電圧10,000〜20,000Vを誘起させる一種の変圧器の働きをしている。
 
2)AC式CDl点火装置
 CDIとはCapacitor Discharge Ignitionの略で、AC式CDI点火装置は永久磁石を回転させて電源コイルに発電した電気をコンデンサに充電しておき、これを信号発電コイルの信号電流でサイリスタをONにして瞬間的にイグニッションコイルに流して高電圧に誘発させる方式(コンデンサ放電式)である。その回路を2・349図に示す。
 永久磁石(フライホイールマグネット)の回転により電源コイル(チャージコイル)に交流が発電され、整流器(ダイオード)で整流されてコンデンサに充電される。点火時期に点火信号コイル(パルサコイル)に信号電気が発電され、これがサイリスタのGに流れるとA−K間がONして、コンデンサに充電されていた電気(200〜300V)が急激にイグニッションコイルの1次コイルに流れ、2次コイルに高電圧(15,000〜20,000V)が誘発されてプラグに火花を飛ばす。機械的なスイッチ(ポイント)に比べ電気的なスイッチ(サイリスタ)は作動が早く、コンデンサに充電されている電気を一瞬にして1次コイルヘ流すので、2次コイルにも短時間の内に高電圧を誘発し、プラグに強い火花を飛ばすので多少くすぶり気味のプラグでも良い火花を飛ばすことができる。
 この装置の特徴として
・接点が無いので、ポイントの摩耗や点火時期の狂い等の劣化がない。
・特別な調整作業を必要とせず、取扱、整備が簡単である。
・火花放電持続時間が長く、燃焼効率が良い。
・2次電力の立ち上がりが早いので、点火プラグの汚損時でも点火性能が良い。
 
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2・349図 AC式CDI点火装置回路図
 
(1)点火進角
 シリンダ内の圧縮された混合気に点火してから、混合気全体が燃焼し最大圧力に達するまでにはある時間を必要とする。一般にエンジンが最大出力を発揮する点火時期は、最大圧力が上死点後約10°に設定されたときであるが、最大圧力に達するまでの燃焼速度はエンジン回転速度や負荷によって異なるため、これらに応じて点火時期を進める(進角)必要がある。船外機の点火進角方式を大別すると次の三つに分けられる。
 自動進角式
 フラマグベースは固定され、低速側及び中、高速側を受け持つ2個のパルサコイルによってそれぞれの回転域における点火時期を進角する。低速側は殆ど進角せず、中、高速側へ移る回転数においてステップアップして進角する機種もある。
 
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2・350図 自動進角式
 
 パルサコイルはパルスジェネレータ(発電機)と呼ばれているセンサで、クランクシャフトに取り付けられているACGロータ(パルスロータ)が回転するとACGロータの外周にあるリラクタ(凸)部がパルサコイルの磁束を変化させ、パルス信号としてCDIユニットに送り、エンジン回転速度、クランク角度検出を行っている。
 進角制御は、次のように行われる。
・エンジンが回転すると、クランクシャフトに取り付いているACGロータも回転し、ACGロータのリラクタ部の角がパルサコイルのピックアップを横切る瞬間に2・351図に示すように正電圧パルスと負電圧パルスを発生させる。
・エンジン回転が上がると、パルスコイルから発生するパルス数と周波数の電圧が高くなる。
・この一定時間のパルス数と周波数の電圧変化をゲート回路に入力する。
・ゲート回路は、信号の変化に応じてSCR(サイリスタ)のONさせるタイミングを速くし、点火時期を進角させる。
 
2・351図 パルスジェネレータからの出力波形
 
(2)ベースアッセンブリ摺動式
 パルサコイル、チャージコイル及びライティングコイルはフラマグベースアッセンブリに取り付けられ、このベースアッセンブリが摺動することによって点火時期を進角させる。
 
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2・352図 ベースアッセンブリ摺動式
 
(3)パルサコイル摺動式
 フライホイールの外側にはチャージ/ライティングコイル用マグネットが取り付けられ、内側にはパルスマグネットが取り付けられている。従ってパルサコイルアッセンブリのみを摺動させることによって進角が行われる。
 
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2・353図 パルサコイル摺動式
 
3)DC式CDI点火装置
 DC式CDI点火装置は、コンデンサの蓄電をバッテリ電源で行う方式で、バッテリの電圧12VをDC/DCコンバータで250Vに昇圧してコンデンサに充電しておき、これをパルサコイルからの信号電流でサイリスタをONにして瞬間的にイグニッションコイルに流して高電圧を誘発させるコンデンサ放電式である。その回路を2・354図に示す。
 
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2・354図 DC式CDI点火装置回路図







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