5)連続最大出力変更後の運転
検査のドック時に、機関連続最大出力変更(以下出力変更とする。)が行われることが、最近はよくみられることである。
(1)出力変更とは
現在の船員法では乗組員の数が機関連続最大出力によって決められている。その規則に合わせるために、船主が自主的に所管官庁に出力変更の届を申請して承認を受けて行われる。よって、直接整備には関係ないが、検査官立会いで海上運転が施行される。
(2)出力変更届の作成
通常は、船主の依頼で機関製造所が製造時の各計算書や陸上試運転成績をもとに出力変更届に必要な設計検査用の書類を作成する。
(3)出力変更の内容・機関性能変更例
例えば、ある機関の連続最大出力を955kW(1,299PS)から750kW(1,020PS)に変更する場合は
(a) |
主要目 |
連続最大出力 |
(kW) |
750←955 |
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回転速度 |
(min-1) |
376←410 |
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シリンダ内最大圧力 |
(MPa) |
11.5←13.0 |
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平均有効圧力 |
(MPa) |
1.56←1.86 |
(b)燃料ポンプラック目盛
110%負荷時 平均値
新:26.1 現:31.1
(c)燃料ハンドル目盛
110%負荷時 平均値(参考)
新:26.5 現:31.0
(4)負荷制限装置のセットの方法
5・31図の如く、735kW(1,020PS)の110%負荷の燃料ハンドル目盛(26.5)燃料ポンプラック目盛(26.1)にセットボルトをセットする。ボルトをセット後ワイヤ掛けをしてから封印をする。
(5)海上運転
次の試験を行う。
(a)負荷試験:連続最大出力の3/4、4/4、110%を行う。
(b)4/4負荷運転中に速力、左右旋回、前進中後進試験を行う。
(c)上記(a)(b)について成績表を作成し提出する。
この海上運転に乗船する機会があると考えられるため、運転成績の採取や出力の計算方法等に慣れておくとよい。
5・31図 負荷制限装置
6)その他の運転性能の検討
整備士としても、本船に搭載された機関が色々な角度から検討されることが機関を扱うエンジニアとして仕事の参考となると思い説明する。
(1)過給機・空気冷却器を含む吸排気系統の検討
最近の機関は、いわゆる高過給機関であって、その性能を持続するためには機関運転中の過給機の回転速度と給気圧力を保つことが大切なポイントとなっている。
そこで、陸上試運転の成績より過給機の回転速度と給気圧力をピックアップして、その関係を縦軸に給気圧力、横軸に過給機回転速度を取って平面上に表しておくと過給機性能をチェックするために有効である。
5・32図は 5・3表の成績より作成したものである。
例えば、整備後の試運転時の成績が◎の通りにプロットされたとすると、次のことが検討されなければならない等に利用する。
(a)吸入空気温度(機関室温度)が高くないか。
(b)過給機空気吸入フィルタの掃除が不十分か。
(c)機関室への通風量(供給空気量)の不足か、あるいはメカベンが故障していないか。
(2)燃焼系の検討
5・32図 過給機回転速度と給気圧力の関係
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次の 5・33図は 5・3表の成績より燃焼最高圧力と給気圧力の関係を表したもので、縦軸に燃焼最高圧力、横軸に給気圧力を取り平面を作ったのである。
例えば、この平面上に整備前の本船データよりピックアップしたものを●、整備後の試運転成績を○でプロットしてみる。
その結果、次のようなことが判明する。
(a)整備後の試運転のデータは、やや最高圧力が低いが機関の経年疲労等を考えれば正常であり、整備が問題なく行われたことを証明している。
(b)整備前のデータは、給気圧力に対して最高圧力が低く、ピストンリングおよびシリンダライナの摩耗、吸排気弁のシートの不具合等が想像される。
(c)また、整備前のデータより、最高圧力は燃料ポンプの性能を受け易いためまず燃料ポンプの突き始めのタイミングをチェックしてセッチング表の通りであれば、ポンプのプランジャ・バレルの摩耗も想像され、燃料ポンプの圧力テストをリコメンドしている。
(d)これより、整備の方案をたてる資料にもなる。
5・33図 シリンダ内圧力と給気圧力の関係
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