2)海上での試運転
機関運転は陸上と同程度の確認事項の後に行われるが機関出力を水動力計で正確に計測できないだけである。
なお、海上運転前に機関を暖機することもあり注意をする。
(1)試運転時の負荷
負荷の設定は機関回転速度によって行うしかなく、通常は陸上試運転の2/4及び3/4時の回転速度程度で行われる。1)−(2)項参照
(2)機関出力の測定と算出
主機関の場合は、5・29図トルク係数曲線を使用する。
例えば、154頁で例示した機関を搭載した貨物船が整備後、試運転時の負荷3/4の成績で回転速度n=345min-1(rpm)、燃料ポンプラック目盛Ra=22.0とすると、トルク係数はチャートよりA=1.95となる。
よって、この時の出力はNe=345×1.95=672.8kW(914.9PS)
また、この時の負荷率は672.8÷1000=0.673 67.3%である。
5・29図 トルク係数曲線
(拡大画面:18KB) |
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参考:海上での機関出力算出とトルク係数曲線の作成方法
(1)海上運転時において機関出力を算定する方法は、以下の4つの方法がある。
(a)燃料ポンプラック目盛と回転速度から算出する方法。
(b)燃料消費量から算出する方法。
(c)ねじり計測機によるトルクから算出する方法。
(d)指圧器などによる図示出力から算出する方法。
主機関においては、この中で(a)の方法を一般的に採用している。
(2)燃料ポンプラック目盛と回転速度から算出する方法(例:前出機関とする)
(a)154頁の陸上試験の成績表より各負荷の燃料ポンプラック目盛(Ra)、回転速度(n)、及び燃料油入口温度、燃料油の性状(比重0.8596(15/4)℃、低位発熱量42,370kj/kg)を出す。
(b)各負荷の出力を回転速度で除した値をAn(トルク係数)とする。
25% |
A1=250÷240=1.042 |
燃料油入口温度 |
30℃ |
50% |
A2=500÷302=1.656 |
〃 |
30℃ |
75% |
A3=750÷345=2.174 |
〃 |
29℃ |
100% |
A4=1,000÷380=2.632 |
〃 |
29℃ |
110% |
A5=1,100÷392=2.806 |
〃 |
35℃ |
(c)各トルク係数を燃料油入口温度に係数0.00065/℃を使用して15℃の比重に換算する。
A1=1.05、A2=1.66、A3=2.18、A4=2.64、A5=2.82
(d)縦軸に各トルク係数、横軸に各燃料ポンプラック目盛の関係を表すとトルク係数チャートとなり、5・29図に示す。
(e)出力(Ne)の算出
Ne(kW)=An×n(min-1) An:トルク係数 n:回転速度
注1:使用燃料油の比重、発熱量により換算が必要なときは次式によりRaを算出してから、トルク係数をチャートより読みとる。
Ra=ra×Ga/0.860×Ca/10120
Ra:修正ラック目盛
ra:読みとりラック目盛
Ga:使用燃料油の温度換算(15℃)比重
Ca:使用燃料油の低位発熱量
注2:燃料ポンプのセッチングが製造時と大幅に異なったり、燃料ポンププランジャが酷く摩耗していると、正確な出力とならないことがある。
3)性能曲線でのチェック
5・28図性能曲線上に各計測点をプロットするが、このチェックで注意することは
(1)横軸のデータは回転速度や見かけの負荷ではなく157頁(2)で算出した出力とする。
(2)各計測点は、計測上の誤差等もあるのでプロットするときには、点ではなくある程度の面積を持った丸(○)とする。
(3)陸上運転と比較して過給機へ供給される空気が、狭く温度の高い機関室内よりとなるため、給気圧力が下がることで最高圧力も下がり、逆に排気ガス温度が全般に高くなることがある。
(4)各データの性能チェックに対する対応は、
「舶用機関整備指導書その1」第2章3.故障診断の要因図を参考にするとよい。
4)舶用特性曲線上の作動点のチェック
海上運転では、機関出力が水中で回るプロペラによって決定されるため、この時の機関回転速度と機関出力の関係をチェックすることが大変に重要である。152頁で陸上試運転の負荷試験の各ポイントを舶用特性曲線として縦軸に出力、横軸に回転速度として平面上に表すと5・30図となり、この平面を使用して作動点のチェックをする。
この舶用特性曲線を描くときには、同一平面上に何本かの回転マージンを加えた曲線と機関作動点の使用許容範囲をいれておくと、非常に理解がし易い。
5・30図を説明すると、
(1) |
回転マージン+4%曲線: |
新造船を計画するときに、プロペラにマージンをつけ、設計するため、海上試運転時の予想作動線。 |
回転マージン+2%曲線: |
理想的な就航中の作動線。 |
回転マージン−4%曲線: |
トルクリッチ上限作動線。 |
Aゾーン: |
連続使用許容範囲、通常はこの範囲で運転されなければならない。 |
Bゾーン: |
短時間使用許可範囲、新造時の海上試運転でスピードを計測するためや、時化を避けたり緊急時に使用する範囲。 なお、新造時に限っては106%の回転までは上げることがある。 |
Cゾーン: |
使用禁止範囲、トルクリッチのため運行上危険であると同時に経済的にも燃料使用量が急増して不利である。 |
5・30図 船用特性曲線
(拡大画面:35KB) |
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(2)例として5・29図の作動点をこの平面上に◎でプロットしてみると、ほぼ+4%の曲線上に乗っており、整備後の運転として正常であることが判断される。
(3)また、5・29図に例示の貨物船の新造海上試運転時の場合、バラスト(空船)で運転を行う上にプロペラマージンがつけてあり、機関出力は陸上試運転の回転速度に対してかなり軽負荷になるため、各負荷は陸上試運転時よりプロペラマージン分程度の回転速度を増して出力が出るように設定する。例えば、5%のプロペラマージンを相定して回転速度を設定した場合を陸上試運転と比較すると、
50% |
(2/4) |
負荷: |
設定 |
317min-1 |
← |
陸上 |
302min-1 |
海上運転出力 |
451kW |
85% |
|
負荷: |
〃 |
378min-1 |
← |
〃 |
360min-1 |
〃 |
764kW |
100% |
(4/4) |
負荷: |
〃 |
399min-1 |
← |
〃 |
380min-1 |
〃 |
899kW |
となる。
これに従って各負荷の作動点をプロットしてからそれらを結ぶと破線のようになる。この曲線はマージン約8%となるが、バラスト状態の貨物船の結果であればほぼ計画の通りであろう。
(4)経年変化
前頁の(2)と(3)を比較すると、今回の試運転時は新造時に較べて約4%のマージンが減少(トルクリッチ側に寄っている)が観られるが、これを経年変化と呼び、船体の傷や取り切れない汚れ、あるいはプロペラ損傷等による疲れ現象である。
(5)トルクリッチとプロペラカット
この平面は、就航中であっても常に利用できる。たとえば、就航十数年を経て定期検査ドック直前の作動点がAゾーンを超えてCゾーン内にあったとすれば、トルクリッチ状態でありドック時の対応を検討しなければならない。
ドックで船体を洗浄すれば作動点はAゾーンに戻ってくるが、それが大きく戻ることは期待できないので、ドック時にプロペラをカットして、大きくプロペラマージンを復帰しなければならない等を検討する資料となる。
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