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5)新製品 LH38L形機関
阪神内燃機工業株式会社
 
 
1. まえがき
 ハンシン低速4サイクルロングストロークLHLシリーズは、1988年にLH28Lの製造を開始して以来、LH30L、LH32L、LH34L、LH36L、LH41L、LH46Lと順次、開発を進めてシリーズを充実してきました。
 この度、新たにLH38L形3000馬力の開発を完了し、1600馬力から4500馬力の出力レンジをきめ細かくカバーするLHLシリーズのラインアップが完成しました。
 LH38L形はその前進であるELシリーズで得られた多くのデータと、既に稼働中のLHLシリーズで実証された技術を駆使して開発した信頼性の高い機関です。
 
2. 主要目
 LH38L形の主要目を表1に示します。
 
表1 LH38L形機関主要目
形式 縦型4サイクル単動ディーゼル機関
(過給機及び空気冷却器付)
出力(PS) 3000
回転数(rpm) 250
シリンダ径(mm) 380
ストローク(mm) 760
平均ピストン速度(m/s) 6.33
爆発圧(kgf/cm2 130
正味平均有効圧(kgf/cm2 20.88
燃料消費率(g/PS・h) 135+3%
(A重油10200kcal/kg)
潤滑油消費率(g/PS・h) システム油0.8
シリンダ油0.5
冷却方式 シリンダ 清水冷却
ピストン 潤滑油冷却
燃料弁 清水冷却
過給機 清水冷却
機関重量(単体)(kgf) 49000
 
3. 機関の構造と特長
 本機関は信頼性及び耐久性の向上と保守・点検の容易性を主眼に設計しています。
 図1に機関全体写真、図2に機関全体組立図、図3に機関組立断面図を示します。
 
図1 機関全体写真
 
(拡大画面:92KB)
図2 機関全体組立図
 
図3 機関組立断面図
 
(1)構造物
 機関の構造物であるシリンダ、架構、台板は支柱ボルト(油圧締め)により締付けて、高い剛性を確保しています。
 吸気管、冷却水入口主管は鋳鉄製のシリンダに一体化し簡潔な外観に寄与しています。(図4参照)
 また、推力軸受は機関の台板に内蔵し全長の短縮を図っています。
 
図4 吸気溜り・冷却水入口部
 
(2)クランク軸
 クランク軸は強度的に優れたRR鍛造クランクを使用しています。
 主軸受、クランクピン軸受は信頼性が高く保守・点検が容易な薄肉完成メタルを用いています。
 主軸受はホワイトメタル、クランクピン軸受はアルミメタルでいずれもオーバレイを施して初期なじみを向上させています。
(3)ピストン
 ピストンは鍛鋼製クラウンと鋳鉄製スカートの組立式とし、爆発圧による機械的応力と熱応力に対し十分な強度を持たせています。
 スカートには初期なじみを向上させるため鉛銅リングを3本装備しています。
 一方、ピストンリングはコンプレッションリングを4本、その内のトップ、セカンドリングは耐摩耗性向上のためクロムメッキ付とし、更にトップリングにはGT(ガスタイト)リングを採用して燃焼ガスのブローバイを防いでいます。またピントンリング溝にもクロムメッキを施し耐摩耗性を向上させています。
 オイルリングもクロムメッキ付で、コイル付の高面圧2本をピストンピンの上部に配置して燃焼室へのオイルアップを防ぐと同時に、摺動面は十分潤滑しシリンダライナとピストンの過大摩耗を防止するようにしています。
(4)連接棒
 連接棒は炭素鋼鍛造品で大端部はクランクピン径を大きくとれる三つ割り構造とし、爆発圧・慣性力に対して十分な剛性を持たせています。
(5)シリンダライナ
 シリンダライナは特殊鋳鉄製で耐摩耗性向上のためタフトライド処理を行い、燃焼室を形成する上部内周の温度の適性化を図るためボアクーリングを行っています。(図5参照)
 また、シリンダライナは中支え式にしてピストンスラップによる振動で発生する冷却水ジャケット部のキャビテーション腐食を防いでいます。
 
図5 ボアクーリングシリンダライナ上部
 
(6)燃料噴射ポンプ及びカム
 燃料噴射ポンプのプランジャスピードを上げた高圧噴射に対応して高圧ポンプを使用し、噴射管を極力短くして噴射特性を改善しています。
 カム軸受、吸排気・燃料の案内筒の注油主管並びに燃料ポンプのドレン主管は鋳鉄製のカム室に鋳ぐるみを行い、配管の簡素化を図っています。
(7)シリンダカバー
 シリンダカバーは爆発圧による機械的応力と熱応力を受けるため、特に側壁の肉厚を厚くするとともに中間棚を設けて機械的応力に対し十分な強度と剛性を持たせています。
 一方、熱応力を受ける燃焼面の肉厚は薄めとし、熱伝導を良くして応力軽減を図っています。
 吸排気弁は保守・点検が容易な弁箱式で1シリンダに各1個の2弁式です。(図6参照)
 吸排気弁及び弁座のシート部にはステライトを盛金し、更にバルブローテータを装備して耐久性の向上を図っています。
 また、弁棒のステムは専用の注油器で強制潤滑を行っています。
 
図6 シリンダカバー
4. 機関の性能
 本機関の1号機では過給機マッチング試験のほか、ノズルチップのマッチング試験、燃料ポンププランジャ径の変更試験などを行い、機関の耐久性も考慮して最適な組合せを選定しています。
 図7に1号機で得られた舶用負荷試験の性能曲線を示しますが、この性能は当社が決めている性能基準を満足しています。
 
(拡大画面:80KB)
図7 LH38L形 3000PS・250rpm性能曲線
5. あとがき
 本機関は信頼性・耐久性の向上と保守・点検の容易性を目標にEL形や他のLHL形の就航実績をも踏まえて開発した機関です。本機関就航後も引続きフォローを行っていく所存です。
 ご好評をいただいています他のLHL形機関と同様、ユーザ各位のご期待に添えるものと確信します。







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