4)ニイガタ新中速22HLX型機関
株式会社新潟鐵工所
1 はじめに
ディーゼル機関を取り巻く環境は、その時代毎に変化を続け、機関メーカは多様化するニーズに応えることが求められています。当社は、常にその時代の要求にマッチしたディーゼル機関、及びその周辺システムを送り出し、ユーザの皆様に御愛用戴いております。
現在、高い信頼性と経済性で御好評を戴いております中速機関HXシリーズの最新型として、高出力で高効率な22HLXを開発しましたので御紹介致します。本機関は、多数の納入実績を持つ25HX、及び26HXの後継機種として計画され、お客様各位の御要望にお応えするべく舶用主機関、発電機駆動機関として開発されました。
機関主要目を表−1に示します。
表−1 機関主要目
機関型式 |
6−22HLX |
8−22HLX |
12V22HLX |
16V22HLX |
18V22HLX |
機関様式 |
竪型単動4サイクル、トランクピストン型
過給段、空気冷却器付きディーゼル機関 |
シリンダ配列 |
直列 |
V型 |
シリンダ数 |
6 |
8 |
12 |
16 |
18 |
シリンダ径 |
mm |
220 |
行程 |
mm |
300 |
定格回転数 |
min-1 |
1000 |
最大出力 |
kW/CYL |
232 |
PS/cyl |
315 |
シリンダ内・最高圧力 |
MPa |
20 |
kgf/cm2 |
204 |
正味平均・圧力 |
MPa |
2.44 |
kgf/cm2 |
24.9 |
平均・ピストン速度 |
m/S |
10 |
|
22HLX機関
2 開発目標
22HLX型機関の開発にあたっては、先に低公害・高出力・高性能機関として開発された34HLX・28HLXと共に、新型中速機関の一角として計画され、その設計思想・設計方針を踏襲しながら、既に国内外で御好評戴いております中速機関HXシリーズで培われた多くのノウハウを盛り込み、下記に示す項目を目標としています。
1)平均ピストン速度 10m/sec
2)正味平均有効圧力 2.44MPa
3)燃焼最高圧力 20.0MPa
4)従来機関のHXシリーズ、及び新型中速機関HLXシリーズで検証された多くのノウハウを結集し、高出力化に伴う機械的、熱的負荷を最小に押さえ、高い信頼性・耐久性を兼ね備える。
5)吸気管・冷却水主管・潤滑油主管をシリンダブロックと一体型とし、構造の簡略化・軽量化、分解・組立作業の容易化、及び、保守費用の節減を図る。
この様な目標により、世界最高レベルの性能と高い信頼性・耐久性を兼ね備え、また従来の同シリンダ径機関に比べ40%の出力向上によりコンパクトな高出力機関として、まさに次世代型と呼べる新中速機関が完成しました。
主な中速機関の出力範囲を図−1に示します。
(拡大画面:98KB) |
|
|
3 主要部の特長
大幅な出力向上を達成するため、主要部品について下記の特徴を持たせました。
(1)クランク軸・主軸受
・クランク軸は特殊鍛鋼製で、高出力化に伴う高い燃焼圧力に耐えられるよう、ピン・ジャーナル部共に充分な軸径を有し、大型のバランスウェイトにより高いバランス率を確保し、振動の低減を図っています。
・クランクピン・主軸受には高周波焼入れを施し、耐摩耗性・信頼性の向上を図っています。
・主軸受キャップは、2本の取付ボルトと2本の側面ボルトによってシリンダブロックに固定されていますので、主軸受周りは高い剛性を有しています。
・最適な軸受幅の設定により、従来機関に比べ大幅に油膜厚さが増大し、軸受の耐久性向上を図っています。
(2)シリンダブロック
・シリンダブロックは、シリンダとクランクケースを一体化したハンガタイプのダクタイル鋳鉄製で、効果的な箱型構造と適切なリブの配置により、軽量ながら充分な強度を有しています。
・シリンダを挟んで給気マニホルドとカム室を配置し、シリンダを二重壁構造とすることによって、機関全体の剛性が高まり、振動低減と給気騒音の低減を図っています。また、給気マニホルドをシリンダブロックに内蔵することによって、外部に張り出す給気管がなくなり、機関全体がコンパクトにまとまっています。
(3)シリンダライナ(写真−1・写真−2)
・ライナはライナ用耐摩耗特殊鋳鉄を使用して、内面には特殊ホーニングを施し、高い燃焼圧力に耐えられるよう、燃焼室廻りは厚肉としています。
・ピストンの上死点・下死点位置でシリンダブロックに支持されており、ピストンスラップによるライナ振動が抑えられています。
・また、アンチポリッシュリング(通称ファイアリング)を装備しているため、ピストンに付着した硬質カーボンによる摩耗が少なく、耐久性が飛躍的に向上しています。
写真−1
写真−2
(4)ピストン(写真−3)
・機関の高出力化に伴うピストンの機械的・熱的負荷の上昇に対処する為、設計段階においてFEM(有限要素法)による解析を行うとともに、試験機関による温度・応力の計測を行い、十分な強度を有することを確認しています。
・ピストンリングは圧力リング3本、オイルリング1本の4本構成で、トップリングは特殊バレル形状にクロムメッキを施しています。高出力化に伴う燃焼圧力の増大にも拘らず、ファイアリングの効果と相まって、従来機関に比べて耐久性が向上し、潤滑油消費率も大幅に低減しています。
写真−3
(5)連接棒(写真−4)
・連接棒は水平二分割タイプで、ピストン、シリンダライナ、連接棒をユニット化することにより、従来の斜め二分割連接棒と同等のピストン抜き高さで、一式分解・組立が可能となり、燃焼室部品を傷つけることなく容易に機関へ組込むことが出来ます。また、三分割タイプの連接棒も設定し、幹部を切り離してライナ途中で固定することが可能で、シリンダヘッドを分解することなく大端部の分解・組立が可能です。
・どちらのタイプも大端部合わせ面は剛性の高い幅広で、セレーションを設けているため組立時の位置決めが容易です。燃焼圧力や慣性力による変形を小さく押さえ、油膜厚さの確保と軸受の耐久性向上を図っています。
写真−4
(6)カム舳(写真−5)
・カム舳はカム一体構造とし、軸径を太くすることにより高圧短期噴射による燃料噴射ポンプの荷重増大に対応しています。
・吸排気ローラはタペット方式を採用し、より取り扱いの容易化を図っています。
写真−5
(7)シリンダヘッド(写真−6)
・シリンダヘッドは、高い燃焼最高圧力による機械的応力と燃焼温度による熱応力とに対処する為、強度が高くかつ熱伝導率の高いCV(バーミキュラ鋳鉄)を採用しています。また変形を小さくしてガス漏れを防止するとともに、高さ寸法、中棚、上面及び外周壁の肉厚を十分厚くし、中棚は斜めリブ形状の採用により剛性の均一化を図っています。
写真−6
・燃焼面は肉厚で、ボアクール冷却としています。シリンダブロックから上がった冷却水は、シリンダヘッド下面からボアクール穴を通って燃焼面全体を冷却し、燃焼噴射弁に沿って上部へ流れます。
・吸排気弁はタンデム型に配置し、吸気管、排気管を同一サイドにすることによって、カム舳側の取り扱いを容易にしています。
(8)吸排気弁
・吸気弁は、耐熱鋼に特殊合金を盛金し、排気弁には特殊耐熱鋼のナイモニック弁を採用しています。
・排気弁のシートリングは、冷却型を採用して排気弁の寿命延長を図っています。
・吸排気弁共に、バルブシート面の当たり、温度を均一化し、偏摩耗を防止するため、バルブローテータを採用して、弁点検時間の大幅延長を図っています。
(9)燃料噴射ポンプ・燃料噴射弁
・燃料噴射ポンプは、モノブロックタイプのクローズドバレルを採用し、高圧短期噴射、噴射系シミュレーション解析による最適化により、低燃費を実現しました。また、等圧吸戻し弁組込みの高圧型を採用しています。
・燃料噴射弁は、応答性の良好なミニマス方式を採用し、噴孔部に特殊加工を施して、流量係数をアップし燃焼の改善を図っています。
(10)過給機・空気冷却器
・高効率なニイガタ−MANB&W型高効率の無冷却過給機を搭載し、機関の高性能化を達成しました。平軸受の採用により軸受寿命は長く、構造が簡単で部品点数が少ない為、取り扱いが容易です。
・大容量の空気冷却器を採用し、機関の高出力化に対応しています。列型機関には、シリンダブロック側面の給気室に直接取付ける方式として、接続ダクト類を廃止し構造の簡素化を図っています。
4 おわりに
22HLXは性能、信頼性いずれの面においても、まさに次世代型と呼ぶに相応しい機関であると自負しております。これからの当社を代表する機関に成長していくものと自信を持って御紹介すると共に、これまでのHXシリーズ機関同様に、高出力・高性能で、なおかつ取扱い易い機関として、幅広い用途での御期待に添えるものと確信しております。
|