6−6 分布交通量の予測
(1)目的地選択モデルの意義
これまで分布交通量の予測には、一般に現在パターン法およびグラビティモデルが用いられてきたが、これらの方法には以下のような問題点が挙げられる。
現在パターン法
現在パターン法は、現況の分布のパターンをそのまま将来の分布パターンに用いる方法であり、将来にわたって安定的な土地利用を前提としている。この方法は、大規模な都市開発や幹線交通施設の整備など、分布パターンが大きく変化するケースには適していない。
グラビティモデル
グラビティモデルは、出発地・到着地の規模変数および2点間の距離変数によって、分布のパターンを表現する方法である。この方法は、以上の説明変数に限定され、トリップ分布を規定する土地利用条件や交通条件などを充分に考慮することができない。
そこで、本調査では、吉田ら1により提案された目的地選択モデルを用いた分布交通量の予測を行う。この目的地選択モデルとは、目的地の選択する行動を、効用関数を用いてロジットモデル式で表現したものである。 モデルの効用関数には目的地の土地利用条件や交通サービスレベルなどの説明変数を取り組むことが可能であり、これにより、以下の様な利点が挙げられる。
・ 関西文化学術研究都市などの現在ほとんどトリップが見られない大規模開発地区についての分布パターンの予測が可能である。また、その際に用いる説明変数に、土地利用条件や交通条件などの説明変数を取り込むことで、グラビティモデルによる予測よりも精度向上が期待される。
・ 地域の商業施設誘致・業務施設誘致・大学誘致などによる分布パターンの変化に対しても感度を持ち、これらの政策に対して、需要予測の面からの政策評価が可能になる。
・ 幹線交通施設整備に関しては、周辺の分布パターンに大きく影響を及ぼすものと考えられるが、この変化を考慮した政策評価が可能となる。
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(2)目的地選択モデルの特徴
a)目的地選択モデルの概要
目的地選択モデルは、出発地iから目的地jへの効用値を式(1)とし、その選択確率を多項ロジットモデルで表したモデルである。
ただし、 |
χij |
:目的地の効用を構成する説明変数ベクトル |
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θ |
:未知パラメータベクトル |
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uij |
:I.I.D.ガンベル分布に従う誤差項 |
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Ct |
:個人tの出向可能な目的地の集合 |
b)ゾーニングと基準変数
個人にとって、目的地の選択肢は特定施設であるが、分析を単純化する上でゾーニングが必要となる。このとき、目的地選択肢ゾーンの選択確率は、ゾーン内の施設を下位の選択肢要素とするNested Logit モデルの考え方で、効用関数で表現が可能である。すなわち、個人tによる目的地選択肢ゾーンjが選択肢要素の集合Lt であるとすると、
を満たすための効用関数は、(4)で表される。
このとき、右辺第1項はゾーンjの平均効用、第2項はゾーンjの規模変数、第3項はゾーンjの効用の不均質性を表している。目的地の規模変数が複数の場合には、Mjを次のような線形結合とし、規模効果αmを推定しなければならない。
しかし、この効用関数はパラメータに関して非線形であるため、条件付きロジットモデルの推定パッケージを利用できない。そこで、目的地選択値のサイズを規定する基準変数Sj*を一つ定め、他の基準変数Smjを規準化した効用関数をもちいる。
c)選択肢集合の決定
都市圏規模のトリップ分布を個人の目的地選択行動の結果と捉えると、目的地の土地利用特性や交通サービスレベルを明示した形で目的地ゾーンを選択する離散選択モデルとしての記述ができる。離散選択モデルを適用する場合には、分析者は個人の目的地の選択肢集合を客観的に決定する必要がある。(以下、この目的地集合の決定を、目的地の選別と呼ぶ。)
吉田らは、選択肢集合を決定に、目的地の選別を離散選択モデルの効用関数に内包する方法として、後に示す2つのモデル(TUFモデル・SSAモデル)を提案している。
すなわち、目的地選択のフローは、効用関数を用いて、以下のような2段階のプロセスで目的地を選択するものとする。
1 吉田・原田:選択肢集合の確率的形成を考慮した集計型目的地選択モデルの研究、土木学会論文集 No.618/IV−43, I−13, 1999.4
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