(3)目的地選択モデルの定式化
a)目的地選別モデル
出発地をi、目的地をjとして、目的地の選別を、効用Uijおよび閾値Hijを用いて以下のように表す。
ただし、Uij=1nS*j+θxij+uij
|
S*j |
:目的地選択肢のサイズを規定する基準変数 |
|
xij |
:出発地と目的地の属性ベクトル |
|
uij |
:誤差項 |
|
θ |
:パラメータベクトル |
Hij=βyij+ηij
|
yij |
:出発地と目的地の属性ベクトル |
|
ηij |
:誤差項 |
|
β |
:パラメータベクトル |
このとき、出発地i,目的地jのODが選択肢に選別される確率は、
で表される。
b)目的地選択モデル
目的地の選択モデルを推定するためには、通常、選択肢(目的地)の数が多くなり、その分サンプルが必要となるため、効率的な推定方法が課題となる。そこで、目的地の選別を内包した集計型の選択モデルの構築を行うが、目的地の選択モデル構築には、後に示す2つの考え方により定式化を行う。
切断された効用関数のモデル(TUF model)
TUFモデルは目的地の効用関数が選別の閾値によって切断されることを仮定した選択モデルであり、以下の式で表される。
選別基準
効用関数
このとき目的地の選択効用は、目的地が選別された時にのみ推定可能であるから、部分的なサンプルから推定された目的地の効用関数の誤差項Uijの期待値は、E(ij)=0を満たすとは限らないため、効用関数の推定パラメータはバイアスを持つ。
TUFモデルは、式(9)に示されるように、選別された目的地集合Diが与えられたときの選択確率を、バイアス修正項を含む形で定式化したロジットモデルである。
選択肢自己サンプリングのモデル(SSA model)
SSAモデルは、選択肢の選別を自らの選択肢サンプリングとみなし、それを内性化した選択モデルである。
いま、出発地iにおいて、選択肢集合Diが生成され、その中から目的地jが選択される場合を想定すると、その同時確率は乗法定理を用いて式(10)のように表される。
ただしπi(Di)は選択肢集合Diの生成確率
ここで、目的地の選別と選択が同時並列的に行われると言うことと、逆確率πi(Di|j)の分布(11)のように仮定したとき、選択肢集合Diが与えられた時のjの条件付き選択確率は、式(12)で表される。
(4)近畿圏における適用
a)近畿圏での適用における条件設定
平成12 年パーソントリップ調査データ等を用いて、以下の手順で近畿圏への適応可能性を検証する。
対象エリアとゾーニング
対象エリアは平成12年パーソントリップ調査および本調査における調査対象エリアとの重複する範囲とし、ゾーニングについては市町郡単位とする。
表 6−6−1 対象エリア内のゾーン数(市区町村数)
|
ゾーン数(市区町村数) |
滋賀県 |
22 |
京都市 |
11 |
京都府下 |
20 |
大阪市 |
24 |
大阪府下 |
43 |
神戸市 |
9 |
兵庫県下 |
18 |
奈良県 |
28 |
和歌山県 |
3 |
計 |
178 |
|
対象エリアにおける、出向可能なODは178×178で、すなわち31,862ペアとする。
サンプルデータ
パラメータ推計に用いるサンプルデータは、平成12年パーソントリップ調査を用いる。対象エリアにおける観測されたODペアは、通勤目的で全体の約25%、通学目的では全体の約15%であり、自由・業務目的については約19%程度である。
表 6−6−2 観測されたODペア
|
通勤 |
通学 |
自由 |
業務 |
可能なODペア※1 |
31,862 |
31,862 |
31,862 |
31,862 |
トリップが観測されたODペア※2 |
8,043
(25.2%) |
4,671
(14.7%) |
6,113
(19.2%) |
6,050
(19.0%) |
|
|
※ |
:( )内は観測されたODペアの割合(平成12年パーソントリップ調査による) |
パラメータ推定
ゾーン属性データは国勢調査等から常住人口、就業人口などを用いる。なかでも基準変数の取り方としては、面積・人口等が考えられるが、本調査では、トリップ分布の直接の説明要因となる人口指標(従業人口・従学人口・昼間人口)を用いるものとする。
また、ゾーン間交通サービスレベルは、下位モデルの手段分担・経路配分モデルから算出される効用値を用いることにより、各種交通サービスの向上に伴う分布パターンの変化を表現する。
モデルの推定は、パーソントリップ調査に分類されている通勤・通学・自由・業務の4目的に分類して行う。
以下に、モデルの推定に用いるゾーン属性変数を整理する。
表 6−6−3 モデル推定に用いる属性変数
対象 |
|
通勤 |
通学 |
自由 |
業務 |
内容 |
目的地の
属性 |
就業人口 |
○ |
|
|
|
就業人口 |
非就業人口 |
|
|
○ |
|
(常住人口−就業人口−就学人口) |
従業人口 |
◎ |
|
|
◎ |
従業人口 |
2次産業従業人口 |
○ |
|
|
○ |
2次産業従業人口 |
3次産業従業人口 |
○ |
|
○ |
○ |
3次産業従業人口 |
従学人口 |
|
◎ |
|
|
従学人口 |
就学人口 |
|
○ |
|
|
就学人口 |
昼間人口 |
|
|
◎ |
|
昼間人口 |
小売業ダミー |
|
|
○ |
○ |
3次産業従業人口に占める小売業従事者の割合が20%以上の場合に1、その他0のダミー変数 |
神戸以西内々ダミー |
○ |
○ |
○ |
○ |
神戸以西の内々ODの場合に1 |
京滋内々ダミー |
○ |
○ |
○ |
○ |
京都・滋賀の内々ODの場合に1 |
大阪市ダミー |
○ |
|
○ |
○ |
目的地が大阪市の場合に1 |
交通手段の効用値 |
○ |
○ |
○ |
○ |
手段分担モデルにおける各手段の合成効用値(ログサム) |
出発地
の属性 |
常住人口 |
○ |
○ |
|
|
常住人口[人] |
昼間人口 |
|
|
○ |
○ |
常住人口−就業人口+従業人口−就学人口+従学人口[人] |
|
ただし、◎は基準変数、○はその他の説明変数
b)目的地選択モデルのパラメータ推定手順
パラメータの推定手順は、TUF・SSAの二つのモデルで異なる。
TUFモデルのパラメータ推定
TUFモデルのパラメータ推定では、閾値のもうけられた関数の推定方法として知られるHeckmanの2段階推定法のアイデアを踏襲した方法を用いる。
具体的には、ステップ1で目的地選別モデルを推定し、ステップ2で選別モデルの誤差項と選択モデルの誤差項の相関によるバイアス修正項を推定し、ステップ3で、得られたバイアス修正項から選別モデルを再推定してパラメータを得る。
SSAモデルのパラメータ推定
SSAモデルのパラメータ推定では、乗法定理で示される各項(選択肢集合の生成確率と選択肢の条件付き選択確率)の定式化を行うため、ステップ1では選択肢集合の生成確率、すなわち目的地選別モデルの推定を行い、ステップ2では、選択肢の条件付き選択確率の定式化に必要なバイアス修正項の計算を行う。
SSAモデルのステップ1の目的地選別モデルの推定は、TUFモデルと同じ手順となる。
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