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6−4 生成交通量の予測
(1)概要
 生成交通量とは、対象地域内の居住者によって行われるトリップの総数であり、生成原単位とは、1人1日あたりのトリップ回数をさす。ここで、域外からの流出入を考えなければ、域内の総交通量は生成交通量と等しくなる。
 近畿圏(予測対象地域全域)の総発生集中交通量となる生成交通量は、トリップの目的(通勤・通学・自由・業務・帰宅)ごとに、以下の要素を勘案して行う。
 今後は少子高齢化の進展に伴い、若年人口や生産年齢人口の減少、老年人口の増加が見込まれる。また、女性の社会進出が進むことで、交通の活発化も予想される。
 しかし現在モデルでは、市区町村ごとの男女比や平均年齢をもってゾーン代表値としており、人口構成の変化による影響は詳細にはつかみにくい。
 また、免許保有率が上昇を続け、特に女性や高齢者の免許保有率の上昇が顕著で、外出率にも変化が出てきている。
 その他、生成原単位に影響を及ぼすと考えられる要因(個人属性)として、以下のようなものが考えられる。
 
項目 データソース 将来予測可能性
性別 国勢調査・PT 社人研予測 社人研予測
年齢 国勢調査・PT 社人研予測
免許 警察白書等・PT 既往調査になし(年齢スライドにより予測)
自動車保有台数 市区町村別自動車登録台数表 道路整備五カ年計画から入手
職業 国勢調査等 既往調査になし(年齢階層別に現況推移)
 
 特に、性別、年齢別の生成原単位の予測は、今後高齢者や女性の社会進出を考える上で、生成原単位の増加によるトリップ数の増加を考慮することが出来る
 免許保有、自動車保有の有無、職業(第1・2・3次産業・主婦or無職など)についても生成原単位に有意な影響を及ぼすことが予想されるが、将来値の設定が精度良く可能かどうかが課題となる。
 したがって、整備された人口指標を元に、通勤・通学・自由・業務・帰宅目的の交通量について、PT結果より有意性を見定めた上で、生成量予測を行うこととする。
 以上より、生成交通量の予測については、以下の通りとする。
 
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(2)生成原単位の傾向
 平成2年度・12年度に行われた京阪神都市圏パーソントリップ調査(以下PT調査)をもとに、生成原単位の時系列的・ならびに個人属性別の違いの分析を行った。
 なお、原単位指標は、通勤並びに業務目的は就業人口、自由目的は常住人口をベース、通学目的は就学人口をベースに設定した。
 
■ 通勤目的では、年齢がすすむにつれ生成原単位が減少する傾向が見られる。性別による差は特には見られない。また、平成2年と12年とで有意な差も見られないことから、比較的時系列的にも安定していると言える。(これとは別に、就業率が男女別に大きく違うことにより、生成交通量自体は男女間で差があると思われるが、このことについては就業率の予測の方で考慮することとする)
■ 通学目的では、就学人口あたりの生成原単位はほぼ1に等しく、年齢差による影響は、20〜24歳において原単位が若干下がる傾向にある以外はあまりない。(これも、将来の就学率の設定については別途行う)
■ 自由目的では、男女で大きく生成原単位が異なり、女性の生成原単位が特に大きくなっている。年齢別では、男性では60歳以上の高齢者、女性では30歳以上の方が特に生成原単位が大きくなっている。また、時系列で見ると、10年間で特に高齢層を中心に生成原単位が大きく上昇しており、高齢者の外出回数が大きく上昇していることが見て取れる。
■ 業務目的も男女で大きく生成原単位が異なり、こちらは男性の原単位が大きくなっている。年齢別では、20〜30歳代の若年層の原単位が相対的に小さくなっている。また、時系列で見ると、全体的に減少傾向であり、特に若年層で減少傾向が強くなっている。この原因としては、メールやインターネットの普及などで外出の必要性が減少していることが考えられる。
 
 なお、帰宅目的については、基本的に各目的の裏返しとして取り扱うことが適切であると考えられるので、ここであえて取り扱わない。
 
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図 6−4−1   目的別・性別・年齢別生成原単位の比較
(3)目的別・個人属性別に見た生成原単位の特徴
 ここでは、パーソントリップ調査から得られている生成交通量(目的別)が、性・年齢等の個人属性によりどの程度影響を及ぼしているか、統計的手法により分析を行った。
a)通勤
■ 就業人口当たりの生成原単位は、男性、女性ともH2年からH12年にかけては減少している。原因として、IT技術の進歩によるSOHOの進展・自宅内就業率の増加などが考えられるが、統計的に有意な差とはなっていない。
 
表 6−4−1 生成原単位の時系列推移(通勤)
  1男性   2女性
年次 S55 H02 H12 S55
年齢計 0.7466 0.7822 0.7541 0.7437
 
■ 年齢別に見ると、男女とも50歳程度までは生成原単位は0.8前後であるが、55歳以上になると、生成原単位は大きく減少する傾向にある。職を持っていても、出勤日数が減少する傾向が見られるためと考えられる。
 
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図 6−4−2   年齢別に見た生成原単位(通勤)
 
■ 平成12年では、特に女性・高齢者の生成原単位が上昇しており、男性と差がなくなってきている。
 
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図 6−4−3   調査年次別にみた生成原単位(通勤)
 
■ 免許保有・非保有による生成原単位の差は、統計的には有意差はない。
 
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図 6−4−4   免許保有有無による生成原単位の差(平成12年)
 
 以上より、通勤目的の将来生成原単位については、以下のようにまとめられる。
 
個人属性 有意差 時系列 将来の動向・政策上考慮すべき事項 カテゴリ要否
特になし。 女性においては、中高齢層の生成原単位が男性と差がなくなってきている。 女性の社会進出が考えられるが、就業率の問題であり、生成原単位自体には影響はないものと考えられる。 不要
年齢 50歳以下はほとんど有意差なし。高齢に従い原単位が減少する傾向にある。 あまり変化なし。現時点で、特に高齢者の生成原単位が上昇しているという事象もみられない。 今後の高齢化率上昇に従い、生成原単位の小さい層が増える可能性がある。一方、今後は社会進出の増大も考えられるが、
免許 有意差なし。 有意差なし。 通勤目的では免許保有率が生成原単位に及ぼす影響は少なく、政策的にも問題ないと考えられる。 不要
 
■ 通勤目的については、就業人口ベースの生成原単位を用いているが、そもそも女性や高齢者の社会進出によりトリップ数が増大することが予想される。ただし、これらはどちらかというと就業人口の予測(=就業率の予測)に帰着する要因であり、生成原単位自体には影響は及ぼさないと考えられる。
■ 平成2年と平成12年の原単位はそう大きく変化していない。このことは、時系列的にあまり生成原単位が変化していないことを意味する。高齢層の就業者の出勤率の上昇があると考えられるが、過去10年間はその傾向が見られない。これについては、将来予測については必要に応じて感度分析も考えられる。
 以上より、「通勤目的の就業人口当たりの生成原単位は、年齢(5歳階級)別に現況の生成原単位のまま将来も推移する」と仮定する。







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