4. 将来の鉄道ネットワーク整備の基本的方向
4−1 鉄道整備における課題
(1)主体別にみた課題概要(前年度調査)
平成13年度調査では、交通・鉄道輸送の課題を「社会的に見た課題」「利用者から見た課題」「事業者から見た課題」の3つの視点から整理し、その中で鉄道整備に求められている基本的な方向について検討を行った。
以下、主体別の課題概要と基本的な方向である。
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図 3−2− |
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常住人口の増加率(平成7年→平成12年) |
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資料:国勢調査 |
(2)現状の交通環境に関する自治体の認識
近畿圏の交通を取り巻く環境は近年大きく変化し、市民の交通に対するニーズも大きく変化している。
近畿圏における鉄道を中心とした交通の現状について、各自治体(府県・政令市)における認識をとりまとめると以下の通りである。
・ 昭和50年代以降鉄道整備が進められてきた結果、圏域全体での鉄道ネットワークは、比較的高密度に形成されているが、地域によっては速達性、駅へのアクセスなど利便性の低い鉄道不便地域が存在する。
・ 都市部の鉄道ネットワークは、東西、南北軸を基本として概ね整備されているが、鉄道不便地域が存在する。
・ 鉄道の混雑率は、輸送需要の低下傾向等により、概ね150%以下を達成している。しかし、一部区間では高い混雑率がみられる。
・ 鉄道利用者は減少傾向にあり、今後の人口減少、少子高齢化を考えると大きな伸びは期待できない。
・ 鉄道不便地域では、自家用自動車の利用割合が高い傾向にある。
・ 自家用自動車利用の進展に伴い、鉄道、路線バス利用者が減少し、また、都市部では交通渋滞、駐車問題、環境問題、交通事故等様々な都市交通問題が発生している。
・ 全般的にバリアフリー等、移動制約者対策の遅れがある。
・ 過疎化の進展、自家用自動車利用の増加、バス事業の規制緩和などにより地方バス路線の撤退が相次いでおり、生活交通の確保、対策が問題である。
・ 土地利用分布が変化し、従来の都心集中型交通から郊外型へと需要がシフトする中で、公共交通は多様化する利用者ニーズに対応できていない。
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資料:平成14年度自治体アンケートより要約
(3)自治体・事業者アンケートにみる課題と対応
平成14年5月に実施した自治体・事業者アンケートからみた近畿圏における交通(鉄道を中心)の主な課題と対応は以下のとおりである。
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4−2 近畿圏における鉄道整備の必要性と基本的な考え方
(1)鉄道整備の位置付け:量から質への転換
近畿圏における鉄道輸送人員は、景気低迷や失業率増加、モータリゼーションの一層の進展、少子高齢化の進展等により平成5年頃をピークとして減少傾向が続いており、特に、産業構造の空洞化等による雇用情勢の変化を敏感に受ける通勤定期利用者は、現在年率2%程度と大きく減少しているのが特徴である。また、平均混雑率についても、平成9年頃において150%以下となった。
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資料:都市交通年報 |
このような需要動向の中において、近畿圏の鉄道整備については、運輸政策審議会答申第10号に基づき着実な整備が行われており、答申された約220kmの新線に対して、現在までに「JR東西線、関西空港線、地下鉄東西線、大阪モノレール線」等の約50%が整備され、国内ではじめて「償還型上下分離方式」として公営事業者並の補助を適用した「中之島新線、西大阪線延伸」をはじめ、大阪外環状線や京阪奈新線等の20%が事業中である。
このような状況においては、大規模プロジェクト等への対応、混雑緩和という視点からは近畿圏における鉄道整備は量的には相当量進んでいるといえるが、答申第10号の政策目標の柱の1つである鉄道サービスの高度化という質的側面においては未だ十分に鉄道整備が進んでいるとはいえない。
このため、今後の近畿圏における鉄道整備については、新線整備による量的拡大から、既存ストックの有効活用、モード間連携等による質的サービスの向上のための整備へとその重点をシフトすることにより、4−1で記述したような昨今における諸課題に適切に対応することとし、その上で、鉄道空白地帯への対応等、既存ストック活用等では課題の解決ができない部分については、補完的に新線整備により必要最小限の対応することを主眼とすべきである。
(2)鉄道整備の基本的な考え方
a)質的向上の内容:乗り継ぎ利便性向上、シームレス化等の鉄道サービス高度化
近畿圏においては、鉄道の量的整備が進展する一方、乗り継ぎ利便性向上、シームレス化等、利用しやすい鉄道サービスという視点からは十分とはいえない状況にある。
3. で記述したように、答申第10号に基づき鉄道整備が進められた結果、同答申における政策目標に係る諸課題への対応が随時なされているが、特に鉄道サービスの高度化という政策目標に係る乗り継ぎ利便性向上、シームレス化等の質的側面については未だ多くの課題が残されているとともに、開発地内における鉄道サービス空白地の存在、一部区間における混雑の存在等、量的側面においても一部課題が残っている。
さらに、基本的な鉄道整備の方向については、運輸政策審議会答申第19号(平成12年8月)の中において、大都市圏における鉄道整備のあり方として、下記の3点に整理されているが、鉄道事業者間及び鉄道と他の交通機関との間の接続や連携の不備の解消といった「ネットワークのシームレス化」について、早急に解決すべき重要な課題として採り上げられている。
鉄道整備の基本的方向
(運輸政策審議会答申第19号) |
(1) |
利用しやすく高質な鉄道ネットワークの構築 |
(2) |
新たな社会的ニーズに対応した鉄道整備の推進 |
(3) |
効率的かつ重点的な鉄道整備の実施 |
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特に近畿圏では、東京圏に対して相互直通運転化等のシームレス化の遅れが顕著である中で、また、大阪・梅田・天王寺・難波駅等大規模ターミナルを中心とする鉄道路線間の乗り継ぎ利便等の改善が重要な課題となっている。例えば、近畿圏における鉄道は、個々の路線としてのストックは東京圏に対して相対的に量的整備が進んでいる中で、ネットワークとしてのストック形成を図る等、採算性を確保しつつ社会的便益を最大限に発揮できる利用しやすい施設へ転換できるかが課題である。そのためには、「ICカード」等による情報機能強化や、バスとのダイヤ調整を図る等他のモードとの連携を図ることが重要である。
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資料:平成12年大都市交通センサス |
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資料:地域交通年報、社会生活統計指標 |
b)質的向上の手法:事業者間の連携による既存ストック活用と新線整備の一体的整備
鉄道ストックの量的整備が進む一方、鉄道サービスの質の向上が求められる中、今後における鉄道整備の手法としては、既存のストックを最大限活用することを優先し、特に車内混雑のさらなる改善や乗り継ぎ抵抗を和らげることが重要な課題と認識し、「ダイヤ調整や連絡通路の設置」等による連絡性の改善、さらに輸送効率性が高くネットワーク機能向上に対して効果的な速達性向上等、鉄道サービスの質的向上に資する「プロジェクト」を優先的に整備することが必要である。一方、新線整備については、既存ストック活用では対応できない課題解決のための必要最小限の投資に留める必要がある。
例えば、既存ストックが比較的多い都心地域等においては、原則的に既存ストックの活用を優先することにより鉄道の質的向上を図ることが可能である。また、既存ストックが少なく、かつ、鉄道利用不便とされる地域の中で人口集中地区(DID)においては、新線整備が必要であるケースが想定され、事業採算性が高く社会的にも有意義な路線となりうる。一方、既存ストックが少なく、かつ、人口集中地区以外の地区においても、開発事業の伸展等による新たな輸送サービスが必要と考えられる場合においては、バスを中心とする輸送サービスの整備、さらに輸送需要の変化に応じて中量系輸送機関の整備が有効となりうる。
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このような既存ストック活用及び新線整備の効果を最大限に発揮するためには、これまでの鉄道間の競争的関係から公共交通全体の「乗り継ぎ利便性向上・シームレス化」等による共存関係の確立を重点的課題として捉え、双方の取り組みが相互に補完しながら相乗効果をもたらすような一体的整備を行うことが重要である。このことが便利で快適な質の高い輸送サービスを提供することを通じた、鉄道を中心とする公共交通全体の需要顕在化へ繋がるものと考えられる。
c)需要の量的変化への対応:交通需要追随型から交通需要転換型鉄道整備への転換
これまでの鉄道は、経済の高度成長を背景とした都市人口の急減な増大と郊外化、大規模な開発プロジェクトの進展、著しい車内混雑緩和等への対応が社会的にも大きな課題とされていた中において、新線整備を中心に事業化されてきた。すなわち、大規模プロジェクト等の進展に伴って大量に発生する交通需要をいかにして効率的に輸送するかといった、長期的視野のもとでの局所的な交通需要追随型であり、これにより、圏域全体のストックの量的整備が進んできた。
しかしながら、今後の近畿圏を取り巻く社会・経済環境は、2005年をピークとする常住人口の減少、本格的な少子高齢化の進展、自動車交通の増大に対応した地球規模・地域レベルの環境改善への取り組み要請、また、インターネットや平成15年度から本格的に導入される「ICカード」に代表されるような高度に情報化された社会の到来等、今まで経験したことの無い社会・経済構造となることは確実である。
このような交通を取り巻く環境における今後の鉄道整備は、これまでのような長期的、局所的な新線整備ではなく、短期的かつ様々な環境変化に対応可能な鉄道サービス向上施策を中心に行うことが重要である。すなわち、既存ストックを最大限に活用し、刻々と変化する利用者ニーズに対応した競争力を持つ柔軟かつ高度な輸送サービス提供により、鉄道需要を創出し、都市交通の環境負荷軽減等を図るための一方策として、マイカーから鉄道への転換を図ることが重要と考える。
今後とも、鉄道の有する「安全性・定時性・速達性・低公害性・低廉性」といった他のモードに無い機能を最大限に活用した需要転換策を強力に進めることが、これから迎える世界でも類をみない高度な高齢社会への対応や地球規模・地域レベルの環境問題の解決に寄与するものと考える。
d)需要の発生方向の変化への対応:都市構造の変化に応じた公共交通の充実
これまで京阪神圏における都市機能の中心的役割を果たしてきた大阪市域においては、産業の空洞化や雇用環境の変化等による従業人口の減少が続いている。また、郊外部においては、急速な高齢化とともに自動車交通の増大等に対応した大規模集客施設や製造業等の立地が急速に進展しているなどにより、環状方向を中心とする短距離トリップの割合が増加している。
このように都市環境が大きく変化する中において、京都、大阪、神戸市域における都心部では都市再生事業が進められ、また、近年では都心部における相対的な資産価値の低下等に伴う立地効用の増大による人口の回帰現象が顕著となっている。
すなわち、大阪市域を中心とする放射状型の鉄道ネットワークは、未だ根幹的な需要への対応の上で重要であるが、放射状では対応が困難な都市構造の変化が生じていると考えられる。今後、変化する都市構造への公共交通の対応としては、他モードによる対応を図りつつ、必要に応じて、都市構造の変化に対応する速効性の高い速度向上等既存ストックの有効活用や鉄道整備の推進が必要である。
また、関西経済の活性化に繋がる「都市再生事業」への積極的な関与が交通需要を先行的に取り込むことに繋がり、このことが鉄道全体の活性化を図る上において重要なことである。
一方、都市を鉄道優位な構造へと先導するような思想や技術開発も重要と考える。例えば、蒸気機関車から電車方式が開発・導入されることによって、都心と郊外間の所要時間は飛躍的に短縮され、これにより郊外部を中心にした大規模な住宅開発等が可能となり、都市圏は拡大を示したと言える。すなわち、速度向上や路線間の連絡性向上、また、他のモードとの連携等シームレスな輸送サービスの提供により移動時間の短縮が促進され、新たな都市構造に対応した交通体系形成に繋がるものと考える。
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