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第4章 まとめ−システム提供能力の強化の背景及びメリット
 以上、欧州舶用工業の全般的な現状と動向、欧州の航海・通信機器システムメーカー及び推進システムメーカーの動向を見てきた。
 第1章で紹介した"UK Marine Industries World Export Market Potential"において述べられているように、海事産業においては、統合システム、統合パッケージの市場は拡大しており、今後強い国際競争力を確立・維持するためには、舶用機器単体を提供するのみならず、統合システム、統合パッケージを提供できるOne-Stop-Shopとなることが一つのポイントとなってくると思われる。欧州舶用メーカーではシステム提供能力の更なる強化が図られているが、この背景、メリット等について以下にまとめる。
1. システム提供能力強化の背景
(1)コスト削減の手段
 欧州では、船舶建造のコストダウンを図るため、専門下請け業者への依存の増大や業務の組立へのシフトなどの構造変化が進んでおり、造船所や船主は船舶建造プロジェクトの実質的な部分を一括してアウトソーシングするケースが増加している。
 
(2)船舶の複雑化
 高速船やIT技術を用いた舶用システムの増加、ディーゼルエンジンとガスタービンの結合推進システムの導入等、最近の船舶の複雑化の傾向は、機器システムのシングルソース化や完成引き渡しを更に増加させている。
 
(3)船舶ライフサイクルサポートの要請の増大
 船舶運航者は激しい競争にさらされており、[1]常に船舶の信頼性を維持する必要があること、[2]運航者の組織のスリム化に伴う保守整備のアウトソーシング、[3]船舶の複雑化、船員問題による船舶におけるメンテナンス能力の低下等から、船舶のライフサイクルサポートの要請が増大してきているが、統合システムを提供するOne-Stop-Shopはライフサイクルサポートの提供が可能である。
2. システム提供能力強化のメリット
(1)品質と信頼性の向上
 個々の機器の適合性を十分確保できることから、システムの品質と信頼性の向上を図ることができ、結果としてライフサイクルコストの削減につながる。
 
(2)効率化
 購買、設計、設置、保守整備の全ての段階において製品の全てを知り尽くした一つの会社が全ての責任を負う(責任の一本化)ことから、製造メーカー間の調整が不要であり、作業の効率化が図られ、船舶建造プロジェクトの期限内完成を確実にする。また、個々の機器の適合性が十分確保できることから、機器、システムの設置が容易であり、作業の効率化が図られる。
 
(3)技術力・開発力の向上
 機器システムの提供は、機器単体の提供に比べてシステム設計能力等高い技術力が求められるほか、顧客の個々のニーズに常に対応する必要があることから、必然的に研究開発に重点を置くこととなり、技術力・開発力の向上が図られる。
 
(4)低価格
 欧州では、一般的に機器システムで購入する方式の方が機器を個別に購入して作り上げるより安価であると言われている。また、一定の監督や技術指導により、中国等労働力の安価な造船所において高度な機器システムを搭載した船舶の建造が可能であり、高度な機器システム搭載船の低価格での建造が可能となる。
 
おわりに
 現在、欧州の舶用工業界では、航海・通信機器メーカー、推進システムメーカーを中心にシステム提供能力の更なる強化が図られている。これらのメーカーの多くは提供システムについてライフサイクルサポートをも提供し、設計からエンジニアリング、保守整備までの全てを引き受けるOne-Stop-Shopとして国際競争力を確保し維持しようとしている。欧州では、これを実現するため、合併・買収やグループ化、業務提携がここ数年急速に進んでいる。これは限られた規模の市場において生き残っていくための企業合理化の側面もあると思われ、現在、欧州舶用工業界ではシステム能力強化と企業合理化が絡み合いながら、合併・買収、グループ化、業務提携が進んでいるものと思われる。
 
 このような動きには不確定な面もある。例えば1998年にKvaenerグループの機械エンジニアリング部門であったKvaerner Ship Equipmentと合併してシステム供給能力の向上を図ったHamworthy KSEは業績低迷を理由に売却されるとの憶測も流れており17(Lloyd's List(2000年11月6日、7日付、2001年7月3日付))、システム提供能力の強化が常に業績の向上に結びつくわけではない。また、今回取り上げた航海・通信機器メーカーの合併、グループ化は、まだ組織の融合がまだ図られていないものも多く見られることに加え、国際競争がかなり厳しくなってきている様子であることから、これらの合併、グループ化の成否を判断するにはもう少し時間が必要であると思われる。
 
 現在、欧州舶用メーカーはシステム提供能力の強化、One-Stop-Shopとしての対応能力強化を図ることにより、顧客ニーズへの対応能力の向上、技術・開発力の向上、革新技術開発による新たな需要創出等に努めている。また、英国やオランダでは、業界団体ベースにおいても、オフショア石油・ガス事業、海軍関連事業等海事産業全体の連携の強化により、あるいは、一国だけではなく欧州全体の連携強化により国際競争力の強化を図る動きがある。
 
 舶用市場は限られたマーケットであり、欧州舶用メーカーは企業ベース及び業界団体ベースでこの中で如何に生き残っていくかを企業ベース及び業界団体ベースで模索している。








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