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5. 補足と高速船技術の展望
 現在、USCGには系統だった高速船の安全や環境規則はなく、HSC 2000や船級協会規則を参考に図面承認を実施し、乗組員の教育を規定しているのが実態である。
 USCG客船規則は、安全・環境の面から時代遅れな部分が多く、米国内でUSCG規則に従って高速船を建造したある船主は、結局、USCG規則、HSC、船級協会規則の適用ある部分に従って建造せざるを得なかった、と述べている。
 USCG規則サブチャプターKとHSC 2000ではハードウエアについては大きな違いはない。ライフラフトのマージンがHSC 2000の方が25〜35%多いこと、居住区画における防火・消火の考え方が異なる程度である。
 米国の高速船マーケットは、今後とも発展を続けていくと予測されているが、今後建造される高速船は、国際基準の設計に基くものが主流となるであろう。
 一方、高速化に対する要望はますます高まるものと予想される。2001年の始め、ロンドンで行われた会議「Propulsion 2001」で、英国の高速船設計コンサルタントのNiegel Geeは、今後数年間の高速船の速力と採用機関につき下記のような見通しを述べている。
◆ 予想速力 ― 高速客船 75kt、高速フェリー船 60kt、高速貨物船 40kt以上。
◆ 高速パトロール船 50kt以上、高速クルーザー 80kt。
◆ 採用機関 ― 機関をディーゼルとするか、ガスタービンとするか、の判断は20年間にわたる船のライフサイクルコスト計算で決定されるが、メーカーから機関メインテナンスコストの情報が得られないので比較は難しい。ガスタービンは軽量であり環境上も好ましいが、燃費が高く、20年間のライフサイクルコスト計算ではマイナス要因も多い。
 
 2-3節で述べたように、速力が50ktを超えるとSESの様な浮上機構を持った船舶が有利になる。構造についてはSESのみならず、一般にケプラーとエポキシを使ったFRP船が多くなり、長さ70mの壁も緩和されると予想される。本文で繰り返し述べたように、高速化は軽量化の裏返しであるので、上記の更なる高速化達成のためには更なる軽量化が必要である。
 芯材をハニカム構造としたFRP材料が許可されるようになるかもしれない。かつてデユポンが船舶用FRP芯材としてNomexハニカムを売り出したが、評判は悪く市場から消えたことがあった。
 理由は船底側の表皮が破れると水がハニカムに侵入し、安全上好ましくない、というものであったが、最近ケプラーとエポキシの表皮材やハニカムに詰め込む水を通さない軽い充填材が開発され、再びハニカム構造が見直されている。ハニカム構造には次のような幾つかの利点がある。
◆ 通常のFRP構造よりも30〜50%軽い。
◆ ハニカム構造は強度が強く剛性が大きいので、船体全体の構造を単純化できる(肋骨の形成が不要、または削減できる)。
◆ ハニカム構造は構造内が小区画に分かれているので、浮力が非常に大きい。
 
 以上のように高速化の要求は強く、今後も多様な船型が開発され、大型化も進められるであろう。また、このために新素材の開発や、これに合わせて新しい船舶製造技術の開発も進むことも十分考えられる。
 一方で、現在の規制は、高速船を十分にカバーしているとは言えず、規制側は高速船の実態を取り込み中であるのが現実である。今後の高速化、大型化あるいは開発される新技術に対して、規制側が迅速に、そして的確に対応することが、近い将来の課題と思われる。








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