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5. CCDoTTプログラム
 民間のプロジェクトではないが、FastShipに類似したプロジェクトが国防総省等によって進められている。これは高速シーリフト船の開発計画で、海軍が実施する戦略輸送に高速輸送船を組み入れるものであり、CCDoTT(Center for the Commercial Deployment of Transportation Technologies:商業輸送による展開技術センター)プログラムと呼ばれている。一件、純軍事的な調査研究のようにも思えるが、プログラムの主要な目的の一つに「技術開発と運用の改善を通じ、米軍展開能力の一部を構成している米国籍商船の国際競争力を強化する」と明記されており、実際は高速貨物船と港湾荷役システム等の関連システム開発に限りなく近く、FastShipプロジェクトに極めて類似している。
5-1 組織
 
 CCDoTTは、1995年に大学の輸送研究センターとして設置された。設置当初は、国防総省の経済調整部から資金を得ていたが、現在は国防予算支出権限法の中で独立した予算項目となるに至っている。
 参加機関は、大学の研究開発部門、民間の海運会社及びロジスティクス等の関連会社、造船所(船舶設計事務所を含む)や舶用機器メーカー等である。また、連邦政府機関からはMarAdと国防輸送司令部(US Transportation Command)がメンバーとなっている。事務局は、カリフォルニア州立大学のロング・ビーチ分校に置かれている。
5-2 背景
 
 冷戦終結後、在欧米軍の相当部分が削減される一方で続発する地域紛争に対処するため、米軍には展開能力の充実が求められている。湾岸戦争時、米陸軍は6個師団を戦域展開するのに180日間を要した。現在、5個師団を75日以内に展開することを暫定的な目標としているが、陸軍作戦本部長が示した最終目標は、5個師団を30日以内に展開することであり、湾岸戦争当時の展開期間の80%を削減することに等しい。同時に小規模部隊の緊急展開も要求されており、1個旅団であれば96時間以内、1個師団であれば120時間以内に展開することも目標とされている。
 しかし、有事に対応できる事前配備船や即応予備船隊として、現在米軍に配属されているのは基本的に通常型の貨物船であり、速力が遅い上に喫水が深い。事前配備船(予めアジアや欧州等の港湾に軍需物資を積載し、整備されている船舶)の前進配備については、国際関係で配備が難しくなっているのに加え、常時テロにさらされるリスクもある(同時多発テロ以前からの指摘)。また、喫水が深いため入港できる港湾が限定され、展開したい戦域に最短の港湾へ入港できない可能性が高い。
 以上から、高速戦略シーリフト船(高速輸送船)の検討が必要とされた。さらに、このような高速輸送船は、平時においては高速貨物船として商業利用の可能性があり、米国海運、特に米国籍船の競争力向上にも役立つ、とされた。これは、商業利用も可能な高速貨物船であれば、平時の維持費用が著しく軽減できるため、という理由もあるものと思われる。
5-3 プログラムに対する要求
 
 急速な展開を行うためには、輸送船を高速化するだけではなく、港湾やターミナルにおける作業の時間短縮も必要である。このため、近年発達が著しい商船分野での高速船技術を取り入れるのみではなく、最新の港湾やターミナルの管理、運用手法も取り込んだトータル・システムを開発しなければならない。これには、従来作業時間短縮のネックとなっている、輸送モード間インターフェイスの改善も含まれる。このトータル・システムは軍事輸送にとっても商業輸送にとっても共通のものであるが、背景となる要求は軍事面、商業面で異なり、それらを同時に満足させることがプロジェクトの目標でもある。
 まず、軍事面からの要求を整理してみる。第一に米国の安全保障に対する変化に対応できる展開能力が要求されている。これについては前述の通りである。第二に戦力の移動のみならず、兵站補給についても高速化と柔軟性が求められている。これまで「展開」といえば戦力(部隊)の展開が重視され、兵站補給がこれに追いつかないこともあった。第三に陸、海、空の輸送能力を統合した、米軍全体の輸送能力の向上が求められている。輸送船ばかり高度化しても、車両や航空機との連携がなければ戦域への展開はできない。第四に兵站補給の運用と管理の改善である。送り出した軍需物資が目的地に届かない、到着の優先順位が違う、といったミスは許されない。
 次に商業面からの要求を整理してみる。第一に港湾の効率と生産性の向上である。近年、米国を中心とする海上荷動き量は増加を続けており、世界経済のグローバル化が進めば荷動き量は飛躍的に伸びるであろうが、港湾の作業効率は向上しておらず、このままでは港湾が著しく混み合うのは避けられない。第二に輸送モード間をまたぐ輸送について、速度、監視体制そして信頼性を向上させることである。これについては、荷主側も運航者側も強く望んでいる。最後により大型で高速の貨物船を開発することである。海上荷動き量の増加に伴い、大型高速貨物船は必ず要望されるだろうが、これは特別の場合に特別に建造される存在であってはならず、継続して設計改良され、建造され、運航されるものでなければならない。
5-4 主要な技術開発テーマ
 
CCDoTTプログラムにおける主要な開発テーマは、以下の4項目である。
[1] 先端港湾ターミナル・システム
[2] 高速輸送船システム
[3] 急速展開システム
[4] 指揮管理システム
 
 まず、先端港湾ターミナル・システムであるが、IT等先進の技術を導入し商業港湾の効率と機能を高めることをテーマとしている。研究としては、先端港湾ターミナル・システムの詳細な試設計を行い、シミュレーションにより経済的及び技術的妥当性を検討し、能力と機能を実証することとしている。
 次に高速輸送船システムであるが、これまで商業用及び軍事用に考案された高速船型を評価し、このプロジェクトに合致する船型を選択することをテーマとしている。また、目標とされる速力や海象に適した経済的で高効率の推進システムや、船舶制御技術も開発することとしている。このため、クバナ・マサ・マリンをチーム・リーダーとする開発チームにより超高速三胴型輸送船の開発を進めている。開発チームには高出力で高効率のウォータージェットの基本計画を行うBand-Lavis & Associates、米国の軍艦や輸送船に詳しいバース鉄工所とNASSCO、水槽試験を実施するデビット・テイラー水槽、コンピュータ流体力学解析を行うコンピュータ会社等が参加している。
 急速展開システムと指揮管理システムについては、上記の2システムの開発後に、その成果を踏まえて開発することとしている。
5-5 超高速三胴型輸送船(Very High Speed Sealift Trimaran:VHSST)
 
 高速船は単胴型から発達し、双胴船型、SES等が現れた。高速輸送船を考える場合、旅客よりも貨物の積載を考慮しなければならない。また、外洋を相当の距離に渡って航行することも要求されるので、ある程度の燃料が積載でき、かつ、耐航性も確保されていなければならない。とすれば、外洋ではピッチングが問題となりまた燃料搭載量が少ない双胴船型や、貨物積載量が確保できず航続距離の延伸も困難なSESではなく、単胴船型を基礎としなければならない、とクバナは考えてきた、という。
 クバナ・マサ・マリンでは、単胴船のL/B比を大きくし細長くすることで高速化を追求してきたが、横安定性を考えればL/B比を大きくすることにも限界がある。そこで、単胴船の両側に、横傾斜から船体を支持できるアウト・リガーを配置して主胴を支える三胴船型が考案された。従って、この三胴船型は、同じ形状の胴が3つ並ぶのではなく、主に浮力を支え主機関や燃料などの収納スペースを有する大きな主胴と横傾斜に対抗する側胴からなるもので、純粋な意味での「三胴船」ではない。
 側胴は、横傾斜時に主船体を支持するだけでよいので、長さは主胴の半分程度、幅は4分の1から5分の1もあれば十分である。むしろ、余分な抵抗とならないよう水線面面積を抑える必要がある。船体重量の80%以上、場合によれば90%以上は主胴によって支持される。また推進システムは主胴内に配置されるが、速力の要求が高い場合で側胴のスペースに余裕がある(VHTSSが大型化すれば、当然側胴の幅も広がる)場合は、推進システムを設置することは可能である(ただし、エンジン・コーミングにより甲板の使い勝手は悪くなる。)。貨物は甲板積載が基本であり、主胴と側胴にまたがる幅広い甲板に積載される。軍事輸送船であることから、荷役はRO/RO方式であり、船尾にランプを設ける。なお、最上甲板をヘリコプター甲板とし昇降用エレベーターも備えており、ヘリコプターの離着船と収納も可能である。
 側胴を主胴の前方、中央部、後方にそれぞれ配置して検討してみたが、推進抵抗には大きな変化はない模様である。ただし、あまりに主胴の後方に側胴を設けると、主胴が生じる引き波の干渉により推進抵抗が増加する。一方、貨物の荷役や、航海中の貨物損傷の可能性といった配置面から考えれば船尾甲板が広い方が良く、この意味では側胴は可能な限り後方に、できれば3本の胴の後端が一致するように配置すべきであるが、予め、引き波が干渉しないよう水槽試験等で確認する必要がある。側胴の位置による船体運動の変化については詳細な検討はしていないが、主胴が船体重量のほとんどを支えている以上、運動は主胴によって決定され側胴の影響は小さいと思われる。
 VHSSTについては、高速輸送船としての基本計画を検討しているところである。現在、大中小の3船型について検討しているが、3船型の要目を表I-6に示す。
表I-6 VHSSTの代表船型例
  VHSST-60(小型) VHSST-50(中型) VHSST-40-1(大型)
長さ 341m 314m 299m
全幅 61m 64m 69m
主胴喫水 8.4m 9.0m 9.8m
満載排水量 30,000t 36,000t 45,000t
主機関、推進装置、最高速力* GT×12、WJ×6 GT×10、WJ×5 GT×6、WJ×3
60kt 52kt 41kt
GT×8、WJ×4 GT×6、WJ×3 GT×4、WJ×2
51kt 43kt 35kt
GT×4、WJ×2 GT×4、WJ×2 GT×2、WJ×1
38kt 37kt 24kt
貨物甲板面積 31,800m2 33,600m2 36,400m2
*:GTはガス・タービンでGELM6000型、WJはウォータージェット
 
搭載を予定しているウォータージェットは大型であるので、上表の内、小型と中型でウォータージェットを5基以上必要とする高速バージョンは、側胴にも推進システムを配置することになる。なお、この船型の開発に当たっては、水槽試験のほか、コンピュータ流体力学水槽(Computational Fluid Dynamics:CFD)も用いられた。
5-6 商船への転用
 
 超高速三胴型輸送船は、商船にも転用可能でなければならないことから、VHSSTシリーズの開発と並行して商船へ転用した場合の検討も実施されている。この場合、純軍事用の設備、例えばヘリコプター発着甲板やヘリコプター用エレベーター等は不要となる。
 商船へ転用するとした場合、超高速三胴船は沿岸航路から大洋横断航路まで、幅広い用途があるが、近い将来に需要が発生すると思われるのは、沿岸の短距離航路であるとした。例えば、米国の東海岸を南北に縦貫するInter State 95は、ボストン、ニューヨーク、ワシントンDCといった大都市を接続し、マイアミにまで至っているが、交通集中が激しく渋滞が恒常化している。このような航路に超高速三胴船を投入するとすれば、表I-7のような船型が考えられる、としている。
表I-7 短距離沿岸航路用超高速三胴船の例
Short Sea Coastal Express(SSCE)
長さ(m) 165 主胴長さ(m) 165 側胴長さ(m) 65
全幅(m) 32.2 主胴型幅(m) 11.5 側胴型幅(m) 3.4
    主胴喫水(m) 4.5 側胴喫水(m) 3.0
 
 甲板のスペースを有効に使うため、エンジン・コーミングは設けず、吸気と排気は船体側面の吸気口と排気口より行う。これにより、甲板には10の全通レーンを設けることができ、長さ10mのトラックやシャーシであれば約96台が積載できる。実際に要求されるスピードや航続距離は未定であるが、波浪階級5の海象において航海速力40kt、航続距離1,250海里を想定しており、主胴内に大型ウォータージェットを2基搭載する計画である。側胴は幅が狭いため、大型ウォータージェットは積載できない。載荷重量は約1,600tとなっている。
 超高速三胴船型を大洋横断航路に用いるとすれば、船型からRO/RO船が最適だと思われる。このようなRO/RO船はシャーシごとコンテナを積載すれば、港湾ターミナルでの荷役時間も短縮できる。今後、大洋横断型を開発するとすれば、耐航性向上と燃料搭載量確保のため、側胴の大きさを大きくすることを検討する必要がある。この結果、大洋横断型の超高速三胴船は、より単胴船から三胴船に近いイメージとなるであろう。
5-7 開発成果と今後の課題
 
超高速三胴輸送船の開発成果としては、以下のようなものが挙げられる。
 
[1] 側胴の大型化
 船体速力を低下させない範囲で側胴を大型化させる目処がついた。これにより、耐航性の向上、航続距離の延伸、搭載重量の増加を達成することができる。また、側胴内にも推進システムを置くことも可能となった。
 
[2] 胴体間の干渉の把握と全抵抗の削減
 側胴を船体前方から後方までの様々な位置において水槽試験を実施し、かつ、CFDにより解析した結果、胴体間での引き波の干渉を低減させ、全抵抗を削減させる目処がついた。
 
[3] 超大型ウォータージェット
 出力80MW〜100MW(10万〜13万PS)という超大型ウォータージェットを実際に設計、製作する目処がついた。
 
[4] 波浪貫通型船首と極小船尾
 超細型の主胴の船首は波浪を貫通できるWave Piercing、トランサムは極力小さいものになるようにまとめた。この結果、船型抵抗係数(造波抵抗)を極力削減することができるとともに、耐航性も向上した。波浪階級7の海象における速力低下は50ktから48ktに過ぎない。なお、船体構造の基本設計はABSとLRのルールに沿っている。
 
[5] 広い甲板面積
 側胴から側胴に渡る幅広の甲板を形成できるため、船の長さに対し十分広い甲板を得ることができた。これにより、大量の車両を迅速に搭載、陸揚げすることができる。
 
 2001年のCCDoTTプロジェクトの開発課題とされているのは、[1]三胴船開発を支える研究開発、[2]設計の詳細化と評価、である。研究開発については理論的なものが中心であり、CFDによる解析手法の高度化、船体運動の検討、耐航性の検討等が含まれる。設計については、コスト的な面と技術的な面から超高速三胴商船の設計を詰めるとともに、船体構造の強度解析を実施し、設計要件に関し船級協会の評価を受けることとしている。また、引き続き、大出力推進システムの設計開発を進めている。
 今後の課題としては、水槽試験とCFD解析の結果を照合してCFD解析の有効性を向上させること、状況に応じて最適のCFD解析手法を選択できるようにすること、商船型の開発を進めること、等が挙げられている。
5-8 DASHと超電導電気推進システム
 
 これは、CCDoTTとは直接関係ないが、やはり国防総省の海軍調査部が主導しているプロジェクトであるので、簡単に紹介しておく。DASH(Dual-Use Advanced Slender Hull)とは、超細型の船体による双胴船であり、用途は輸送船のみではなく戦闘用艦艇もスコープに入っている(むしろ、戦闘用艦艇が主目的であろう)。最大速力は70kt、搭載重量(貨物又は兵装)は5,000tで航続距離6,000海里が最終目標である。推進システムには超電導電気推進システム(発電機とモーター)が考えられている。
 超電導モーターについては、2001年にAmerican Superconductor社が世界初の5,000kW(約6,600PS)の超電導モーターを発表し、実証試験を実施している。同社では2005年までに25MW級(約33,000PS)の超電導モーターを開発する計画である。超電導発電機についてもゼネラル・エレクトリック(GE)と共同開発中であり、2004〜2005年には商品化する計画だという。同社の現在の超電導材は、炭酸ガスコンプレッサーによる冷却で超電導状態となることから、零下80℃程度でも超電導状態になるものと思われる。また、同じ径の銅線の140倍もの電導性があるという。
 超電導モーターの特徴として、低出力域、特に定格出力の5〜10%の領域で効率が極めて高い、ということがある。逆に85%以上の領域では、一般のモーターと効率の差はほとんどない。従って、定格出力の85%程度の出力を安定的に長時間に渡って使用する商船に対しては、効率面でのメリットはほとんどないことになる。これは、軍事用といっても商船に近い運航パターンである輸送船も同様であろう(もっとも、軽量化、省スペース、設計の柔軟性向上、というメリットは普遍的なものであるが)。逆に、平時は低速で航行し、戦闘時に高速性を発揮する戦闘用艦艇には適している、といえる。








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