4. ADXプロジェクト
米国のプロジェクトではないが、言及する価値があるのが、最近のアブ・ダビ・コンテナ・ライン(ADCL)船に関する事件である。これは、今後のADXプロジェクト、及び高速貨物船一般に影響を及ぼしかねない。
ADXは、スイスに本拠を置く大手海運グループNorasiaの創設者により設立されたスイスの会社であり、細長く、スレンダーな船体設計に基づいた一連の40kt、積載量1,000TEU貨物船を建造を計画していた。英国の船舶設計事務所であるNigel Geeが、ペンタマラン設計を開発した。ADXは、当該船はFastShipプロジェクトで計画されているものよりも大幅に低価格であると主張し、一隻あたり1億ドルの値段をつけていた。当該プロジェクトは報道等で大きく取り上げられた。
ADXプロジェクトの開発者は、アブダビ・コンテナ・ラインズの株主である。同社は、欧亜航路で所用時間を減らすために寄港数を5港に抑えた6隻の25kt、1,388TEU船による高速コンテナ輸送サービスを行う会社である。これらの6隻は、Nigel GeeがNorasia向けに設計した10隻シリーズの一部であった。Norasiaが昨年定期船事業をCompania SudAmericana de Vaporesに売却した際に、Norasisaの創始者グループは、新たにADXを設立し、同社は10隻の部分的所有権を持っている。アブダビ投資会社がADCLの51%を所有、ADXが49%を保有している。
2001年7月半ばに、モーゲージ未払いで10隻が差し押さえられ、ADCL事業は崩壊した。財政危機は、機械的故障(新規に開発された可変ピッチ・プロペラの問題だとされている)のためスケジュールが乱れ、顧客関係が悪化したためとされている。船舶は債権者により未払いローンの一部を埋め合わせるために売却されることになっているが、売却によっても債権者の債務が完全に相殺されることはない、と見られている。
その結果、ADXは完全に業務停止を余儀なくされ、従業員のほとんどが解雇された。この状況を鑑みると、ADXが新たな高速コンテナ船プロジェクト進行に必要な資金を調達できるとは考えられない。さらに、重要なのは、他の高速船プロジェクトよりは遅いが、それでも十分に高速のADCLシリーズが失敗したということは、今後の高速船プロジェクトの実現性に影響を与えかねないことであろう。しかし、Nigel Gee(ADCLの高速コンテナ船に加え、ADX向けの新型高速コンテナ船も設計)は、ADCLの失敗により、高速船の将来の扉が閉じられたわけではないと信じている。Gee氏は、ADCLの失敗により高速コンテナ船の将来の望みは絶えたというのは、まったく「ばかげている」と述べ、可変ピッチプロペラの失敗は、「高速貨物船が実現不可能だということを意味していない」とした。