2. MarAd高速貨物フェリー
MarAdと米国輸送司令部(U.S.Transportation Command)は、高速フェリーと高速貨物船のパラメーターと市場を評価するために、米国港湾水路研究所(NPWI)に多段階研究を委託した。NPWIは、ルイジアナ州立大学とジョージ・ワシントン大学の合同研究プログラムであり、2000年6月に当該研究の第二段階を完了した。NPWIの研究第二段階の結論を次に論じる。
2-1 プロジェクト概要
第二段階で、NPWIには4つの課題が与えられた。(1)高速沿岸海運船腹が利用できる潜在的な貨物及び旅客の流れを評価し、(2)利用可能な船舶設計を検討し、(3)可能性のあるいくつかの沿岸海運システムの経済性を分析し、(4)船舶の軍事利用を評価するというものである。海運会社、港湾当局等、25企業・組織からなる諮問グループがプロジェクトを指導するために結成された。
2-2 潜在的な貨物・旅客の流れの評価
研究チームは輸送距離250マイルを境として、これより長い距離の輸送では沿岸海運が利用される公算が高いと仮定した。米国東海岸のトラック輸送の85%は、250マイル未満の輸送距離であった。沿岸海運利用の可能性が最も高いと当初考えられていた地域間で、トラック輸送は、比較的小規模であることがわかった。というのは、ほとんどの輸送は、地域間ではなく、地域内で行われていたのである。研究チームによれば、ニューヨーク/フィラデルフィア地域内を毎日13,000台のトラックが移動しているが、沿岸海運に最適のルートであるニューヨーク/フィラデルフィア地域とマイアミ地域間を通行するトラックは片道100台にすぎないことが判明した。東海岸のI-95高速道路の一日のトラックの通行量のマトリックスを図I-7に示す。
この研究では、他の沿岸交通についてのデータは示されていない。また、沿岸フェリーサービス利用の可能性のある旅客交通量の見積もりもされていない。しかし、沿岸フェリーは、米国ではトラックと同乗する運転手以外の旅客輸送を引きつけられないという結論を出している。著者は次のように分析している。
旅客/貨物をあわせた沿岸輸送システムが提供されても、米国の旅客にとって魅力的かどうかは疑わしい。たとえば、マイカー、飛行機、バス、列車等の既存の公共輸送機関が使用できることを考えれば、ニューヨーク/マイアミ間の旅客が、48時間を船上で過ごすとは考えられない。
この結論は、バージニア北部とフロリダ間を長年運航しているオートトレイン3の成功とは矛盾するように思える。このサービスは2つの地域間を移動するかなりな数の乗用車を引きつけてきており、東海岸沿いに、運転手と自動車の同時輸送の相当規模の市場が存在することを示している。旅客を沿岸海運に引きつけることはできないというNPWI研究の結論は疑問であり、少なくとも、さらにその可能性を追求するべきであると考える。
  |
着 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
発 |
1 |
バンガー、ポートランド(ME) |
2,987 |
2,486 |
232 |
214 |
14 |
32 |
28 |
ボストン(MA),プロビデンス |
2 |
ハートフォード(CT), |
2,718 |
12,968 |
2,629 |
348 |
96 |
124 |
115 |
ニューヨーク(NY)、ハリスバーグ、 |
フィラデルフィア(PA) |
3 |
ボルチモア(MD)、ワシントン DC |
54 |
2,087 |
7,542 |
1,400 |
97 |
27 |
22 |
リッチモンド、ノーフォーク(VA) |
4 |
R.マウント、ウィルミントン、フェイエットヴィル、ローリー、 |
113 |
864 |
1922 |
12,238 |
2,414 |
217 |
49 |
グリーンズボロ、シャーロット(NC) |
5 |
コロンビア、フローレンス、 |
42 |
152 |
176 |
1,651 |
2,071 |
529 |
46 |
チャールストン(SC) |
オーガスタ(GA) |
6 |
サバナ(GA) |
25 |
101 |
77 |
181 |
323 |
1,390 |
2,271 |
ジャクソンビル、オーランド(FL) |
7 |
マイアミ(FL) |
27 |
98 |
42 |
45 |
65 |
3,114 |
― |
出典:National Ports and Waterways Institute
概ね、同研究の結論は、沿岸高速船向け市場の存在という点では、明るいものとは言えない。研究チームは、明言は避けているが、現在、陸上長距離輸送を利用している市場に参入するのは非常に困難であると暗示している。たとえば、同報告書は、沿岸システムは、「特殊な市場ニッチに訴える必要があり、恐らくトラック並の水準のサービスを要求するトラック輸送の大部分を相手にすることはできないであろう」としている。
2-3 利用できる船舶設計の検討
同研究では、高速貨物船の設計を開発するかわりに、研究チームは、ヨーロッパと日本に焦点をあて、沿岸及び短距離海運の例について、米国における利用の可能性を検討した。検討の対象になった設計/事業は、(1)Stena HSS 40ktカタマラン、(2)Austal高速貨物船、(3)MariTerm船、(4)テクノスーパーライナー、である。設計については、ざっと表面をなでただけであり、これらの設計の米国における利用可能性についてはほとんど論じられていない。
2-4 沿岸海運システムの経済性
同研究では、経済性分析の目的のために、沿岸航路輸送に利用可能な5つの一般的設計を選んでいる。高速カタマラン、高速モノハル、高速RO/RO、小型LO/LO、タグ/バージである。高速カタマラン(36kt)、モノハル(25.2kt)の2設計のみが高速設計となっている。建造コストはカタマランが最高で4,500万ドル、最低がタグ/バージの1,200万ドルである。船舶の運航コストは、償却期間20年資本投資コスト償却と、乗員人件費、燃料、その他を含め、トレイラー・マイルあたり、カタマランで1.34ドル、小型LO/LO及びタグ/バージで0.24ドルである。港湾コストは、RO/ROでボックスあたり40ドル、LO/LOで60ドルとされている。それぞれの設計についての技術的仕様と主要コスト要素については、表I-2に示す。
(表I-2)
船種別技術的仕様と主要コスト要素
  |
高速 カタマラン |
高速 モノハル |
高速 RO/RO |
小型 LO/LO |
タグ/バージ |
全長 (m) |
112.0 |
161.7 |
182.6 |
131.5 |
121.9 |
全幅 (m) |
25.0 |
26.4 |
25.5 |
19.5 |
30.5 |
喫水 (m) |
3.6 |
7.0 |
6.6 |
5.2 |
3.7 |
DTM (t) |
1,405 |
4,000 |
12,350 |
6,227 |
  |
積載能力(14.6mトレー ラー/40フィート・コンテナ) |
44 |
100 |
185 |
250 |
250 |
コンテナ積載能力 (TEU) |
88 |
200 |
370 |
500 |
500 |
レーン(m) |
644 |
1,460 |
2,715 |
  |
  |
運転手/旅客定員 |
48 |
100 |
12 |
16 |
  |
乗員 |
9 |
14 |
8 |
8 |
8 |
年間人件費 (千ドル) |
882 |
1,256 |
773 |
773 |
758 |
機関出力 (kw) |
45,000 |
36,600 |
23,040 |
9,380 |
6,705 |
主機 |
2 |
2 |
4 |
2 |
1 |
一基当たり出力 (kw) |
22,500 |
18,300 |
5,760 |
4,690 |
6,705 |
主機/推進装置の種類 |
ガスタービン/ ウォータージェット |
ディーゼル/ プロペラ |
ディーゼル/ プロペラ |
ディーゼル/ プロペラ |
ディーゼル/ プロペラ |
航海速力 (knots @ 90% MCR) |
36.0 |
25.2 |
21.6 |
14.0 |
9.0 |
最大速力 (knots at 100% MCR) |
40.0 |
28.0 |
24.0 |
15.6 |
10.0 |
航海速力における燃費 (t/h) |
8.6 |
6.0 |
4.6 |
1.6 |
0.6 |
燃料の種類 |
軽油 |
軽油 |
軽油 |
軽油 |
軽油 |
建造費 (100万ドル) |
45 |
49 |
35 |
25 |
12 |
トレーラー・マイル当たり の運航コスト (US$) |
1.34 |
0.80 |
0.34 |
0.24 |
0.24 |
出典:National Ports and Waterways Institute
研究チームは、コスト&パフォーマンス・モデルを作成し、5タイプの設計のそれぞれを使用した場合の、沿岸海運のフィージビリティを説明した。モデルは、運航の年間総コストと、トレーラー・マイル当たりの総コストを示している。計算では、スロット使用率は80%と想定されている。
最初の例は、ニューヨーク―マイアミ間の単純なシャトル・サービス、1,010海里の距離で、それぞれのタイプの設計を使用した場合である。本サービスには中継地点はない。このコスト&パフォーマンスモデルを利用すると、高速カタマランを利用のトレーラーあたりのコストは、2,288ドル、港湾時間を含む所用時間1.3日となる。高速モノハル利用の場合のトレーラー当たりのコストは、1,379ドル、所用時間1.9日である。同研究によれば、カタマランを使用した場合、コストも所用時間も、短い休憩ストップしかとらない運転手チームを使った場合の、遠距離トラック輸送に必要なものとほぼ同様になる。高速モノハルのコストと所用時間は、研究によれば、一人の運転手が、宿泊ストップをする場合(トラック輸送業界で最も一般的)の遠距離トラック輸送と同等になる。
(表I-3)
(表I-3) ニューヨーク―マイアミ間の直行沿岸シャトルサービスの コストとパフォーマンス |
  |
高速 カタマラン |
高速 モノハル |
高速 RO/RO |
小型 LO/LO |
タグ/ バージ |
航行速度 (kt) |
36 |
25.2 |
21.6 |
14 |
9 |
積載能力 (トレーラー) |
44 |
100 |
185 |
250 |
250 |
一航海の所要日数 (往復) |
2.63 |
3.88 |
4.81 |
7.85 |
11.27 |
隻数 |
3 |
4 |
5 |
8 |
12 |
トレーラー・海里当たりのコスト US$ |
2.19 |
1.29 |
0.57 |
0.44 |
0.43 |
トレーラー当たりのコスト (片道)US$ |
2,288 |
1,379 |
661 |
559 |
551 |
出典 : National Ports and Waterways Institute |
第二の例は、高速の25ktモノハルを、ニューヨーク−マイアミ間で、複数寄港の2方向のループ航路で運航すると想定している。当該サービスには、5隻が投入され、往路復路のいずれかのみで、2個所に寄港する。寄港のある航路の所用時間は60時間、直通航路では48時間となる。ニューヨーク−マイアミ間のトレーラー当たりのコストは1,708ドルと推定されている。
(図I-8)
カナダのハリファックスからメキシコのTuxpanの間の、複数のループ航路沿岸海運システムのコストと所用時間の算定が行われた。研究チームは北航路、中央航路、メキシコ湾航路の3つのサービス・ループを想定した。次ページに、25ktマルチハル船を使用し、それぞれのルートの各セグメントのコスト/パフォーマンスモデルを使ったトレーラー当たりのコストと所用時間を示す。表は、このマルチループ・サービスに必要な沿岸海運ネットワークに要求される総投資額の推算である。総数16隻がサービス全体の提供に必要であり、ターミナルと船舶に必要な投資総額は約7億8,900万ドルとなる。
コスト&パフォーマンス・モデルは、船舶の積載率を80%と想定していることを念頭に置く必要がある。積載率がこれより低くなれば、全てのシナリオでトレーラー当たりのコストが上昇する。同研究では、積載率がこれを下回る可能性について、十分に検討していない。この点は、この研究にとって深刻な欠点であると考えられる。同研究は、沿岸海運サービスが引きつけられる輸送量は限られているとしており、積載率が80%を下回ることは充分に有り得る。
(図I-9)
(拡大画面: 162 KB)
(表I-4)
(表I-4) 25kt マルチハルを利用した場合の、マルチループ・サービスに必要な 沿岸海運ネットワークに要求される総投資額の推算 |
  |
ターミナル |
船舶 |
合計 |
航路 |
数 |
単価 |
百万ドル |
隻数 |
単価 |
百万ドル |
百万ドル |
トラック/年 |
中央航路 |
4 |
10 |
40 |
5 |
49 |
245 |
285 |
109,500 |
北航路 |
2 |
10 |
20 |
4 |
44 |
176 |
196 |
58,400 |
メキシコ湾航路 |
3 |
10 |
30 |
7 |
40 |
278 |
308 |
65,700 |
ネットワーク全体 |
9 |
  |
90 |
16 |
  |
699 |
789 |
233,600 |
Source: National Ports and Waterways Institute |
2-5 プロジェクトの現状と今後の予定
本プロジェクトの第二段階は2000年6月に完了した。第二段階の結論は、米国における沿岸海運は、特定の条件のもとでのみ可能性があるというものである。研究によれば、可能性のある沿岸海運システムは、以下の条件に基づくものである。
◆ 低コストの国内貨物用ターミナル。外洋ターミナルに隣接していることが望ましい。
◆ 乗員要件の少ない高速モノハル船腹。
◆ 高度にコーディネートされた複数港湾ループのサービスパターン。
◆ 現存するインターモーダル、鉄道ベースのサービスに類似した規格化された設定。
研究の第二段階は、概念定義と予備的計算に限定されており、高速沿岸海運の可能性を判定するためには、さらに次のような研究が必要であるとした。
◆ 沿岸海域におけるトラック輸送及び鉄道輸送に関する、より詳細かつ包括的なデータの収集と分析。
◆ 沿岸の範囲と、港湾の組み合わせによる、貨物発生の可能性の見積もりを含む市場セグメントの詳細な評価。
◆ 当該システムの主利用者であり、最も恩恵を被るトラック輸送業界と協力して、規格概念を開発。
◆ 沿岸海運システムにより発生する社会的、経済的な外的影響の評価。環境、安全上の恩恵、道路の渋滞、遅延の軽減、道路拡張投資の軽減等。
◆ 国防上のニーズ、特に最近の米国籍船腹量の衰退と熟練船員不足に照らした、沿岸海運システムの恩恵の再評価。
MarAdによれば、研究の第三段階は進行中であり、中間地点にある。予算不足のため、第二段階から第三段階の間に、空白期間があった。しかしながら、MarAdは、結果は非常に有望であり、研究は連邦高速道路局からも協力を得ているとしている。最近の同時多発テロにより、この事業を進めるインセンティブが増えた。高速沿岸輸送に使用される船舶は、緊急シーリフト用に利用可能である。