1−4 食用油、廃食用油
食用油(天麩羅油)はCnH2n-1−COOH,CnH2n-3−COOH、n=17のオレイン酸、リノ−ル酸を多く含む植物油脂である。C、H、Oのみから構成されるので燃料として用いた場合に燃焼ガス中の有害成分となるS分や重金属等を含まない。
一般家庭で使用される植物油は炒め物、揚げ物が主であり、揚げ物の場合利用回数は2〜3回が多く高温で使用される延べ時間が短く熱による酸化劣化は少ない。年間の発生量は概ね20万トン程度であり生ごみとして廃却されることが多い。廃油率は揚げ物のみの場合60〜70%、炒め物に使う場合を考慮すると全使用量の40%程度である。外食産業の場合、一般家庭とほぼ同様な使われ方をするが差し油しながら用いられる。そのため使用回数が多く加熱時間が長いので熱劣化がすすんでいる。廃油率はほぼ30%程度であり、産業廃棄物として回収業者によって大部分が回収されている。その量は年間20〜25万トン程度である。食品製造業の場合、差し油比率が高く廃油率は小さい。回収業者によって回収された廃食用油は工業用としては塗料、脂肪酸、石鹸の原料として用いられている。その他は飼料用、ボイラ−等の燃料として用いられ残りは焼却されている。これらの再利用に対して経済性の観点からみると、採算ベ−スに乗せるためには相当な努力が必要とされている。
前述のごとく一般家庭からの廃食用油は、ほとんど回収されず生ごみとして焼却されるか、下水を通して河川、湖沼、海域へ廃却されているのが現状である。近年、省資源や環境保護に対しての一般家庭を中心として地域で組織的に廃食用油を回収する運動が高まっている。一部自治体も積極的に取り組み、回収した廃食用油をBDFとして公用車等に用いることで市民運動と協調した活動が注目されている。
市場より回収した廃食用油の物性の一例を表1・3に示す。BDFに関するデ−タは(財)政策科学研究所の平成10年度廃食用油高度利用検討推進事業研究成果報告書より、軽油の蒸留性状に関するデ−タは昭シェル分析デ−タより入手した。
(参考資料:(財)政策科学研究所の平成10年度廃食用油高度利用検討推進事業研究成果報告書)
表1・3 廃食用油性状
引火点 K以上 |
573 |
備考 |
セタン価 |
− |
算出不能 |
流動点 K |
265.5 |
  |
動粘度 303Kmm2/s |
51.02 |
  |
総発熱量 J/g |
39,400 |
9,413kcal/kg |
低発熱量 J/g |
36,800 |
8,792kcal/kg |
残留炭素(10%残油)wt% |
測定不能 |
  |
密度 g/cm3(288 K) |
0.9239 |
  |
質量組成 |
炭素% |
77.8 |
  |
水素% |
11.5 |
  |
酸素% |
10.7 |
  |
全硫黄 ppm |
3 |
  |
窒素 ppm |
40 |
  |
全塩素 ppm |
4 |
  |
平均分子量 |
445 |
  |
蒸留性状 |
初留点K |
456.0 |
477.0(軽油)、564〜603(BDF) |
5%容量留出温度 K |
502.0 |
  |
10% |
536.0 |
525.0(軽油)、607〜613(BDF) |
20% |
551.0 |
  |
30% |
556.0 |
610〜630 (BDF) |
40% |
563.0 |
  |
50% |
576.0 |
567.0(軽油)、567〜632 (BDF) |
60% |
588.0 |
  |
70% |
599.0 |
613〜634 (BDF) |
80% |
610.0 |
  |
90% |
  |
600.0(軽油)、616〜637(BDF) |
95% |
− |
609.0(軽油) |
97% |
− |
615.0(軽油) |
終点 |
342.5 |
618.0(軽油)、618〜630(BDF) |
全留出量ml |
  |
  |
残渣 |
85.5 |
  |
減失量 |
タ-ル状物質 |
  |
酸価 mgKOH/g |
1.62 |
  |
ヨウ素価 mgI/g |
121.5 |
  |
ケン化価 mgKOH/g |
191.6 |
  |
水分 ppm |
830 |
  |
夾雑物 % |
0.11 |
  |
曇り点 K |
266.5 |
  |
脂肪酸組成 |
ミリスチン酸%面積百分率 |
0.6 |
  |
パルミチン酸 |
10.5 |
  |
ステアリン酸 |
3.9 |
  |
オレイン酸 |
32.1 |
  |
リノ-ル酸 |
42.7 |
  |
リノレン酸 |
6.5 |
  |
その他 |
3.7 |
  |
理論空燃比 |
12.34 |
  |
1−5 開発エンジンの排気量選定
開発するエンジンの大きさを選定するためには技術的な効果とともに社会的な影響やその効果を第一に考える必要がある。現在、BDFを燃料として東京の自由が丘を中心に運行されているサンクスネ−チャ−バスは一般市民、商店、地域企業が会費を出すサポ−タ−によって運営されている。更に、全国的な広がりを見せている一般家庭からの廃食用油の回収活動の主体は主婦、婦人会等のサ−クルであり地域住民が参画する住民活動として展開されている例が多い。小型エンジンは港湾用小型船舶,乗用車,市内の集配車,及びバス等に使え,地域社会を取り巻く様々な用途で使うことができる。よって,一般家庭から回収された廃食用油をリサイクル燃料として利用する考え方や活動が身近なものとして地域社会に浸透し易く、地域社会のエコロジ−に対する意識高揚にも繋がり易いので廃食用油の回収活動に結びつきやすい。家庭ゴミとして回収した廃食用油をそのまま使用して地域循環型システムの構築に寄与するためには小型エンジンでの開発が最も効果的である。小型エンジンとしてシリンダ直径がφ130mm未満のエンジンを選定すると国内で年間に生産される4サイクルディ−ゼルエンジンの総台数の約75%、舶用エンジンでは45%をカバ−できる。
近年、廃食用油を生焚きで運転できる大型のエンジンが(株)新潟鉄工所から発表された。一般に、水冷エンジンでは燃焼室壁の温度が低い(473〜573K程度)ので,廃食用油は燃焼室壁面に付着すると未燃分として堆積しエンジンを連続して継続させることが難しくなる。通常の小型エンジンでは燃料が燃焼室壁面に衝突しやすいため廃食用油をそのまま燃料として使用することができず,シリンダ径を大型にして燃焼室の空間,燃料の飛翔距離を大きくとることで廃食用油が燃焼室壁に付着しにくくする必要がある。遮熱エンジンは燃焼室内で圧縮された空気の温度が水冷エンジンに対し200〜250K高くなるので噴射された廃食用油が飛翔中に気化,蒸発しやすい。燃焼室壁面に付着した場合でも壁面温度が高い(973〜1073K程度)ので蒸発して堆積することが少ないと考えられる。
よって、本研究開発の目的を達成するために対象とするエンジンのシリンダ直径はφ130mm未満として、特に生産台数が多く且つ技術の水平展開が容易なφ110mmにて開発することが最も有効であると考える。