日本財団 図書館


第1章 本研究開発の意義と目的
1−1 社会的背景と開発の必要性
 1997年12月に京都市にて地球温暖化防止京都会議(COP3)が実施され、地球温暖化の原因物質の一つであるCO2の削減率が決定された。この国際会議で開催地である京都市は、市が実施している廃棄物のリサイクル運動や省資源運動について報告した。この運動の一つとして廃食用油を回収し、化学処理を行い、メチルエステルとしディ−ゼルエンジンの燃料に再使用する試みを紹介した。食用油は国内で年間約240万トンの需要があり、使用後はその内の約25〜30万トンが回収されてゴミとして焼却されるか肥料や石鹸やインクの原料として再利用されている。20万トンは一般家庭から生活廃水として下水から河川を通して海域や湖沼に放出され水質の汚染の原因となっている。環境白書によれば全国の河川、海域、湖沼の水質基準達成率は10数年の間、ほとんど改善されておらず、中央環境審議会は水質汚染の2/3以上が生活排水によるものであると報告している。京都市や大阪市等では廃食用油の放出を防止し、河川を浄化するために一般家庭にまで及ぶ廃食用油の回収が市民運動として盛り上がっている。回収された廃食用油をディ−ゼルエンジンの燃料として用いると、例えば市バスやゴミ収集車等の場合には年間で延べ約7万台を走行させることができる。その分、軽油の消費量が減るのでCO2の低減に繋がる。京都市では市内の家庭からの廃食用油の回収率が50%として、ゴミ収集車と市バスのディ−ゼルエンジン用燃料として用い、未回収分が全て焼却された場合でも年間に4,000トンのCO2が削減できると試算している。さらに、河川、海域、湖沼の水質汚染防止に貢献できる。
 従来、小型ディ−ゼルエンジンでは燃料としてそのまま使用する事が困難であった廃食用油をエンジンの燃料として用いることができればリサイクルによる省資源化、CO2の削減、河川湖沼の水質汚染防止に対する市民運動や行政の取り組みに有効な技術解の一つを提示することとなる。
 なお、食用油に対して鉱物油や合成油の場合は年間86,148千トン生産されるが産業廃棄物として回収が徹底されている。回収された廃油は約7%が焼却され、残り93%は再生油として高効率な利用が行われている。
 (出典:通産資料調査会編集環境総覧1996)
1−2 本研究の目的
 できる限り手を加えずに廃食用油等を低コストで処理できるシステムの構築を目指し、回収した廃食用油を燃料として利用し、クリ−ンに燃焼できる処理システム研究開発を行い、CO2の低減及び河川、湖沼、海洋の水質汚染防止に貢献し、海洋環境の保全に寄与することを目的とする。
1−3 従来の技術
 食用油等の植物油は粘度が高いのでそのまま小型ディ−ゼルエンジンの燃料として用いる場合には噴射ノズルの噴孔径を大きくする必要がある。その為、噴射された噴霧粒子の径が大きくなり、燃焼室内での燃料噴霧の気化、混合が悪化する。その結果、未燃の植物油が燃焼室壁面に付着して堆積し、連続した運転が困難となる。その為に、メタノ−ル1)を加えて、NaOHを触媒にナトリウムメタオキサイドとした後にエステル化し、グリセリンを除去して動粘度を軽油の2倍程度に下げたメチルエステルがバイオディ−ゼルフュ−エル(以後BDF)と称して使用されている。表1・1に軽油、重油、メチルエステルと食用油の物性比較の一例を示す。
表1・1 物性比較
  比重 動粘度
cst/303K
引火点K 発熱量
Kcal/Kg
2号軽油 0.82 2.7 323 10,170
A重油 0.86 3 333 10,200
C重油 0.96 160 343 9,800
メチルエステル(BDF) 0.89 5.52 455 9,000
食用油 0.92 27 513 9,500
 
 BDFの使用に関してはEU諸国が先進国であり、20%程度を軽油と混合して使用している例が多い。ドイツではBDFを直接使用する動きもある。BDFの特徴は、セタン価が軽油並で引火点が軽油より100〜140 K高く安全で、生分解性が有る為に流出時の環境負荷が低く、酸素を約10wt%含み、芳香族HCを含まないので燃やした場合に煤の排出が少ない事である。また、S分は3 ppm程度でほとんど含まれないので後処理装置の触媒に対して被毒の影響が無いことである。燃料としてBDF100%を用いる場合と軽油を用いる場合のライフサイクルCO2を比較するとBDF100%使用では軽油に対して約80%のCO2が低減できると言われている。
 同一の直噴式ディ−ゼルエンジンで軽油、BDFを用いた場合の性能を比較した結果が、平成10年度廃食用油高度利用検討推進事業研究成果報告書(平成11年3月 財団法人政策科学研究所)に詳しく報告されている。BDFを用いた場合NOx、熱効率は軽油とほぼ同等の値を示し、煤は高負荷で大幅に減少している。しかし、微粒子(PM)はBDFの場合に中低負荷では軽油の三倍程度と大幅に増加している。BDFは軽油と比較して高沸点成分が多いために中低負荷でのSOF分の増加が一つの原因と考えられる。このことは、燃料の性状を大きく変更した場合にはその燃料に適合したエンジンの開発が必要であることを示唆している。しかし、国内でBDFを使用する場合でも燃料系に使用されるゴム材質の変更等の小改良にとどまっているのが現状である。なお、国内では廃食用油からメチルエステル化に¥14円/リットルのコストがかかり、¥80円/リットル程度で自治体に納入されている。(参考文献:山根浩二、バイオ燃料利用システムの研究開発動向 自動車技術2001.5 Vol.55)
表1・2 メチルエステル性状
酸価   mgKOH/g 0.2
ヨウ素価 mgI/g 121.9
メチルエステル化率 % 98.9
メタノ−ル含量   %
遊離グリセリン含有量 %
全グリセリン含有量  % 0.26
セッケン含有量   ppm 26.7
色調  G 7
曇り点 K 270.6
脂肪酸組成 ミリスチン酸% 0.2
パルミチン酸% 10.3
パルミトレイン酸% 0.3
ステアリン酸% 3.7
オレイン酸% 34.4
リノ−ル酸% 41
リノレン酸% 5.4
アラキジン酸% 0.3
イコセン酸% 0.4
その他% 4
 








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION