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B. 新たな資金調達メカニズム
 
 今日では、UNCLOSとUNICEDプロセスが作るすべてのプログラムと行動計画の実施に必要な新規追加財源を創出するためには、革新的な方法を見出す必要があるという普遍的な合意がある。持続可能な開発には、陸上であれ、沿岸地帯であれ、海上であれ、貧困の撲滅が必要で、これには堅く見積もって今後5カ年で6千億ドルかかると見込まれた。新規追加財源なしには、地球的行動プログラム、アジェンダ21、バルバドス行動計画、その他残りすべてが大方、机上の空論にとどまる。
 
 オーシャン・ガバナンスの幅広い見地から、4つの革新的な方法と考えられるのはつぎのとおりである。
 
1. 地域および地球レベルで公的部門と民間部門間のシナジーを創ること
 
 これは先述の技術開発と移転のセクションで述べたものである。この資金捻出方法の最重要な側面は、懲罰的な手段でなく、課徴金でなく、生産的で相互に有利なプロセスということである。民営化ではなく、公的および民間部門のブレンドは、グローバリゼーションの多くの問題の解決の鍵になるであろう。
 
2. トービン税の多様な様式
 
 ノーベル賞受賞者James Tobinは、極めて革命的な提言を、以前、1978年に、「国際通貨改革の提言」というタイトルの控えめな論文の中で行った51。同氏の提言は、国際金融取引に対し0.1と0.5パーセントの税金をかけるもので、これは、当時すでに国際金融システムを脅かしていた巨大なファンドの短期的、投機的動きに水を差そうとするものであった。政府間レベルの組織、NGO、学問の府などグローバルで強力な動きが生じたが、これは、以前にも増して時宜を得、また一層緊急となっているこの提言を支援し、さらに発展させるものである。今日関与する総額は四半世紀前の数倍になっており、大部分がE-マーケットと、開発のはるかに進んだフロー管理技術を使ってのものである。この取り組みの公的な支援はユネスコの専務理事からあり、1994年7月29日付の新聞につぎのように紹介されている。
 
 開発融資の減少は大きな問題である。この点でUNDPの1994年度開発レポートに示された提言は、積極的にこれを支援し実現する必要がある。この提言の最重要ポイントは、国際的外貨取引に対するグローバルな課税である。すべての国に対し一律に0.05%という最も控えめな税率を適用し、この税は、開発のために毎年1500億ドルを創出することになるであろう。1981年のノーベル経済学賞受賞者James Tobin教授といえば1978年に初めて提案したものの、残念ながら国際社会では16年間、真剣に顧みられることのなかったこの施策の提案者であるが、同教授はヒューマン・ディベロップメント・レポート(1994年)への特別寄稿のなかで、税収は国際開発努力に提供し、国際組織が管理するよう提言した52
 
 このようにUNDPは提言を支持した。さらなる支持が世界環境開発委員会、ブルントラント報告書、リオ・プラス5の際の政府(カナダ)、国際議会人、国連に融資する地球委員会に加えて、ますますリストの長くなる政府間組織と非政府組織から寄せられている。つぎのような税金の変型と多様化の提案がなされている。
 
・ 国際的な入会地(外洋漁業と輸送、海底採鉱53、南極資源、静止通信衛星の静止料金など)からの収入に対する税金
 
・ 国際貿易(一般貿易税、特別取引商品、貿易外輸出、貿易収支の黒字、奢侈品の消費税など)への課税
 
・ 国際金融措置(特別引出し権と開発融資との関連、例えばIMF金準備高と売上高)
 
 Brandt委員会とSouth委員会も同様に国際的な課税を提案し、これをテーマにした多数の学術研究が発表された54
 
 新たな収入税システムを実施に移すのに時間がかかるのは明白である。オーシャン・ガバナンスを考えるとき、海底機構について原理が理論的に確立している場合は、特に2つの部門でコストに対して効果の高い適用が可能であろう。
 
・ クルーズ旅行など海洋関連観光
 
・ 情報通信、特に国際海底区域に敷設される光ファイバー・ケーブル
 
 注意しておく価値があると思うのは、注目すべき変化が、海洋から資源を得る時代の中で、世界の残りの部分と同様に、ただし恐らく一層劇的に起きてしまったということである。すなわち、主として工業生産と天然資源主導型の経済からサービスをベースとする経済(サービス経済)への変化である。海洋関連の観光は、クルーズ旅行を含め、今日では5千億ドルの桁数の収入をもたらしている。光ファイバー・ケーブル事業が生み出す収入は、現在で年間1兆ドルに達している。海洋生態系が提供するエコロジカル・サービスは、全世界の、熱帯林などを含む30兆ドルと見積もられるエコロジカル・システムのうちの21兆ドルと見積もられた55。これらの数値は、資源と工業生産が生み出す数値を明らかに小さく見せてしまう。これらのうちで最大のものは海底油田とガスで、約1,500億ドルである。
 
 1991年にIOIは、毎年地中海を訪れる観光客に課す観光税導入の実現可能性の研究結果を発表した56。この観光客数は年間1億人を超えており、2025年には2億人に達すると見られている>57。この研究の基礎にしたのはアンケートで、英語、フランス語、イタリア語版を出し、マルタ、イタリア、ギリシャ、エジプトで3,000人の観光客に配布した。他にもあるなかで、観光客への質問に、環境を救うために、地中海信託基金へ1ドル、5ドル、20ドルのいずれかを寄付する用意があるかどうか、というものがあった。圧倒的多数の反応は好意的なものであった。5ドルを払う用意ありとするものが大多数であった。これは、観光が健康的な環境に依存しており、観光客が、この程度のつつましい出費を認めるに十分な余裕のある小遣いを、通常、持ち合わせていることを考えるとき、驚くに当たらないのはいうまでもない。2億を乗ずると、この税金額は、UNCLOS/UNCEDの地中海プログラムをすべて効果的に実施するのに十分である。
 
 IOIは「国際海底機構の新たな課題」58という研究のなかで、従来からのhigh-seasでのケーブル敷設の自由は、high-seasでの他の自由とともに、21世紀には規制の必要がある、と指摘した。海洋法条約はすでにEEZ{= exclusive economic zone = 排他的経済水域} のなかでの規制を定めている。しかし類似した措置が、利用の紛争を避けるため、そしてケーブルの安全を確保するため、国際海底区域に求めらる。国際海底機構は、その役務の対価として、微々たる額の料金、例えば、ケーブル会社の年間収入1兆ドルの0.001%の支払いを受ける資格は当然あるであろう。この10億ドルは途上国の能力を構築して、この知識・人材主導型の新たな産業革命段階に途上国が参加できるようにするために使ってもよいであろう。規制は、0.001パーセント料金またはトービン税課徴程度の負担の少ない、軽いものであるべきである。分かりやすい議定書モデルを付属書Iに添付する。
 
 今日の巨大企業(その予算が一国の政府のそれよりも大きい場合がほとんど)の持つ、一方は、膨大な資金力、他方では、国際関係で駆使する益々大きくなる影響力および国連など国際的な公的討論の場に参加できる権利を考えるとき、これら企業が、国家と同様、組織の国連システムへの強制的かつ予測可能な貢献を、できれば、これらの基金をUNCLOS/UNCEDプロセスの実施により途上国の援助に充当するGEFを通じて行うことはフェアといっても決して言い過ぎではないであろう。
 
3. 海運業界内での財源遵守と執行(強制)の仕組み
 
 規則はその背後の強制力と同じこと、とよくいわれる。強制力には2つの要素が必要である。すなわち自立強制力の実体的要素があること、つまり法令が、遵守に値する十分な説得力があることで、これには、法令作りに、また、教育と訓練に、利害関係者が参加する必要がある。しかしながら、2つ目の要素、すなわち監視、査察、執行、は等しく重要で、オーシャン・ガバナンス・のシステムが、不遵守と国際的海上犯罪により危険にさらされている我々の時代は、特にそうである。国家による沿岸警備はグローバル化した犯罪には対処できず、したがって国家、地域、国際レベルでの新しい協力体制が必要である。
 
 効果的な遵守強制手段がないことで個々の国、場合によっては国の中の機関・部局が非難されることが多い。しかし、直面する課題、それは、数百万平方マイルにおよび海洋空間を管理するという課題の大きさをみれば、大多数の国にとって、その義務を満たす能力がないのは明らかである。国がその海事部門で環境悪化と不法行為にさらされやすくなる原因をこの空白が作っている。政治的意思、人材、設備などの不足はすべて、海洋部門の法令遵守と強制力に割り当てられる資金レベルが低いことのあらわれである。しかし、もう1つ重大な現実は、最も危険にさらされやすい国、SIDSとLDCs{= least developed countries = 後発開発途上国}の場合、このプログラムの財源不足の原因は、国が所有する資源の全般的不足以外のなにものでもない。
 
 恐らく、地域および国レベルでの法令遵守と執行プログラムの財源は上述の「革新的資金調達メカニズム」の応用により創出できるであろう。海運業界で公的および民間部門のシナジーを生み出す分野で、若干ながら明確、かつ、十分に立証済の前進がみられた。積載量、あるいは恐らく通行にまでかけるトービン税の適用は、相当量の資金を生み出し、港湾の国家管理、地域沿岸警備など、規範内での能力構築に利用できるであろう59。これらの選択肢については第III部でより詳細に論じる。








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