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2. 地域レベル
 
 地域協力の規定は海洋条約第276条と277条にある。この条項は、海洋科学と技術の前進のために、UNCLOS IIIが採択したもう1つの決議、すなわち国の海洋科学、技術および海洋サービスのインフラストラクチャ開発に関する決議33に従って、地域センターを設立することを命じている。この決議が重要なのは、海洋科学と技術の分野が急速に進歩しつつあることの認識と、あらたな海洋規範の到達点が一致すれば、途上国がこの成果の分け前に預かる必要性を明示し、もし緊急の対策を講じなければ、先進国と途上国間の科学技術のギャップが一層広がって、新たな体制の土台そのものを危うくすると警告している点である。地域センターは、南から南、北から南への協力を促進することで、また、費用分担とスケールメリットを基礎にして、このギャップを狭めるのに決定的な役割を担うことができる。
 
 センターの活動範囲は若干の詳細が上述の2つの条項に記述されている。活動のなかに海洋科学技術のデータと情報の買取と加工がある。検討の対象となる技術の範囲には生物資源管理を含む海洋生物学、海洋学、水路学、エンジニアリング、海底の地質探査、採鉱と海水淡水化技術、さらに、海洋環境の保護と保存、汚染の防止、低減、管理がある。
 
 条約はこのセンターを設立する地域を特定しておらず、設立の時間表も、資金手当の方法も示していない。かなり多くの国際的、地域的または地球規模の機構が過去四半世紀のあいだに設立され34、皆、極めて有益な機能を発揮してきた。途上国の科学者、技術者に訓練を施してきた。科学技術機構間のネットワーク作りに便宜を与えてきたし、パイロット・プロジェクトを実施し、南から南、北から南への国際協力を強化してきた。しかし、これら機構の財政的制約と縦割り的な権限を別として、これら機構と第276、277条との間にはなんのつながりもなく、これらの条項はいまだに実施されていない。これらの条項の実施への、要するに、条約が要求した新しい国際技術秩序の不可欠部分の構築へ向けた唯一の試みは、国際海洋法学会が四半世紀前に行ったものであった。この努力を振りかえってみるのは意味があるのではないか。この試みは当時は時期尚早であった。しかしその時代は来ていたのかもしれない。それは改正でも、更新でも、今日の、そして明日の技術的、経済的、社会政治的トレンドとニーズに合わせることでも、容易にできた。
 
 IOIが1987年2月にマルタの国際セミナーで提案を出したが、それはIOIが、国際研究財団とマルタ海洋学委員会の協力を得て構成したものであった。各地域海域ごとにこのセンターを作ることを目指す一方、この提案は、地域海洋プログラムの最先端を行くと考えられた地中海のパイロット・プロジェクトに焦点を当てた。このセンターを地中海に設ける目的はつぎのとおりであった。
 
・ 地中海の平和利用のための地域協力を推進する。
 
・ 海洋科学と技術の地域センター設立を命じる1982年国連海洋法条約第276、277条の実施を促進し、途上国による海洋科学研究の実施を奨励して進め、海洋技術の移転を促進する。
 
・ 地中海地域の先進国と途上国間の科学および産業協力の新しい様式を後押しする。
 
 提案のセンターはきわめて単純なものであった。提案したのは、各構成国が自国の国選コーディネータを任命し、産業会社は、自社のプロジェクト計画をそのコーディネータに提出する、というものであった。各国の国選コーディネータは定期的に会議を開き、プロジェクト計画を討議して、最終の一歩手前までの選別を行う。センターの技術および助言組織として、この選別を閣僚会議に提出すると、この会議は意思決定機関として、最終的な選択を行う。閣僚会議はまた、センター専務理事を任命し、全般的な政策を決定する。閣僚会議が選んだプロジェクト計画の財源は、半分を提案を行った産業会社が、そして半分を参加国の政府が地域機構(地中海行動計画信託基金)または国際機関(UNEP、UNIDO,地域経済委員会および銀行など)の地域部門の支援を受けて行う。南地中海の途上国のプロジェクトへの参加を容易にするのは後者のはずであった。
 
 センター自身は、完成すれば、専門家と支援職員300人を収容するに十分のスペースがあった。かれらの大部分は企業または政府持ちとなるはずであった。水中機器の開発と試験のための深く、表面に何もない潜水タンク、深海システム開発用の加圧潜水タンク、プロペラ研究用の大型キャビテーション風洞と計装計測、造船設備などいくつかの機器の提供を受けるはずであった。
 センターは、なかんずく、つぎのR&D部門に特化するはずであった。
 
・ 水産養殖技術
・ 海水淡水化技術
・ 代替エネルギー技術
・ 汚染防止、管理、低減化技術
 
 結論として提案書が提言したのは、初期のステップとしてフィージビリティ・スタディを作成して、それにより考慮事項を示すことであった。
 
 提案はマルタ政府の支持を得て、IOIの指導のもとに詳細フィージビリティ・スタディを進めたが、それを指導したのはDr. Krishan Saigal、つぎに国連の海洋問題および海洋法事務所の、ある上級顧問であった。Dr. Saigalは多数の地中海諸国を訪れて科学者、産業家、政府官僚と話し合いを持った。IOIは数百人の地中海地方の科学と技術の機構にアンケートを送った。この作業をUNEPとUNIDOの両方が支援した。
 
 センター設立の当初費用見積は非常につつましいものであった。10万ドルと50万ドルの間の数字が出てきた。完成した時点で、費用は年5.5百万ドルという見積であった。
 
 F/Sが完成して、UNIDOは技術レベルの地中海作業部会を立ち上げて、審議に入った。提案と検討の評価は良かった。UNIDO議長の作業部会開会時のあいさつは本付属書に添付のとおりである。作業部会のあとUNIDOは報告書を出したが、プロジェクトを完全に支持するものであった。マルタのほか、地中海の数カ国からセンターの受入国になるとの申し出があった。
 
 しかしこれがサクセス・ストーリーの終わりであった。見えざる手が見えざるブレーキをかけ始めた。大多数の欧州諸国が提案を時期尚早と考えた。
 
 これはほぼ四半世紀前のことであった。今日では、提案はもはや時期尚早ではない。むしろ遅すぎる。起こった変化、このセンターまたはシステムまたは仕組みを劇的に緊急なものとし、また可能にしている変化とはつぎのとおりである。
 
 技術協力と移転の必要性が一層火急のこととなった。今日、途上国のみならず、先進国も要求を出している。というのは先進国も、世界の大多数の人々、つまり、途上国の全面的な協力なしには、環境、生物多様性を保全し、気候の変化に対応し、きわめて簡単にいえば、この地球上で生き残るために、特にリオで1992年以来採択してきた条約、協定、規則、プログラムを実行に移すことはできない、ということを悟ったからである。しかし、もし発展途上の、小さな、不利な状況に置かれた貧しい諸国が協力しようとすれば、実施に必要な技術が必要である。したがって、大部分の工業先進国は、かつて70年代にはもっとけち臭く手元にしまい込むことに汲々としていたものを提供する覚悟がはるかによくできているが、ときあたかも海洋法条約の案が書き上げられて、財源の選択肢が、特に地球環境基金(GEF)の設立により、増えた。
 
 過去20年間、地域海洋プログラムは進展し、強化されてきた。陸地を基盤とする汚染への地球行動プログラム(GPA)の実施は、地域発展と地域海洋プログラムの再活性化への新たな刺激剤としての役割を果たし、強力な技術の投入を求めている。しかしこれが利用できたのは、他の条約とプログラムの必要性を満たすためであった。科学と、技術のニーズはどの場合でも同じである。地中海地域海洋プログラムは、改正バルセロナ条約と行動計画をベースにして、今も、地域システムとして最先端を行くもので、パイロット・プロジェクトとして、特に新たな仕組みまたはプロセスを都合よくつなげられる地中海持続可能な開発委員会の設立を介することで、おそらく最適の場所であるが、しかし技術協力と移転の新たな仕組みの必要性は普遍的で、したがって本研究のこの部に添付の検討用モデルは、どの地域にも限定されないため、どの地域の海洋にも当てはめるだけの十分なフレキシビリティを持っている。今一度強調させて欲しいのは、モデルはあくまで説明用に分かりやすくしたもので、直面せざるを得ない問題をできる限り具体的に簡潔にはっきりと見せようという試みである。
 
技術協力および移転に関する地域議定書検討用モデル説明条項
 
 平和、開発、環境保護は相互依存の関係にあり、分かち難い35、というのも平和および人の安全は持続可能な開発に基礎を置かなければならず、持続可能な開発は平和と人の安全に基礎を置かなければならず、人の安全および持続可能な開発は平等にもとづかなければならない、と確信し、
 
 研究および開発は、経済発展の推進力である技術革新の土台であり、国際レベルでの新しい形の政府、学問の府、産業界の協力は、高度技術の研究開発を、コスト低減およびリスク分散型でこれを遂行する必要がある、との認識に立ち、
 
 1982年の国連海洋法条約に2つの条項すなわち第276、277条があって地域センターの設立を促し、各国を通じ、権能のある国際機構および各国の海洋科学技術研究組織の協力を得て、これを設立すべきとしていること、および、このセンターが、なかんずく、上述の目的の追求に大いに資するものであること、を承知しており、
 
 1992年のリオ地球サミットにおいて、およびその後に採択された条約、協定、実施規準、行動計画が、海洋汚染に関連する複雑なプロセスおよび現象のより良き解明に必要な科学の向上、ならびに、加盟国間、加盟国の科学および産業組織間の技術協力およびノウハウ交換の改善、ならびに、再生可能なエネルギー資源の潜在的応用例の開発、ならびに、固形および液体廃棄物処理法の改善ならびに長期にわたる汚染監視の実施、これらはいずれも高度に磨かれた技術の研究開発を要するものであるが、これらを求めていることに留意して、
 
 締結当事国は以下のとおり決定した。
 
第 I 部
 
第1章 用語の使用法
 
 本議定書においては
 
(a) 条約規範とは、海洋空間ならびにその資源および利用に関する条約、協定、規準、行動計画に含まれる規則、規制、提言の全体をいう。
 
(b) 主要グループとは、持続可能な開発に関する地中海委員会の参加者として、なかんずく、地中海行動計画に記述のグループで、すなわち地方共同体、社会経済の行為者、非政府組織をいう。
 
(c) ネットワークとは、本議定書が対象とする活動に参加する主体、すなわち国家、科学技術機構、産業会社、およびその他の主要グループの全体をいう。
 
(d) オーシャン・ガバナンスとは、政府だけでなく、地方共同体、産業、その他利害関係者が海洋に関わる問題を統治する方法をいい、国内法、国際法、公法、民法、ならびに慣習、伝統、文化、およびそれらが作った機構制度およびプロセスを含む。
 
(e) 規範。条約規範を参照。
 
(f) システムとは、ネットワークの構成要素の機能間の相互関係を決定する構造をいう。
 
(g) UNCEDプロセスとは、国連環境開発委員会の設立により始まった展開をいい、ブルントラント報告書の発行、1992年のリオにおける環境と開発に関する国連会議の召集、この主題でリオおよびリオプラス10の間に開催された一連のグローバルなまたは地域の会議、さらにこれらの会議で採択された法制面のおよび準法制面の文書のすべて、で構成される。
 
第II部 設立と目的
 
第2章 設立
 
1. ここに海洋産業技術の研究開発のため、地域センター(以下センターという)を設立する。
 
2. センターは次の構成要素からなるネットワークをコーディネートする。
 
(a) ______地域海洋条約の締結全当事国(会員)
 
(b) 地域内科学技術センターおよび機構ならびに地域内で活動する国際科学技術機構のすべて(賛助会員)
 
(c) 社会経済の行為者、地方共同体、非政府組織など主要グループ(賛助会員)
 
第3章 目的
 
 センターの目的は以下のとおりとする。
 
1. 南から北および北から南への協力を通じて技術開発および移転を増進する。
 
2. 国際的地域レベルで公的および民間の財源の間のシナジーを創出し、これにより、特に途上国における海洋科学技術の能力構築、訓練、教育のための新規追加財源を提供する。
 
3. 海洋法条約ならびにUNCEDプロセスの条約、協定、行動規準、行動計画の効果的な実施に向けてそれらの技術要求に応えることにより貢献する。
 
第III部 機能
 
第4章 機能
 
 センターの機能は以下のとおりとする。
 
1. 環境的および社会的に持続可能な海洋技術に関する情報を入手し、提供する。このためネットワークおよび権能のある国際機構、特にUNIDOとの協力により、この機能強化のデータ・バンクを創設する。
 
2. 利害関係国に対して、研究の結果ならびにセンターの目的および手段に関する情報の公表と普及を推進し、これらの国の科学者のこの研究への参加に、できる限りにおいて、便宜を図る36
 
3. 地域内のすべての条約規範およびプログラムの技術要求を定期的に検討する。
 
4. 本議定書の第IV部に示すプロセスに従って、域内で要求の出た技術の優先順位表を定期的に作成する。
 
5. 優先順位表の範囲内でR&Dプロジェクトを選別し、その実施および財源を編成する。
 
6. このプロジェクトへの途上国の全面参加を請合う。
 
7. 海洋産業技術のさまざまの側面の訓練を編成し、便宜を図る。このとき、可能であれば域内の国の既存訓練組織を利用するか、センターが編成したR&Dプロジェクトに途上国の専門家を編入することによりこれを行う。
 
8. 国家機関ならびに国営事業および民間企業の能力向上のため助言・相談サービスを提供する37
 
第5章 R&Dの範囲
 
 上記第4章第4節に従って作成した要求事項リストの最初のものは、規範を確立したときの元来の文書にもとづくものでなければならない。これらの規範の効果的な実施に必要な技術には、なかんずく、以下のものが含まれる。
 
(a) クリーンな生産技術、リサイクル、廃棄物の監査および最少化、排水処理設備の建設および改良またはそのいずれか、危険物の適性な取扱いのための品質管理規準38
 
(b) コンピュータ、ソフトウエア、海水淡水化および雨水収納39を含む水管理、汚染管理技術、沿岸エンジニアリング、インフラストラクチャ調査40
 
(c) エネルギー効率の高い技術41ならびに新規および風力、太陽光、地熱、水力、OTEC{= Ocean Thermal Energy Conversion = 海洋温度差発電システム}、波力、バイオマスなど再生可能なエネルギーの推進42
 
(d) えり抜きの漁具の開発、リスクおよび不確実性を取扱う改良技術、監視、管理(取締)、査察、強制の技術で、衛星伝達システムを含む43
 
(e) 航行補助手段44
 
(f) 排出物再利用など廃棄物回収およびリサイクル、排水処理技術、排水の有効利用、POPs{= Persistent Organic Pollution = 残留性有機汚染}の代替物、水の節約技術、環境を悪化させる物質、製品、製法、行為の代わりになる環境にやさしい代替物、固まるトイレット、汚水処理タンク改良の新規技術、工事現場および養殖池などからの洩れを防ぐ閉じ込め技術、ジオテキスタイル{= 強力な合成繊維}、バイオ治療、小規模バイオガス、劣化分解減容性のより高い包装材料の開発、産業共生のプランニング45
 
第IV部 構造
 
第6章 システム
 
 システムには3つの基本的構成要素があるものとする。
 
1. 国選コーディネータ、ならびに権能のある地域および国際機構ならびに主要グループの代表者
 
2. 科学技術担当閣僚
 
3. 調整センター
 
第7章 国選コーディネータ
 
1. 各締結当事国は国選コーディネータを任命する。国選コーディネータは、各締結当事国がGPA実施のために設立する中心地に駐在し、そこでサービスを受ける。
 
2. 国選各コーディネータは、公的および民間部門の両方に、プロジェクト計画の提出を求める。資格を与えられるプロジェクト計画はつぎのとおりとする。
 
(a) 締結当事国の合意した優先技術のカテゴリーに入るもの。
 
(b) 少なくとも2カ国にパートナーがいて、そのうちの少なくとも1カ国は途上国であること。
 
3. 国選コーディネータならびに権能のある地域および国際機構の代表者は、年2回会議を開き、プロジェクト提案から一次選考を行う。プロセスの透明性を高めるため、第2章にいう主要グループは、この会議にオブザーバとして参加ができる。
 
第8章 科学技術担当閣僚
 
1. 締結当事国の科学技術担当閣僚または科学技術に責任を持つ他の閣僚は年1回会議を開き、プロジェクトの最終選別を行い、その結果生まれる研究開発の合弁事業を承認し、必要な財源を確保する。会議は、調整センター専務理事の任命時期が来ている時は、任命する。
 
2. 持続可能な開発の地域委員会が存在している場合は、この会議は委員会の上層部を構成し、したがって共同技術開発と、UNICED条約、協定、規準、プログラム、行動計画が強く望む持続性および保存の目標との間の適切な連結を確保する。
 
3. 持続可能な開発の地域委員会がまだ設立されていない場合は、閣僚会議は、各締結当事国が決定するその他のふさわしい地域機構または仕組みに所属する必要がある。
 
4. 閣僚会議が選んだプロジェクト計画の財源は、半分を提案を行った産業会社が、そして半分をその政府および国際または2国間資金調達機関がまかなう。これは、地域レベルで、民間部門および公的部門の投資間の望ましい相乗効果を生むであろう。途上国の参加は、大部分、必ずしも全額でなく、資金調達機関、地域の銀行等の資金提供を受ける。
 
第9章 調整センター
 
1.調整センターは地域行動センター(RAC: Regional Action Center)として地域海洋プログラム内にこれを設置する。そのセンター専務理事は閣僚会議がこれを任命する。
 
2. 調整センターの構成は、核となるモジュールとニーズおよび入手可能な資金に応じて設立する追加モジュールである。
 
3. 核となるモジュールは国選コーディネータ会議および閣僚会議を補佐する。
 
4. センター専務理事はセンターの最高経営責任者{= CEO}である。専務理事は第三者に対してセンターを代表し、年度予算を作成し、年次報告の草案を作成し、契約に署名し、センターの権限内でのCEOとしてその他の義務を履行する。
 
5. できる限りすみやかに訓練プログラムの組織用の追加モジュールを持つべきである。訓練プログラムはネットワークのプロジェクトにかかわる科学技術を対象範囲とし、訓練生はできる限りこのプロジェクトに直接関与すべきである。訓練計画は、分野横断的な性格のものであるべきで、マネジメントおよびプロジェクト・プランニングを対象範囲の中に含め、地域の協力および開発を紹介し、テーゼとしてのオーシャン・ガバナンスの新興要素部分は、新たな国際技術秩序がそのなかで進化すべきところのより広範な枠組みを提供する。訓練モジュールは、既存の訓練プログラムおよび機構ならびに通信教育施設と協力すべきである。
 
6. 合弁契約の作成、知的所有権の分与、その他プロジェクトから生じる法務的な問題について支援を与える法務モジュールを持つべきである。
 
7. データ処理、情報、第三の地域海洋プログラムのなかの技術協力システムとの協力のためのモジュールを持つべきである。
 
第V部 紛争の解決
 
第10章 紛争の強制的平和解決
 
1. 本議定書の解釈および実施から生じる紛争はすべて、国連海洋法条約第XV部および関連付属書の定めるところにより、強制的平和解決に従うものとする。
 
2. 地域的な配慮により仲裁かまたは特別仲裁の選択があることに留意する。
 
第VI部 最終章
 
1. 本議定書は、____から____までを条約締結当事国による署名受付期間とする。本議定書はまた、同じ期間を第2章に述べた賛助会員による署名受付期間とする。
 
2. 本議定書は批准、受諾、承認のいずれかを条件とする。批准、受諾、承認の文書は、___政府が預かり、この政府が保管者の機能を請け負う。
 
3. 本議定書は、____およびそれ以降、上記第1項にいう主体の加盟を受け付ける。
 
4. 本議定書は本章第1項にいう締結当事国の批准、受諾、承認のいずれか、または加盟の文書が最低6通預託された日の翌日から数えて30日目に発効する。
 
 以上の証として、正当な権限を持つ下記の者が本議定書に署名した。
 
 
3. 地球レベル
 
 技術協力、開発、移転にとり最適なレベルは、おそらく、地域レベルである。地域海洋に接する諸国と地域海洋条約締結当事国は同じ環境・治安問題を共有し、多くの場合、例えば地中海、カリブ海、南太平洋、東南アジアのいずれにおいても、そこでは、共通の文化的特徴が発展してきた。したがって地域レベルは利益の共有性、スケール・メリットを提供するし、技術の優先順位についての合意、エコ技術開発の独創性、技術の社会的受容が容易である。
 
 したがって、海洋法条約が、技術協力について、地球レベルでは、さほどの機構・制度的な新規性を提示していないのは驚くに当たらない。権能ある既存の国際組織が、それぞれ与えられた任務を遂行することが強く勧告されている。しかし、一部の学者がこの新世紀に海洋科学の部門間で最重要になってもおかしくない、という、ある部門での共同技術開発と移転で重要な貢献のできる組織がある。それは深海底の探査と、その下にあるものである。これを担当する機構は国際海底機構である。しかしながらこの潜在力は、全体的には同機構の内外で無視されている。
 
 条約は、同機構の科学技術についての権限を微に入り細にうがって与えている。第143条は、この区域の海洋科学研究調査は専ら平和目的で、かつ、人類全体の利益のために行うべきで、これを人類の共通財産とすべきである、と定めている。同機構は、この区域の海洋科学研究調査を自ら行い、同様に、各国が行う研究調査を調整し、また、結果を広く知らせる権限を持っている。第144条は同機構に、技術と科学の知識を取得し、それを途上国へ移転するのを促進し、奨励する権限を与えている。
 
 技術移転の詳細な規則は付属書III第5条「採鉱見込み、探査、開発の基本条件」に盛り込まれている。これらの条項は、先進国、途上国の双方から広範囲の批判を受けてきた。先進国とその企業にとって、これらの条項はあまりに厳格のように映った。言葉は実体よりもはるかに厳しく、十分な抜け道があって、いかなる法廷もこれら条項に強制力を持たせるのは非常にむずかしい、ということは一般に認められるところであったが。こうして、途上国にとり不満であるのは、規定が十分厳格でないということで、最善でも、守らせるのに時間がかかり、無駄になってしまうということであった。
 
 良かれ悪しかれ、あるいはその両方であれ、企業および途上国への技術移転を定める規定は1994年の実施協定46により、あっさり廃止されてしまった。この協定は条約第XI部および関連付属書の規定を覆したのである。この協定の合法性が問題視される一方、海底採鉱の見とおしが、第XI部の草案が書かれた70年代以来、がらりと変化し、この第XI部実施協定の有無は別として、ある程度、役に立たなくなっている。海底機構の権限と機能は、実施協定が提案する発展的な取り組み方をとおして再考の必要がある。
 
 さまざまな理由により、海底の商業採鉱の未来はむしろ不確かなようにみえる。同機構の元来のレゾン・デートルであるマンガン団塊採鉱は無期限に延期された。海床の大規模な硫化物(SMS: sea-floor massive sulphide)の採鉱は、より間近まで来ているようにみえるが、これさえもまだ初期的な研究開発の段階にある。ほかの非常に興味を引く発見があり、速いペースで続いている(遺伝資源、特にバクテリアなどの微生物、水酸化メタン)。国際海底を伝う光ファイバー・ケーブルが提供するサービスなど新サービスが開発されている。要するに今日では、深海底とその底土の科学的、環境的、経済的な重要性が現在、はるかに重要であり、条約の枠組み作成者が70年代に想像し得たよりも、新世紀を通じて、ますますそうなるであろう47。海底がより重要になるのであれば、海底機構もそうでなければならないのは明白である。しかしこの課題に立ち向かうためには海底機構はその機能を手直しして、変化し、変化しつつある科学的経済的展望に合わせる必要がある。
 
 今日の動きは、規制を受けず、同機構の外側で、および同機構に関係なく、探査、研究開発、人材開発に焦点を合わせている。課題は、これらの動きを同機構の範囲の中に引き入れ、それをすべての利害関係者すなわち国、ほかの条約規範(例えば生物多様性、気候変動)、主要グループの利益になる仕方で整理することである。これは同機構の現有の権限内でも始められるであろう。今も有効な第143、144条は同機構がこの線で進む権限を与えている。
 
 過去20年にわたり、国際海洋法学会は方法論の開発に多大の労力を傾けてきた。オーストリア代表と共同で作成して1984年と1985年に国際海底機構および国際海洋法裁判所の準備委員会(the Precom: preliminary commission)に提出した提案は、探査と研究開発の合弁企業(JEFERAD: Joint Enterprise for Exploration, Research And Development)を設立して、同機構の企業の最初の鉱区(埋蔵区域)を探査しようとするものであった。この提案はPrecomの公式記録の一部になっている48。同様の提案をIOIはコロンビア代表と共同で「国際企業」というタイトルの一連の文書(1987−1988年)49のなかで展開している。このJEFERADまたは国際企業の目的は、海洋産業技術の研究開発のための地域センターの目的と同じであったはずである。すなわち、費用の低減とリスクの分散であり、公的投資と民間投資の相乗効果を起こすことで新規追加財源を創造し、途上国の参加を増やすことである。プロジェクトの構造と財源も地域センター案のものと類似していた。いいかえればこの種の企業は一種の深海探査、技術開発、人材開発前進のための地球版ユーレカであった。プロジェクトの最終選択を担当する組織は海底機構の理事会であった。当時のわれわれの研究の結論では、鉱区の共同探査費用は、各開拓者的投資家が条約と決議IIに定義の義務にしたがって単独で実施するより30パーセントは安くなるところであった。R&Dの費用は各開拓者的投資家が単独で実施すれば3倍になり、独立した別々のプログラムで人員の訓練を行えば、訓練費用は、統一したプログラムで行う訓練に比較して50から100パーセント増しになったであろう。
 
 今日なら、JEFERADの目的に条約の各種規範の調和と統合が加わっていたであろう。このR&Dの成果は国際海底機構にとどめるべきでなく生物多様性および気候変動条約規範のニーズにも同様に応えるものである。したがって研究範囲はかなり広範なものである。
 
 このような次第で1998年、IOIは提案を改正50して、現在、機構と深海底生物相の保存責任を分担しあう生物多様性条約規範と、さらに、深海底の水化物についてその不安定化が気候の変化に重大な影響を与えるがゆえに研究が根本的に重要である気候条約規範を盛り込んだ。これらの規範は現在、区域内の微小動物(遺伝資源)などの生物資源と水化物の研究と長期的な監視に共同で関わるべきである。この改正提案は海底機構と地球環境ファシリティ(GEF:the Global Environment Facility)で非公式に討議された。プロジェクトは、国際水域と気候変化に対して責任のあるGEFによる共同融資の資格をまちがいなく取得するであろう。
 
 1999年8月、国際海底機構は重合金属団塊の深海底採鉱技術提案についての作業部会を立ち上げたが、この作業は、2000年6月に国際海底機構の鉱物資源のもう1つの作業部会のなかで再開された。両部会の美しい図解入りの総括報告が2000年9月に機構から発行された。この報告のなかで以下のとおり書かれているのは喜ばしい。
 
  探査、採鉱開発、潜在的な環境への影響の技術調査を少なからず繰り返したせいで、環境上のデモンストレーションとして、比較的に有望な区域の1つを協働で採鉱する事業を立ち上げる提案が生まれた。このようにして環境への影響と緩和策が現実の作業条件のなかで確立できた。新規技術は参加者が協働で開発し、協力の費用は産出した金属の価値により埋め合わされ、結果として生まれる利益も費用も全員で分配または分担する。提案は、参加者と事務局間の協議のたたき台となった。(強調が加わる)
 
 報告書はまた、推薦できる協働調査の有益なリストも添えており、次の情報で締めくられている。
 
 現在、ISA(国際海底機構)の事務局は、探査契約を結んだ既存の探査者、さまざまな政府および調査機関と、これら調査プロジェクトの開始を円滑化すべく作業中である。
 
 したがって、同機構にとり、新しく、かつ、生産的な段階の作業が待ちうけているように見える。すなわち、技術協力と移転について地方と国と地球を結ぶ新興のシステムの重要な建築ブロックが収まるところに収まり、共同技術開発の概念が、現在人類の共同財産の保管人となっている機構の保護のもとに、正当な地位を獲得しつつある。








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