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(2)海上交通に関する研究の視点
 以上要約した2年間に亘る調査研究の結果を踏まえ、当財団において海上交通及び海洋全般に係わる今後の研究の視点についてペーパーを纏めた37。今後の当財団の活動の指針ともなるものであり、その要旨は以下のとおりである。
(要約)
 人類は長い歴史の中で海洋に様々な作用を及ぼしてきた。ここでは、それら作用を次の5つに分類し考察する。
[1]漁業
 食糧としての海洋生物資源は、発展途上国における人口増大などにも対応して需要を増大させており、人類は漁業分野で海洋に大きな作用を及ぼし続けるだろう。
[2]海上交通
 海上交通は人類社会に大きな経済発展をもたらした。航空機やインターネットの普及などで国境を越えた活動も様変わりしているが、物流の国際移動は海運に多くを依拠しさらに増大している。
[3]国家権力の展開
 古来、海洋利用国は国家の力としてのシーパワーを海洋に展開して国家利益を追求してきた。海洋自由から海洋管理へのパラダイム・シフトの中においても、様々な形でそれは続いていく。
[4]海洋の非生物資源開発
 石油やレアメタルなど、非生物資源・エネルギーを海底・海洋に求めて、海洋へのアクセスが加速している。それに伴い、海洋科学調査・開発活動も進んでいる。
[5]陸上における活動からの影響
 海洋における活動によるものではないが、陸上から流入する様々な汚染物質が海洋環境に深刻な打撃を与えている。沿岸域の人口集中と工業化によってもたらされているものである。
 人類の海洋への作用の増大の中で、「海洋を守る」という概念が生じてくる。ここでは、これを「海洋の安全保障」と呼称する。「海洋の安全保障」とは、人類の海洋への作用に対して「海洋の環境を守り、海洋の安全を確保する」ことである。本来は国の安全を守る言葉として生まれた安全保障も、今は、「人間の安全保障」などとしても用いられるようになっている。海洋の環境と安全を守ることは即ち、「海洋の安全保障」といえよう。海洋の安全保障のための視点として、以下を列挙する。
[1]守るべき海洋環境と安全に係わる実態についての、広範囲でかつ長期に亘る地道なファクトファインディングがなされなければならない。
[2]「如何に守るか」が重要な課題となる。スローガン「持続可能な開発」は一つの有力なコンセプトではあるが、開発に力点が置かれていることは否めない。より、環境と安全を守ることに即した、新しい視点をもって取り組むことが重要である。理論的取り組みと個別具体の取り組みの両方が必要になるかもしれない。
[3]海洋に係わる問題への取り組みには、学際的・横断的な研究、検討、対策の進展が求められる。これは、現状で最も欠如しているところである。
[4]国連海洋法条約によって法的枠組みはできたが、2つの問題が残っている。条約の解釈と法の執行である。国連海洋法条約の条項の曖昧な部分について、解釈ないし事実の積み重ねでルールを形成すると共に、法に実効性を与えるための執行機関、海洋管理主体、国際協力といったものを検討しなければならない。
[5]わが国では戦後、極端に軍事に関する議論が抑制されてきたが、国家権力の海洋への作用を無視することはできない。海洋管理の時代を迎えた現在、国益の確保を目的とした海軍力を、より大きな目標たる海洋の管理に如何に取り込んでいくかが、一つの大きな課題となるだろう。
 海上交通に係わる研究の視点について付言する。
[1]先ず、海上交通網に係わる現状と問題点についてのファクトファインディングの継続と蓄積が必要である。
[2]IMOの活動についてみると、他の分野に比較して海運や造船に関する視点が大きい。「海洋の安全保障」という観点から見直していく必要がある。
[3]海上交通の安全確保のための、海上自衛隊、海上保安庁、法執行機関、海上交通行政、海運・造船企業、等による協力、調整、統括、さらには国際的な協力のためのネットワークに係わる課題への取り組みが必要である。
[4]以上の視点に関連して、形成されたルールや枠組みを如何に確保するか、すなわち海洋管理を如何に構築するかという問題が生じる。総合的な海洋管理への取り組みが必要である。








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