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e オーシャン・ガバナンスと海上交通
 海洋管理の総体としてオーシャン・ガバナンスを提唱する国際海洋学会(International Ocean Institute; IOI)名誉議長のエリザベス・M・ボルゲーゼ博士に、オーシャン・ガバナンスと海上交通の関連について調査を依頼した。2000年度に論文「オーシャン・ガバナンス−法制、機構・制度、実施の考察−」が、2001年度に調査資料「オーシャン・ガバナンスと海上交通」が提出された。
 また、2001年3月にタイのバンコクで開催された「東・東南アジア海域におけるオーシャン・ガバナンスと持続可能な開発に関する地域間会議:新しい千年紀における挑戦」と題する国際会議に、本調査研究における資料収集の一環として参加しており、当会議での成果も合わせ報告する。
e−1 オーシャン・ガバナンス(定義と法的基礎)
 IOIでは、「オーシャン・ガバナンスを、海洋に係わる諸問題を統治あるいは管理する方法であり、政府のみならず、地方共同体、産業、その他、海洋に利害を有する関係者が関与してなされるもの」と定義し、さらに、その法的基礎を国連海洋法条約においている。ここにおいて、国連海洋法条約の革新的理念としての「人類の共同財産」概念と、加えて、海洋空間の諸問題が相互密接に関連し合っていて分離不可能であり海洋のすべてを総合的に管理する必要があること、をオーシャン・ガバナンスの基礎として謳っている30
 なお、タイで開催された、オーシャン・ガバナンスと持続可能な開発に関する国際会議における主催者挨拶でも、海洋は、国家社会、国家間社会、文化、制度、法、慣習などが織り成す複雑なシステムであり、海洋管理のツールとしてオーシャン・ガバナンスを提唱するとの旨の趣旨が述べられており、IOIの定義するところと同じものであると考える31
 
e−1.2 オーシャン・ガバナンスの制度的枠組み
 国際海底委員会、国際海洋法裁判所、大陸棚委員会、締結当事国会議と諸地域機構といった海洋に係わるグローバルな機構があるが、ばらばらに分化しており集中管理を困難にしている。現状、すべてのアクターが参集して討議できるのは国連総会だけである。国連総会はアジェンダ21をガイドラインとして進展しつつある32
 
e−1.3 オーシャン・ガバナンスの実行の手段
 オーシャン・ガバナンスを海洋管理の手段として実行に移す計画は未だ立案されていない。手始めに、海洋管理のための技術開発、技術移転、技術協力といった技術面からの実施を、国家レベル、地域レベル、地球レベルで取り組んでいくことが提唱される。技術と財源は相関関係にあり、資金調達メカニズムが検討されなければならないだろう。
 さて、規則には強制力が必要である。また、持続可能な発展は平和と安全保障なくして達成できない。そこにおいて、オーシャン・ガバナンスに貢献する軍事・警察力と、それらによる国際協力任務が不可欠である33
 なお、タイにおける「オーシャン・ガバナンスと持続可能な開発に関する国際会議」で、「欧州は海洋協力が発展している。地中海は21の沿岸国が関係する複雑な海域であるにも拘らず協力が進展している。北海についても然りである。比較してアジアにおける海洋協力は未発展な状態だ。この地域に置けるオーシャン・ガバナンスの手始めとして、資源開発や環境に係わるネットワーク作りに取り組んではどうだろう」の旨の発言があった34
e−2 海上交通に係わるオーシャン・ガバナンス
 海上交通に係わるオーシャン・ガバナンスのシステムは纏まりに欠けている。国連海洋法条約、国際海事機関(IMO)、国連貿易開発会議(UNCTAD)、国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)などが採択した海上交通に係わる膨大な条約・条項がある。例えばILOだけでも、海事部門の労働基準を定める30以上の条約と20の勧告がある。更に新たな条約が必要であると主張する向きさえある。国連海洋法条約では領海、接続水域、群島水域など様々な水域における船舶の権利と義務として、無害通航権、国際海峡における通過通航権、群島水域通航権などが規定されており、なかでも最も重要なものの一つが入港国主義の導入である。便宜置籍船の増加の中、汚染防止などの権限を沿岸国に与えることは画期的なことである。その他重要な条約として、人命の安全に関するSOLAS条約、船舶起因汚染に係わるMARPOL条約がある。
 海上交通におけるオーシャン・ガバナンスの現状は順調とは言い難い。海運のグローバル化、自由化、民営化、規制緩和が強者と弱者の格差を助長しており、船員の労働条件は改善されず、海賊や密輸が海上交通を損ねている。
 国家主権として海洋を管理することには限界がある。沿岸国の管理システムが重要なオーシャン・ガバナンスの構成要素となるはずだ35
e−3 提 唱
・海洋管理システムとして、以下のことが提唱される。
 − 港湾国による管理システムの進展
 − 船舶登録システム
 − 地域沿岸警備隊の創設
・オーシャン・ガバナンスによる海洋管理のための資金調達メカニズムが必要である36








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