d 航路の安全と救難・監視態勢
2001年度、海上交通の安全に関する実態を把握するため、海上保安大学校交通安全学講座の松本宏之教授に海難とその防止のための諸措置の現状について調査を依頼、松本教授から「海上交通の安全に係わる基礎研究」と題する報告を得た。また、海洋管理のために必須となる海上監視システムについて、三菱電機(株)の樋口博博士に研究を依頼、樋口博士からプロポーサル「オーシャン・ガバナンスの前提たる監視システムの検討」を得た。樋口博士のプロポーサルは、海賊をはじめとする犯罪行為、資源開発や環境汚染の現状把握、気象・海象調査などのための海上監視システムなどに応用できるものであり、航路の安全確保を補強するものとしてこの項で内容を概括する。
d−1 海難の現状
わが国の海難(衝突、機関故障、乗揚、推進器障害、転覆および浸水。台風や異常気象によるものを除く)発生件数は、年にしてほぼ2千数百隻、死者行方不明者は百数十名になる。海難の多い船舶としては、プレジャーボート、漁船、貨物船の順となっており、1000トン以上の大型船舶ではその約70%が外国籍船舶である。発生場所は沿岸部・港湾に集中し、約79%は港内を含む距岸3マイル以内で発生している
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d−1.1 サブスタンダード船
実質的な意味において基準を満たしていない船舶、所謂サブスタンダード船が航行安全を阻害するものとして問題化している。これら船舶は、各種の規則や税制が穏やかな便宜置籍国に登録されていることが多く、問題への取り組みを複雑化している。
現状、わが国に出入国する外航船舶の40〜50%に設備・性能上の問題が指摘されており、ポート・ステート・コントロールの強化が唱えられる
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d−1.2 海難事件における責任
衝突事故を起こした者は刑事上、民事上、行政上の責任を問われるが、刑事裁判と海難審判とでは海上交通法規の義務規定のとらえ方や過失の認定方法に差異が見受けられる。一般的に、刑事裁判では注意義務違反をもって直ちに過失認定上の客観的注意義務違反があったとはいえず、場合によっては海上衝突予防法に違反したとしてもその義務違反自体が刑事上の責任対象になるとは限らない。一方、海難審判では、過失と法律上の義務とは互いに表裏の関係をなすとの考えがあり、海上衝突予防法の義務違反を行政上の責任に密接に関連させる傾向がある
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d−1.3 国際的通航路
国際的な通航方式として、分離通航路、対面航路、推奨航路、深水深航路等がある。また、水路書誌には、沿岸通航帯、警戒水域、避航水域が記載されている。航路を体系的に分析すると、歴史的なもの、社団法人等が自主的に設定しているもの、安全のために推奨あるいは指導されているもの、海上衝突予防法や海上安全法等で規定されているものがある。自主的な航路には法的拘束力がなく、推奨航路も自主的な協力を期待するものでしかない
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d−1.4 安全規制における規制緩和
海運界から各種の規制緩和が求められるようになっており、安全性と効率性の調和の実現が検討されなければならない。船舶運行者や船会社が求める安全と専門的判断に基づく安全とは実態の認識から評価や価値観にいたるまで思考が異なっており、これは外国船舶において更に大きなものとなる
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d−2 衛星海上監視システムの提案
d−2.1 海賊、違法操業等の監視技術の現状
監視システムとして沿岸レーダーなどがあるが、常続性、連続性、全天候性、広範といった面でいずれにも限界がある。
d−2.2 衛星監視システム
衛星に画像センサーを搭載して地上を監視する技術は、国土開発、防災、不法操業、海上油濁などの調査にこれまでも利用されてきた。本技術を応用して有効な海上監視システムを構築することが可能である。
衛星は、高分解能を得るために周回衛星とし、衛星、管制局、およびデータ解析のための受信局とで構成する。衛星1機で100〜200分に一回は同一船舶の上を通ることができる。衛星数を増やせば通過頻度は当然高くなる。現在のセンサー技術では、1m程度までの分解能を得ることができ、合成開口レーダーを用いることにより、厚い雲を透過して船舶形状や油濁状況も鮮明に観測が可能である。
現在使われている、SHIPLOC(GPSを利用して船舶の位置通報と海賊被害通報、Ship Location System)や、AIS(VHF無線機を使用しての沿岸地上局への船舶位置通報、Automatic Identification System、2002年7月から公式システムとして運用)との組み合わせ運用が効果的であろう
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d−3 提 唱
・海難の背景にある原因は多種多様であり、海難防止のための国際協力が更に求められる。
・海難におけるサブスタンダード船や外国船舶の増大に鑑み、ポート・ステート・コントロールの強化が必要である
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・IT革命の成果を活用しての迅速な情報提供や有機的交通管制が必要である。
・情報収集は海洋管理のために必須であり、海上監視システムの整備が必要となっている。衛星によるリモート・センシング技術の応用が最適である
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