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3 まとめ
 本報告書においては、1章において内航船舶の運航に起因する温室効果ガスの排出の現状把握と将来予測を行うとともに、その削減方策の検討を行った。外航船舶起因の排出については平成12年度に同様の調査を実施している。また2章においては、東京湾における船舶からのNOx/SOxの排出及び環境への寄与度についてその現状把握と将来予測を行うとともに、その削減方策の検討を行った。
 温室効果ガス及びNOx/SOxの削減は相反する要素があることはよく知られている。例えば、ディーゼル機関ではCO2排出量とNOx排出量はトレードオフの関係にある。また、脱硝装置の運転に伴い消費されるエネルギー相当分はCO2排出量の増加をもたらす。したがって、両者の削減をバランス良く実現しうる適切な行動方針が必要とされる。
 本章においては、2年度にわたる船舶からの排出ガス削減のための調査の総合的なまとめとして、3.1及び3.2においてそれぞれ温室効果ガス及びNOx/SOxの削減方策について総括したうえで、3.3において両者を考慮した総合的な削減方策のあり方を提言する。
3.1 温室効果ガスの削減方策について
 船舶からのCO2排出量は世界全体の約2.4%に相当し、英国やカナダ一国からの排出量とほぼ同等である。輸送手段の中では極めて環境負荷が小さいとは言え、地球温暖化に対する世界的な取組みが始まった中で、船舶のみが何ら対策を講じないことは許されない。
 船舶からの温室効果ガスのうち、内航海運に伴う排出量が京都議定書に基づく各国の削減割当ての対象に含まれるのに対して、外航海運については各国への割当てが困難なこと等から、削減のための取り組みについてIMOでの議論が緒についたばかりである。したがって、ここでは内航海運を中心に削減方策を総括する。
 
 地球温暖化対策の中心となるCO2の削減については、2つの考え方がある。
 
[1]輸送エネルギー効率の向上による海運分野における削減の推進
 低コストの大量輸送手段としての使命を有する船舶においては、単位輸送量あたりの燃料消費量の改善はほぼ限界に近いところまで進められている。特に、機関の燃料消費率の改善については、NOx排出量とトレードオフの関係にあることから、短期的には大幅な改善は見込みにくい。このような状況を打破するブレークスルーが求められている。
 スーパーエコシップ、燃料電池推進、代替燃料エンジン、帆走商船等の中長期的な技術の開発実用化が期待されるところであるが、地球温暖化防止の観点からこのような技術の開発や普及を促進する社会的仕組みがわが国において十分整備されているとは言い難い。世界一の造船技術を有するわが国が船舶分野においてグローバルな貢献を果たすとともに、このような先導的技術を梃子にして他の造船国との差別化を図ることが可能ではなかろうか。欧州の例を参考にして、環境税等を原資にした技術開発の促進を図るとともに、環境負荷の小さな船舶に対するインセンティブスキームの導入を図る必要がある。
[2]トラックや航空機から海運へのモーダルシフトを進め、運輸部門全体で削減を図る。
 地球温暖化防止の観点から海運の優位性は明らかであり、運輸部門全体で温室効果ガスの削減を図るにはモーダルシフトを推進することが最も効果的な方策である。しかし、その重要性は十分認識されながら、わが国においては海運へのモーダルシフトは思ったほど進んでいないのが現状である。それには、内航海運自体が社会ニーズに柔軟にかつ的確に対応しきれていないという内部的な要因と、地球温暖化防止という観点からモーダルシフトに本格的に取り組むための社会的な仕組みや環境づくりができていないという外部的な要因がある。
 
 前者については、「モーダルシフト(トラックから海へ)」から「インターモーダル(トラック輸送との連携・複合)」へ意識の変革を図り、ハード・ソフト両面にわたるサービス利便の向上を進めるとともに、静脈物流等新規需要の開拓を行う必要がある。
 後者については、例えば「海運の分担率を41→50%に」といった明確な目標を設定したうえで、これを実現するためのインフラの整備、規制の緩和、税制面等でのインセンティブ導入等を有機的に組み合わせた総合的な施策を展開する必要がある。
3.2 NOx抑制方策について
 NOx、SOx等の大気汚染物質については、酸性雨やオゾンの原因物質としての広域への影響とNO2としてのローカルな影響を考える必要がある。広域への影響についてはMARPOL条約付属書VIが既に採択されているが、港湾等の局所的な影響についてはその評価手法や対策の効果に関する科学的知見が十分ないのが現状である。本調査結果が客観的な指針として活用されることが期待される。
 東京湾を対象にした本調査により、[1]SOxが環境基準を達成しているのに対して、NOxの達成状況は不十分であること、[2]大気環境への船舶の寄与割合はNOx:10%(最大)、SOx:40%(最大)であること等が明らかになった。陸上排出源に対する対策が強化されていることを考慮に入れると、地域によっては今後船舶についてもNOxを中心とした削減対策が必要とされるケースもあろう。東京湾のケースについては、船舶からのNOx排出量の6〜7割を占める外航船に対する対策が重視されるべきである。
 以下、外航海運と内航海運に分けて、NOxを中心とした削減対策を総括する。
3.2.1 外航海運における削減方策
 まず、MARPOL条約付属書VIの早期発効が必要である。NOx対応機関の導入による環境改善効果は短期的にはさほど大きくないが、以下に述べる追加的対策と相まってNOx排出量を抑制することができる。また、環境影響や削減対策の科学的評価を行う際の統一的な「ものさし」を提供する効果もあり、合理的な対策が可能となる。
 追加的な対策としては、港湾内における減速航行、陸電使用、燃料切替え等が考えられるが、実際に講じうる対策は出入港する船舶の船種・航路・使用ふ頭、該当地域の環境基準達成状況等によって異なってくるため、実態に応じた適切な対策が必要である。
 東京湾の場合、原油タンカー、コンテナ船等大型外航船からの排出量が大きいことから、減速航行が効果的である。減速航行の結果、湾内で最大1時間程度所要時間が増えるが、外航船については外洋航行時に十分調整が可能である。ただし、浦賀水道等の航路帯での通過可能交通容量が減少することから、港湾の24時間化を併せて行う必要がある。
 大型船の着岸に使用されるタグボートのクリーン化(低環境負荷エンジンの搭載)も有効である。
 また、ふ頭停泊時、特に荷役作業中の排出量が多いことから、陸電の使用も有効である。船種、航路等によっては陸電使用が困難な船舶もあるので、例えば専用ふ頭を利用し、一定航路を運航する専用船に限定して陸電使用を進める等、実態に応じた対策が必要である。
 これらの環境対策は往々にして規制という形で進められることが多いが、船主等による環境対策への自主的な取組みを促進するために、欧州で行われているような環境負荷の小さな船舶に対するインセンティブスキームを導入することも重要な課題である。
 もちろん、電子制御等による低負荷域における燃焼改善、代替燃料機関等についてはNOx/SOx対策としても有効であり、このような技術の開発・普及についても前記のインセンティブスキーム等を通じてその促進を図る必要がある。
3.2.2 内航海運における削減方策
 地球温暖化防止というグローバルな課題克服のために内航海運へのモーダルシフトを進めていくと、その反作用としてNOx/SOx排出量の増加を招くことは避けられない。しかしながら、本調査の対象であるNOx/SOxのローカルな影響については、港湾域において所要の対策を講じることにより、その影響を最低限に抑えることが可能である。そういった意味では、内航海運においては、港湾域において海陸含めた所要のNOx/SOx低減対策を講じつつも、モーダルシフトの推進に施策の軸足を置く方が適切と考える。
 講じうる対策は基本的には外航船と同様であるが、港湾の24時間化による港湾使用時間の分散化、港湾へのアクセス道路や周辺ヤード等海陸間のジャンクションの改善は、大気汚染物質対策としてもモーダルシフト対策としても重要な課題である。
 また、現在開発中のスーパーエコシップは、CO2、NOx、SOxをそれぞれ3/4、1/10、2/5に削減することを目標としており、運輸施設整備事業団の船舶共有建造制度等のインセンティブスキームを活用して普及の促進を図ることが必要である。
3.3 船舶からの排出ガス削減のための総合的対策
 以上の異なる視点を持つ二つの問題(CO2-地球環境問題とNOx-地域環境問題)に対する削減方策の考え方を総合し、以下の総合的な考え方を提案する。
 3.1(地球温暖化対策)及び3.2(港湾域の環境対策)を踏まえて、船舶の排出ガス削減のための総合的な対策の基本的な考え方を以下に提言としてまとめる。
 
(1) 地球温暖化防止のための重要施策として内航海運へのモーダルシフトの推進に官民挙げて本格的に取組むこと。海運の分担率を50%に引き上げることを目標に設定し、これを実現するためのインフラの整備、規制や行政手続きの緩和、税制面等でのインセンティブ導入等を有機的に組み合わせた総合的な施策を早期に策定し実行に移すこと。特に、海運とトラック輸送との有機的な連携・協力を図ることにより最適なインターモーダル輸送を実現するという視点に立って、施策の策定や輸送事業の展開を図ることが重要である。
図3.3-1 内航海運の分担率向上による輸送部門からのCO2排出量の削減効果
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*計算条件などの詳細については20ページ表1.1-6を参照
(2) 港湾域の環境改善のために主にNOxに重点を置いた大気汚染対策に取り組むこと。具体的な対策の策定にあたっては、船舶からの排ガスの影響や対策を講じた場合の効果等について科学的な知見に基づく客観的な評価を本調査を参考にして行うとともに、講じようとする対策の実行可能性についても十分な考慮を行うこと。
(3) 世界一の造船技術を有するわが国が、環境負荷を格段に小さくするブレークスルー技術の開発を先導的に進めることにより、地球環境問題へのグローバルな貢献を果たすこと。このような技術の開発及び普及を促進するためのインセンティブの導入を図ること。
(4) 事業者が環境負荷の低減に積極的に取り組めるような社会的枠組みを作ること。具体的には、事業者が環境負荷低減のために投じた経済的コストを補填したり、環境への取組みが普段の企業活動において正当な評価を受けられるようなインセンティブスキームを欧州の例にならい導入すること。








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