1 拡散シミュレーションの概要
1.1 シミュレーション計算方法の概要
拡散シミュレーションの演算仕様について述べる。主な内容は以下の通りである。
(1)東京湾上の気象ブロック
既存の観測地点の気象データを用い、代表性を損なわないことを考慮して、煙源ごとの気象条件を求める気象ブロックを定めた。
周辺気象観測局データのクラスター解析などにより、東京湾中央部3パターンと沿岸部7パターンにブロック化した。航行中の船舶については中央部のブロックを用い、港湾内に停泊中の船舶に対しては沿岸部のブロックを適用した。
(2)海上の大気安定度
安達(1997)1に基づき、風速と水温-気温差からMonin-Obukhovの大気安定度長(Lv)を計算し、Pasquillの大気安定度にあてはめた。
(3)排煙の上昇高さ(有効煙突高)
「船舶排ガスの環境への影響と防止技術の調査報告書」(財団法人シップ・アンド・オーシャン財団平成3年)と比較を行うため、停泊中・航行中ともにCONCAWE式を用い、航行中は風速に加えて船速の影響を考慮した。
(4)拡散基本式
海上でのパフ形拡散の拡散係数は求められていないため、無風・有風ともにプルーム型正規拡散を用いた。また、年平均値の導出が目的であるため、σyを考慮せず各16方位内で均一濃度を仮定して計算した。
(5)海上の大気拡散幅
安達(1997)による推定手法を用い、拡散幅についてはPGT線図を流用した。
(6)内部境界層の扱い
海岸線から陸側に向けて発生する内部境界層により、海岸線付近にある低排出源からのプルームがフュミゲーションを起こすことが知られているが、拡散計算に導入された例は少ない。年平均値の算定に同影響を反映させることを念頭に、年間の境界層発達頻度やフュミゲーション強度などについてモデルに取り込めるかを検討し、フュミゲーション発生条件時における平均的フュミゲーション強度を求めることにより、年平均値への反映を行った。
(7)計算結果の妥当性の検討
海岸付近の大気環境濃度測定一般局などで実測された1999年におけるSO2の風向風速階級別環境濃度実測値の傾向などから、定性的に拡散手法の妥当性を検討した。
1 安達ほか(1997);海上大気拡散モデルに関する研究開発技術情報No.90(財)日本気象協会
1.2 計算の流れ
拡散計算における処理フローは図1.2-1、図1.2-2の通りである。気象条件ごとの出現頻度を求め、その気象条件ごとに拡散計算を行なった結果を出現頻度で重ね合わせた。
図1.2-1 拡散シミュレーションの流れ (その1 気象条件解析部分) |
図1.2-2 拡散シミュレーションの流れ (その2 拡散計算部分) |
2 気象条件
2.1 気象ブロック
拡散計算の対象となる地域が広いため、既存の観測地点の気象データを用い、代表性を損なわないことを考慮して、煙源ごとの気象条件を求める気象ブロックを定めた。
2.1.1 沿岸域の気象ブロック化
気象ブロック設定の資料として、東京湾周辺の大気環境観測局における風向・風速データについて階層的クラスター分析を行った。窒素酸化物総量規制マニュアル(環境省)に記載されている風ベクトルの相関(近似式)を参考に、クラスター距離を求めた。階層的クラスター分析の類似度判別はウォード法を用いた。
数式2.1-2 風ベクトルのクラスター距離
図2.1-1 階層的クラスター分析の結果
(拡大画面: 327 KB)
図2.1-1に示す通り、[1]海上(海ほたる(東京湾横断道路12.2KP)と東京港灯標)、[2]横浜、[3]川崎(東京都海岸部を含む)、[4]東京(東京都内陸部と千葉北部)[5]千葉南部(木更津近辺)、[6]千葉中部、[7]横須賀の7ブロックに分かれた。海上以外の6ブロックに気象学的な久里浜-船橋の区分線を重ねて7ブロックとし、港湾区域に対してはこれらのブロックを用いて拡散計算を行った。各ブロックでの大気安定度の導出ならびに拡散計算は以下の代表地点のデータを用いた。
表2.1-1 大気安定度導出・拡散計算に用いる地点 (陸上;港湾区域ブロック) |
ブロック |
大気安定度 |
拡散計算 |
風速 |
気温 |
海水温 |
風向・風速 |
横須賀 |
横須賀市役所 |
海ほたる |
根岸沖 |
横須賀市役所 |
横浜 |
金沢区長浜 |
金沢区長浜 |
東京・川崎 |
国設川崎 |
京浜運河 |
国設川崎 |
東京 |
港区白金 |
港区白金 |
千葉北部 |
港区白金 |
市原沖 |
港区白金 |
千葉中部 |
市原岩崎西 |
市原岩崎西 |
千葉南部 |
木更津潮見 |
木更津潮見 |
2.1.2 海上の気象ブロック化
前節の図2.1-1に示した通り、海上には陸上の風系群とは明らかに別な風系が存在する。これとは別に、海上の大気は海風時には下降域、陸風時には収束域となるが、周囲を陸に囲まれていることから、東京湾中央部には風向の区分線が存在することが知られている。一般的に、この区分線は神奈川県横須賀市久里浜から千葉県船橋市にかけて引いた直線であるとされており、利用可能な海水温データが千葉県市原沖、京浜運河、根岸沖の3ヶ所にあることから、久里浜・船橋線での区分に加えて、東京湾西岸を南北に区切るように区分を行った。結果として、港湾区域外のブロックは、港湾区域のブロックを組み合わせた形となった。
以下の代表地点のデータを用いて各ブロックでの大気安定度の導出ならびに拡散計算を行った。
表2.1-2 大気安定度導出・拡散計算に用いる地点 (海上;港湾区域外ブロック) |
ブロック |
大気安定度 |
拡散計算 |
風速 |
気温 |
海水温 |
風向・風速 |
横浜・横須賀 |
海ほたる |
海ほたる |
根岸沖 |
海ほたる |
東京・川崎 |
東京湾灯標 |
京浜運河 |
東京湾灯標 |
千葉 |
海ほたる |
市原沖 |
海ほたる |
表2.1-3 港湾区域ブロックと港湾区域外ブロックの対応
港湾区域外ブロック |
港湾区域ブロック |
横浜・横須賀 |
横浜、横須賀 |
東京・川崎 |
東京・川崎、東京 |
千葉 |
千葉北部、千葉中部、千葉南部 |