2.2.2 国外における地域規制の動向
・特にヨーロッパ諸国では、国内に比較して船舶排ガスの抑制に積極的に取り組んでいる。
・スウェーデン、ノルウェー、フィンランドでは、航路使用料、港湾使用料、船舶の課税などについて、環境影響の大小に応じて割増・割引する制度を導入している。
・アメリカでは、2002年5月に連邦レベルの船舶排ガス規制案が提出され、公聴期間に入っている。自国船籍船の大型機関に対して、2007年ごろよりMARPOL条約よりも厳しいNOx排出規制が提案されている。
・Green Award財団は一定の基準を満足する船舶を認定している。認定船舶に対しては、6カ国41港において港湾使用料の割引インセンティブが受けられる。
・その他、入港料などに対してのインセンティブ制度は、イギリス、スペイン、シンガポール、オランダ、韓国においても実施されている。
国内の動向に比べて、海外、特にヨーロッパ諸国では船舶排ガスに対する種々の抑制方策に積極的に取組んでいる。その多くは環境税に類似したものであるが、今後の規制動向を検討するための参考とする価値は高いと思われる。本項ではIMO等の資料で良く紹介されているスウェーデン等が行っている抑制方策の詳細について情報を整理した。
なお、IMOの規制(MARPOL73/78付属書VI)は既に発効要件の達成を待つばかりになっているが、発効要件である15ヶ国以上の批准が未だ充たせない状況であり、2002年末までに発効しない場合に適用される付帯決議(発効阻害要因の見直し)の実施は確実であると考えられる。
(1)スウェーデンにおける対応
スウェーデンにおいては、1998年1月1日から新たな航路使用料(fairway due)の体系を導入した。航路使用料は、従来は船舶の総トン(gross tonnage)に応じた料金と取り扱い貨物の載貨容積(volume)に応じた料金の2種類の料金が定められていた。新しい料金体系では、船舶の総トンに応じた料金がNOxの排出量及び燃料中の硫黄分の比率によって変化する体系になっている(取り扱い貨物の載貨容積に応じた料金は従来のまま)。具体的には表2.2-3のようである8。
設定当初は2002年でのNOx及びSOxの排出量を1997年の25%に削減する(75%を削減する)ことを目標にしていたが、1995〜1998年で既にNOx:5%、SOx:28%の削減が認められており(外航船のみ。入港隻数の伸びの影響を除き総トン当りの平均排出量で比較した場合にはそれぞれ8%、30%の削減に相当)、本システムが環境対策に有効であることが確認されている。当局はこのシステムに対する国際的理解を求めると同時に、SOxによる割引額を1.5 SEK/総トンまで拡大する可能性もあると述べている9。
一方、各港湾によって若干異なるが、港湾使用料(port due)としては表2.2-4に示すような割引・割増制度が導入されている10。
いずれにしても、NOxあるいはSOxといった大気汚染物質の排出抑制に対して直接的な経済的インセンティブを与えていることは注目すべきと思われる。
8 Swedish Marine Administration. (1998) Environmental differentiated fairway and port dues.からの引用
9 Swedenvironment (No.1 Feb. 2000) Environmental targets to be met through discounted shipping dues.からの引用
10 Air Pollution and Climate Series No.11/T&E report 99/7. (1999): Economic instruments for reducing emissions from sea transportからの引用
(2)ノルウェーにおける対応
ノルウェーでは2000年1月1日から船舶への課税(tonnage tax)を環境や安全への配慮事項によって割引くという制度を導入した。この制度は、船種や配慮事項によって重み係数を変えて配慮内容をポイントで評価し、最終的に課税の割引(最大10ポイントで25%の割引)を行うものである(詳細は表2-2-5参照)。ノルウェー政府は今後種々の環境税の導入を検討しており、その一環として内航船に対するCO2税や硫黄税も検討されている11。
環境への配慮事項に関しては廃棄物や船底塗料等様々なものが対象にあがっている点は興味深いが、大気汚染物質に関してはスウェーデンと同様にNOxおよびSOxが対象である。なお、表2.2-5では客船を事例としたが、NOxおよびSOxの大気汚染物質の境界区分やその配点(ポイント(B))は他のタンカーや一般貨物船も同様である12。
11 Intemational Conference on Incentives for Environmentally Sound Maritime Transport. (2000) The Norwegian approach (Norwegian Ministry of the Environment).からの引用
12 Air Pollution and Climate Series No.11/T&E report 99/7. (1999): Economic instruments for reducing emissions from sea transportからの引用
(3)ドイツハンブルグにおける対応
ドイツのハンブルグ港では2001年7月1日からグリーンシッピング(green shipping)と呼ばれる施策を導入した。この内容はISO1400113の認証あるいは(6)に述べるGreen Awardの認証を取得した船舶に対して港湾の料金(port fee)の6%を割引くといったもので、さらにNOx排出量の削減や低硫黄燃料の使用、TBT塗料の不使用等による特別割引が付加されている(詳細は表2.2-6参照)。ドイツでは、州政府の独立性が高いため、連邦レベルでの環境に対するインセンティブ制度は導入されていない。
13 環境マネジメントシステムに関する国際規格
(4)フィンランドにおける対応
フィンランドのオーランド(Aland)島のマリエハム(Mariehamn)港では、NOx排出量が10g-NOx/kWh以下の船舶に対して港湾の基本使用料を1%、NOx排出量が1g-NOx/kWh以下の船舶に対し8%をそれぞれ減額し、かつ使用燃料の硫黄分が0.5%未満の船舶に対して同じく4%減額、硫黄分が0.1%未満の船舶に対して同じく8%減額するという環境差別化港湾料金制度が導入されている。他の港湾についてもバルト海保護国家プロジェクトにおいて同様の枠組みが検討中である。
(5)アメリカの対応事例
2002年1月29、30日にアメリカのワシントンDCで「海事に関するエネルギー使用の効率化および排ガス浄化に関するワークショップ(Workshop on Maritime Energy and Clean Emissions)が開催された。これは、米国運輸省海事局(Maritime Administration)が米国エネルギー省(DOE)および環境保護局(EPA)と協力して開催したものである。
会議では、欧米での種々の船舶による大気汚染の防止策や技術開発等が報告されたが、注目されるのはEPA担当者から「外航船はMARPOL条約付属書VIの先行実施、内航船は国内規制の制定」等の発言があったことである。特にSOxについてはMARPOL条約付属書VIの基準であるS分が比較的高く、実質的に大気汚染防止に機能しないことから、使用している燃料のS分によって入港料に差別化を図る等の考えが示された。
さらにこれを受けて、EPAは2002年5月29日に、米国船籍に搭載された1シリンダー当たり30リットル以上の排気量を有する新造の舶用ディーゼル機関の排気ガスに対する規制案を官報に掲載した(Federal Register/Vol67、 No.103 Wednesday、 May 29、 2002/Propsed Rule)。現在公聴期間に入っており、規制の実用性や同等の削減効果をもつ代替案の提出などが求められている。同法案は、大気清浄法(Clean Air Act)の改正として提案されており、連邦全体に適用されるものである。
1シリンダー当たり30リットル以上の米国籍船で使用される機関に対しては、2段階の規制を考えている。第1段階(Tier 1)は、NOx基準をMARPOL条約附属書VIの基準と同等にし、2004年以降に製造される新機関に対して適用される。そして、第2段階(Tier 2)として、2006年以降(EPAは2007年が適当と述べている)に製造される新機関に対するNOx排出基準を、MARPOL条約附属書VIの基準の30%減とすることを考慮している。その他にも任意の低排ガス機関基準(MARPOL条約附属書VIの基準の80%減)の提案も行っている。これらの基準に適合するためには、触媒技術による排気ガスの浄化や燃料電池等の新しい機関への転換などの技術の使用が必要とされる。
また、1シリンダー当たり2.5リットル以上30リットル未満の機関に対しては、これらの機関に対する第2段階の基準は、1999年の商業用舶用ディーゼル機関規制で最終決定されており、2007年から適用されることになる。エンジンメーカーは2007年までにMARPOL条約附属書VIのNOxの基準に同等な第1段階の基準に任意に従うことが奨励される。MARPOL条約附属書VIはいまだに発効していないものの、EPAはエンジンメーカーに対し、2004年以降に製造される機関について、この第1段階の基準に適応することを義務付ける方向でいる。
更に、米国船籍船以外であっても、米国領海320キロメートル以内の海域を航行する時間が総航行時間の25%以下の船舶に搭載されている全ての舶用ディーゼル機関に対して外国貿易免除(規制の適用除外)を削除することを将来のオプションとして提案しており、パブリックコメントを求める予定である。
この規制案とは別に、ブッシュ政権はMARPOL73/78条約のVI付属書の批准を「正式に米上院に対して要請する予定である」ことを明らかにしたという新聞報道がある。同付属書は各国の批准が大幅に遅れていることから、発効に至っていないが、米国の動きを受けて世界的に大きな影響が現れる可能性もあり、ここ一年の動向は次回MEPC48における議論を含めて、重要なものになると考える。米国の船舶排ガスに対する方針が、従来の地域限定から連邦レベルでの規制対応へ変わったことは、米国内同様に大規模な港湾を抱える日本の環境行政にも影響を及ぼす可能性もあろう。
(6)その他の対応事例
Green Award財団14は一定の基準を満足する20,000DWT以上の原油タンカー、プロダクトタンカー、バルクキャリアを認定(Green Award)している。認定船舶についてはロッテルダム港をはじめとした、オランダ、スペイン、ポルトガル、南アフリカ共和国、イギリス、ドイツの計6カ国、41港において港湾使用料を3〜7%割引く(港湾によって異なる)というインセンティブが適用される。認定基準はGreen Award財団が定める「Seacare for Operation」に詳述されているが、船舶及び事務所の両方について監査を実施し、各項目について点数評価を行い、一定の点数をクリアすることが要求されている。NOx、SOxについては、MARPOL条約附属書VIの基準や低硫黄燃料の使用が評価項目となっている。このように、第三者機関の認定に基づき、国や港湾の枠組みを超えて、インセンティブを与える制度は注目に値する。
その他、入港料などに対してのインセンティブ制度は、イギリス、スペイン、シンガポール、オランダ、韓国においても実施されている(第1章
表1.3-1参照)。現時点では、ダブルハルタンカーなど海洋汚染防止に対してのインセンティブ制度がメインであるが、大気汚染防止技術に対しても枠組みが拡張される可能性や計画を示している国もあり、北欧諸国のような仕組みが導入される可能性は高いと考えられる。
14 1994年にロッテルダム市港湾局がロッテルダムに設立した財団で、2001年5月にノルウェーのハイエルダール氏らによって新たに創設された海洋環境の保全に努めたものに与えられる賞(Thor Heyerdahl Award International Maritime Environmental Award)の第1回目の受賞を得た。
表2.2-3 スウェーデンにおける環境配慮事項による航路使用料金の制度
関係項目 |
料金 |
備考 |
NOxの排出量に
応じた基本料金 |
タンカー:
・2g‐NOx/kWh未満:3.7SEK/GRT
・2g‐NOx/kWh以上12g‐NOx/kWh未満:
Y(SEK/GRT)=0.16×X(g‐NOx/kWh)+3.38
・12g‐NOx/kWh以上:5.3SEK/GRT
その他の船舶:
・2g‐NOx/kWh未満:3.4SEK/GRT
・2g‐NOx/kWh以上12g‐NOx/kWh未満:
Y(SEK/GRT)=0.16×X(g‐NOx/kWh)+3.08
・12g‐NOx/kWh以上:5.0SEK/GRT |
NOx排出量:
75%負荷時の値 |
同上:上限額 |
タンカー:
・2g‐NOx/kWh未満:100,000SEK
・2g‐NOx/kWh以上12g‐NOx/kWh未満:
100,000SEK〜160,000SEKでNOx排出量に比例
・12g‐NOx/kWh以上:160,000SEK
その他の船舶:
・2g‐NOx/kWh未満:60,000SEK
・2g‐NOx/kWh以上12g‐NOx/kWh未満:
60,000SEK〜100,000SEKでNOx排出量に比例
・12g‐NOx/kWh以上:100,000SEK |
  |
燃料中の硫黄分
に応じた割引 |
客船:
・使用燃料の硫黄分が0.5wt%以下:‐0.9SEK/GRT
その他の船舶:
・使用燃料の硫黄分が1.0wt%以下:‐0.9SEK/GRT |
「‐」:
割引の意味 |
*:SEK(スウェーデン・クローネ)=約11.6円(平成13年12月4日現在)
*:GRT=総トン(gross tonnage)
Swedish Marine Administration. (1998) Environmental differentiated fairway and port dues.から作成
表2.2-4 スウェーデンにおける環境配慮事項による各港湾使用料金の制度
<SOxに関する制度> 単位:SEK/GRT
港湾 |
低硫黄燃料使用に対する割引* |
高硫黄燃料使用に対する割増* |
Gothenburg |
  |
0.13 |
Helsingborg |
0.10 |
  |
Malmo |
0.10 |
  |
Stochholm |
0.10 |
0.10 |
*:硫黄の含有率が1.0%以下(フェリーのみ0.5%)を低硫黄燃料、1%を超えるものを高硫黄燃料と定めている
<NOxに関する制度> 単位:SEK/GRT
港湾 |
低濃度NOxに対する割引 |
高濃度NOxに対する割増 |
<2g/kWh |
2〜6g/kWh |
6〜12g/kWh |
>12g/kWh |
Gothenburg |
0.20 |
0.10 |
0.05 |
  |
Helsingborg |
0.10 |
0.06‐0.09 |
0.01‐0.05 |
  |
Malmo |
0.15 |
0.15 |
0.05 |
  |
Stochholm |
0.20 |
0.15 |
0.05 |
0.10 |
*:SEK(スウェーデン・クローネ)=約11.6円(平成13年12月4日現在)
*:GRT=総トン(gross tonnage)
出典Economic instruments for reducing emissions from sea transport (1999)、 Per Kageson
表2.2-5 ノルウェーにおける環境等への配慮による船舶課税割引の割引制度
<重み係数(A)>
項目\船種 |
タンカー |
一般貨物 |
客船 |
その他 |
大気への排出
(1) |
Nox |
5 |
5 |
7 |
7 |
Sox |
5 |
5 |
3 |
3 |
廃棄物等
(2) |
排水 |
  |
  |
5 |
  |
ゴミ、廃棄物 |
  |
  |
5 |
  |
事故時の排出
(3) |
燃料の種類 |
3 |
3 |
5 |
  |
貨物 |
4 |
  |
  |
  |
座礁 |
3 |
7 |
5 |
  |
<ポイント(B)(客船の事例)>
項目\ポイント(B) |
0.25 |
0.5 |
1.0 |
大気への排出
(1) |
NOx |
IMO‐NOxに一致 |
IMO‐NOxより
15%削減 |
IMO‐NOxより
60%削減 |
SOx |
  |
硫黄分1.5%未満 |
硫黄分0.5%未満 |
廃棄物等
(2) |
排水 |
  |
  |
排水処理システム |
ゴミ、廃棄物 |
  |
焼却施設 |
分別・コンポジット
+全て陸上で処分 |
事故時の排出
(3) |
燃料の種類等 |
MDOのみ |
ダブルハル(燃料室) |
ダブルハル+MDO |
貨物 |
ダブルボトム |
  |
ダブルハル |
座礁 |
  |
救出用装置 |
遮蔽型機関室 |
<最大ポイント>
基本的には上記の7項目についてA×Bを計算し、[1]〜[3]で集計した後に総合計を算出するが、船種及び[1]〜[3]の項目ごとに最大値が決められており、これを上回る場合は下記の最大値を使用する。
項目\船種 |
タンカー |
一般貨物 |
客船 |
その他 |
大気への排出(1) |
6 |
6 |
6 |
10 |
廃棄物等(2) |
  |
  |
3 |
  |
事故時の排出(3) |
4 |
4 |
1 |
  |
Intenational Conference on Incentives for Environmentally Sound Maritime Transport. (2000) The Norwegian approach (Norwegian Ministry of the Environment).から作成
表2.2-6 ハンブルグにおける環境配慮等による港湾使用料の割引制度
関係項目 |
料金 |
備考 |
基本割引 |
下記の要件のいずれかを満した場合:6%の割引 |
  |
・ISO14001の認証を受けた船舶 |
・Green Awardの認証を受けた船舶 |
追加の割引 |
下記の要件のいずれかを満した場合:12%の割引 |
上記に上乗せ |
・硫黄分1.5%未満のバンカーオイルを使用 |
・NOxの排出量がMAPROL条約付属書VIの基準を15%以上下回っている |
・TBTを含まない防汚塗料を塗布している |
対象船舶等 |
港湾使用料が50DM/回以上の船舶 |
  |
割引の最大等 |
割引により計算された港湾使用料が50DM/回を下回る場合の港湾使用量は50DM/回とする。 |
  |
*1:DM(ドイツマルク)=約57.2円(平成13年12月10日現在)
Brochure about GREEN SHIPPING-news (2001) details of discount system and contacts.から作成