2.2.1 国内における地域規制の動向
・地方自治体は、港湾区域内の船舶排ガス量の把握を義務付けられてはいるが、その規制を行うものではない。
・ただし、専用ふ頭を持つ民間業者に対して、地方自治体から行政指導を行う例がある。
・神戸市では、発電所の環境影響評価審査の結果に基づき、船舶からの大気汚染物質の排出低減を行っている。
・川崎市では、公害防止等生活環境の保全に関する条例に基づき「船舶からの大気汚染物質の排出抑制に関する指針」を定めており、現在は実現方策についての検討を行っている。
現在、我が国では大気汚染防止法によりばい煙発生施設に対して排出規制が実施されており、例えば陸上固定ディーゼル機関に対する窒素酸化物の排出基準については、全国一律でシリンダー内径400mm以上が1200ppm、400mm未満が950ppmとなっている6。しかし、これらの排出規制は、陸上のばい煙発生施設を対象にしており、船舶は対象に含まれていない。
また、環境省が示した窒素酸化物総量規制マニュアルや硫黄酸化物マニュアルには船舶からのNOx、SOxの排出量の計算方法が示されており、地方自治体は排出総量の把握を義務付けられてはいるが、これも排出量の把握を行うものであり規制するものではない7。
ただし、船舶からの大気汚染物質の排出の問題はこれまで全く取り上げられなかった訳ではなく、自治体の行政指導による対応も認められる。
例えば、「神鋼神戸発電所」に係わる神戸市環境影響評価審査会の答申(平成10年8月11日)において、「神戸製鉄所に関連する船舶からの大気汚染物質の排出の低減を図ることも重要である。事業者にあっては、現神戸製鉄所に係る船舶も含め、船舶の構造上、陸上から受電可能な全ての船舶に対し、電気を供給できるよう設備を整備し、船舶運航事業者に陸上電気の使用や良質燃料の使用について協力を要請する必要がある。」との記載がある。神戸製鉄所では既に陸上電源を利用しており、上記の指摘に基づいて、発電所についても2002年4月の完成予定で陸上電源の使用関連施設を建設中である(神戸市への聞き取り調査結果)。
また、東京湾内の民間船用ふ頭では、電源開発磯子発電所が2号機増設の環境影響評価時に公表した対策が注目される。同発電所は、石炭火力であり、現在は5,000dwtの石炭専用船を運航しており、着さん時にはタグボートも利用している。2号増設時には、現在の運用を改め、セルフアンローダとサイドスラスターを搭載した新造専用船(10,000dwt)を用いること、また揚炭に際してはセルフアンローダの動力源として陸上電源を使用すること、タグボートを使用しないことで、発電所の運用に伴う船舶からのばい煙排出量を削減する予定である。
このように、最近は船舶からの大気汚染物質の排出抑制がかなり着目されており、既に条例や指針で対応を明文化した事例も出現している。本項では、具体的に明文化された下記の2事例について状況を把握した。
6 窒素酸化物総量規制区域内においては、地方自治体による上乗せ規制が行われており、陸上の固定型ディーゼル機関に対しては950ppmより厳しい排出規制が定められている場合が多い。
7 ただし、工場等の立地において事業者と地方自治体とが取り交わす公害防止協定でその指導が行われている可能性はあるが、公害防止協定自体は非公開であり、内容の詳細は不明である場合が多い。
(1)川崎市条例における対応
川崎市では平成12年12月20日から、川崎市公害防止等生活環境の保全に関する条例(平成11年川崎市条例第50号)に基づき、船舶からの大気汚染物質の排出抑制に関して、表2.2-1に示す「船舶からの大気汚染物質の排出抑制に関する指針」を定めている。同指針には、船舶を使用して原料、製品等を出荷し、または受け取る事業者は、大気汚染防止のために関係者との連携の強化、協力体制の整備及び排出量の把握に努める旨が明記されている。
川崎市では、現在、この指針の内容を着実に進めるための方策について検討を行なっているところである(川崎市への聞き取り調査結果)。
なお、同指針中、「排出量の把握」において述べられている「船舶ばい煙排出量管理システム(ハーモニィーシステム)」とは、船舶の諸元や船舶の運航状況について本指針に記載されている情報を収集し、環境省の窒素酸化物総量規制マニュアルに基づき、NOx排出量等を算出するシステムである。
(2)神戸市条例等における対応
神戸市は平成6年3月に「神戸市民の環境をまもる条例(条例第52号)」を策定しているが、その第7章(神戸港の環境の保全)第48条(港湾事業者の責務)第3項に「船舶運航事業者は、神戸港の区域において、船舶からの煤煙その他大気汚染の原因となるものの排出を防止するため、機関の良好な管理及び使用燃料の改善に努めなければならない。」という規定を定めている(表2.2-2参照)。
この規定に基づき、神戸市港湾整備局では黒煙の著しい船舶に対して黒煙排出の削減を指示している(神戸市への聞き取り調査結果)。
表2.2-1 川崎市 公害防止等生活環境の保全に関する条例に基づく
「船舶からの大気汚染物質の排出抑制に関する指針」(全文)
川崎市告示第601号
船舶からの大気汚染物質の排出抑制に関する指針川崎市公害防止等生活環境の保全に関する条例(平成11年川崎市条例第50号。以下「条例」という。)第60条の規定に基づき、船舶からの大気汚染物質の排出抑制に関する指針を次のように定め、平成12年12月20日から適用する。
平成12年12月1日
川崎市長
事業者は、条例第59条に規定する船舶から排出される大気汚染物質の抑制に向けた措置の実施を要請するに当たり、次に掲げるところにより実施するものとする。
1 船舶に係る関係者との連携
(1)大気汚染物質の排出抑制に向けた取組の必要性及びその実施等について、運航者、船主その他の船舶に係る関係者(以下「船舶関係者」という。)と定期的にかつ計画的に交流する機会を設けること。
(2)川崎港港湾区域(昭和49年川崎市公告第10号)内で排出される大気汚染物質の抑制に向けて、A重油等の硫黄含有率の低い燃料の使用、荷役時間の短縮及び陸上電源の使用等の措置の実施について、船舶関係者と協同で取組むこと。
2 協力及び推進体制の整備
(1)船舶関係者が行おうとする大気汚染物質の排出抑制に向けた措置が円滑に進められるよう内部の協力及び推進体制を整備すること。
(2)大気汚染物質の排出抑制の措置を講じた船舶を優先的に使用すること等により船舶関係者への取組を支援すること。
3 排出量の把握自らの事業活動のために、直接的又は間接的に船舶を使用して、原料、製品等を出荷し又は受け取る事業者は、総トン数1,000トン以上の船舶を対象に(1)に掲げる情報を収集し、整理し、(2)に掲げる方法により、船舶から排出される硫黄酸化物、窒素酸化物及びばいじんの量を把握すること。
(1)使用船舶に係る情報の収集、整理
ア 船舶の諸元について、次の情報を収集し、整理すること。
船種、船名、竣工年、内航外航の区分、総トン数、主機機関の種類
イ 入港船舶の運航状況について、次の情報を収集し、整理すること。
入港船舶名、接岸日時、離岸日時、荷役時間、停泊時使用機関の種類、使用燃料の硫黄分、密度、燃料使用量
(2)排出量の算定
(1)により収集、整理した情報から、川崎市が作成した船舶ばい煙排出量管理システム(八一モニィーシステム)等から排出量を算定すること。
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第1章 総則
第1節 通則
(目的)
第1条 この条例は、市民が健康で文化的な生活を営むためには、健全で快適な環境が極めて重要であることにかんがみ、健全で快適な環境の確保について、基本理念を定め、並びに市、事業者及び市民の責務を明らかにするとともに、健全で快適な環境を確保するための施策の基本となる事項その他必要な事項等を定めることにより、その施策を総合的に推進し、もって現在及び将来の市民の健全で快適な環境を確保することを目的とする。<中略>
第7章 神戸港の環境の保全(港湾事業者の責務)
第48条神戸港の区域において事業活動を行う者は、荷役その他の事業活動に伴い、貨物荷役用具又は廃棄物(以下「貨物等」という。)が、岸壁、物揚場、道路、荷さばき地その他の港湾法第2条第5項に規定する港湾施設(以下「港湾施設」という。)又は海面に脱落し、散乱し、又は飛散することを防止するために必要な措置を講じなければならない。
2 神戸港の区域において海上運送法(昭和24年法律第187号)第2条第2項に規定する船舶運航事業を営む者(以下「船舶運航事業者」という。)は、船客により廃棄物が港湾施設又は海面へ投棄されないよう、船舶にごみ容器を設置し、効果的な広報を行い、その他必要な措置を講じなければならない。
3 船舶運航事業者は、神戸港の区域において、船舶からの煤煙その他大気汚染の原因となるものの排出を防止するため、機関の良好な管理及び使用燃料の改善に努めなければならない。(船舶の遺棄等の禁止)
第49条何人も、神戸港の区域において、船舶を遺棄し、又は放置してはならない。(遺棄船舶等の処理)
第50条市長は、前条の規定に違反して遺棄され、又は放置されている船舶であって、所有者又は占有者が不明であり、かつ、当該船舶が沈廃船の状態にあるものは、廃棄物と認定してこれを処理することができる。
2 前項の廃棄物としての認定の基準及び手続その他必要な事項は、規則で定める。
<中略>
附則
(施行期日)
第1条 この条例は、平成6年4月1日から施行する。
<後略>
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