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1.1 内航海運に伴う温室効果ガスの排出量
 本章では、内航海運に伴う温室効果ガスの排出の実態及び将来予測について検討を加える。
 1.1.1においては、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)作成マニュアルの算定方法に基づいた内航海運に伴う温室効果ガスの排出量及び将来予測を示す。1.1.2では、運輸部門全体にとって排出削減の重要な施策のひとつと考えられるモーダルシフトについて複数の視点から解析する。また、1.1.3で、1.1.1による温室効果ガスの将来予測をもとに、将来のエネルギー効率の予測等をとりいれてこれを修正した独自の将来予測を提案する。
1.1.1 IPCCマニュアルに基づく内航海運に伴う温室効果ガス排出量
・IPCC(気候変動に関する政府間パネル)作成マニュアルの算定方法に基づき、環境省が算出した内航海運に伴う温室効果ガスの排出量の推測及び将来予測を示した。
・CO2排出量は2010年で1990年に比較して2〜3%程度増加すると予測された。
 
 我が国の内航海運に伴う温室効果ガス排出量については、政府より気候変動枠組み条約事務局へ温室効果ガス排出量・吸収量目録のひとつとして毎年提出がなされており、さらに将来予測については別途環境省により調査報告書が作成されている。運輸部門からの排出算定方法はIPCCが作成したマニュアルに準じるもので、旅客輸送および貨物輸送部門で消費された燃料消費量を統計などから把握し、これをもとに温室効果ガス排出量を算出する方法である。海運部門の場合、国土交通省編の運輸関係エネルギー要覧に記載された内航旅客輸送および内航貨物輸送の2部門の燃料消費量またはエネルギー消費量に基づき算定が行われている。なお、後者は、国土交通省編 内航船舶輸送統計年報に記載された内航海運業者による燃料消費量の数値と一致する。
 環境省(当時環境庁)の「平成12年度温室効果ガス削減技術シナリオ策定調査検討会報告書」では、内航旅客輸送および内航貨物輸送の2部門から排出される温室効果ガスについて、1997年までの排出量の把握に基づき、2010年までの排出量を予測している。
 同報告書の2010年までの計算値を表1.1-2および表1.1-3に、算定方法等の特徴を表1.1-1に示す。同報告書の将来予測においては、モーダルシフトが進展しない(モーダルシフト化率は現状のまま)と仮定した場合を「固定ケース」とし、モーダルシフト推進のための施策を講じ、鉄道・内航海運ともにモーダルシフト化率が向上した場合(表1.1-1参照)を「計画ケース」としている。
 表1.1-2に示すように、内航海運(内航旅客輸送および内航貨物輸送)から排出されるCO2排出量は1990年以降増加傾向が見られ、1997年では1990年比で22%の増加となっており、特に内航旅客輸送における燃料消費量の伸びが著しくなっている。輸送人キロが大きく伸びていないにもかかわらず、燃料消費量が増加していることから、定性的には高速水中翼船など高速輸送の増加がその原因として考えられるが、今後統計上の問題も含めて精査検討していく必要があると思われる。1
1 旅客部門における燃料消費量は内航旅客輸送に係る業者からの申告に基づき作成されていること、1996年と1998年以降の燃料消費量に大きな差異が報告されていないことなどから、表1.1-2および表1.1-3に示した旅客船の1997年におけるエネルギー消費量の集計値には、燃料消費量の集計段階で誤差が含まれている可能性も考えられる。
 また、内航貨物輸送部門のみで見た場合においても、CO2排出量およびCO2排出原単位(kg-CO2/トンキロ)は1990年に比較してそれぞれ5.2%及び8.6%増加している。その原因としては、RORO船や内航コンテナ船等の高速貨物船によるモーダルシフトがCO2排出原単位を悪化させていることが考えられる。この点については1.1.2において詳細に分析する。
 
 一方、将来のCO2排出量の予測値については、モーダルシフトの増加を見込まない「固定ケース」が「計画ケース」よりも当然ながら少なくなっているものの、その差はほとんど無く、CO2排出量は、「固定ケース」、「計画ケース」とも2010年で1990年の2〜3%程度の増加と見込まれている。
 
表1.1-1 環境省「温室効果ガス削減技術シナリオ策定調査検討会」における
算定方法の特徴点
  特徴 備考
温室効果ガス排出量の現状把握手法 液体貨物および燃料ベーパーからのCH4ガスの排出を算定していない 液体貨物(特に原油類)の総輸送量および平均航行日数並びに燃料ベーパーのガス組成のデータなどが入手できれば推定可能である。本調査では、原油備蓄基地から精油所間の運航データなどが入手できなったため、定量的な分析を行っていない。
ディーゼル機関からのN2Oの排出原単位はIPCCマニュアル記載値を使用している 実測値や他の文献値などにおいてほぼ同等の排出係数が求められている事から、同数値を用いて問題ないと考える
HFCsの漏洩量が算定されていない 内航海運で用いられるリーファーの個数が把握できれば推定可能だが、現状では把握困難
温室効果ガス排出量の将来予測手法 エネルギー消費原単位(燃料消費量/人キロまたは燃料消費量/トンキロ)の改善を見込んでいない 輸送エネルギー効率の改善目標値が反映されていない。国土交通省では2010年までに3%改善としている。
スーパーエコシップなど輸送エネルギー効率の非常に高い船舶が大量に導入されれば、2010年においても全体で数%程度の効率改善が見込まれ、更に将来に渡って改善も予測される。
一方、モーダルシフトの推進により高速RORO船や高速フェリー船が大幅に導入された場合、現在の輸送エネルギー効率を将来予測においても使用した計算では、誤差が出る可能性もある。
また、機関等の改善以外に消席率の向上やウェザールーティング等による運航面での改善も想定しないと、2010年において3%程度の改善を見込むことは困難と考えられる。
モーダルシフト可能量の算定根拠 全体の総貨物輸送量に占める500km以上の雑貨輸送量の比率を平成10年度貨物地域流動調査の実績値により17.8%と仮定した。さらに、同輸送量に占める海運の比率が現在の45%(物流問題研究会調査)から、2005年には47.5%、2010年には50%にアップすると仮定している。2010年における船舶シフト量は、4,741×106トンkmと計算されている。
将来予測が2010年まで 代替に時間を要する船舶では代替効果の影響把握のためには2020年程度までの予測が必要。
 
表1.1-2 環境省計算による内航海運に伴う温室効果ガス排出量の予測
(固定ケース)
(拡大画面: 438 KB)
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表1.1-3 環境省計算による内航海運に伴う温室効果ガス排出量の予測
(計画ケース)
(拡大画面: 332 KB)
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