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2.2 海洋・環境教育を担う関係機関の現状
 ここでは、沿岸部に位置し、わが国の海洋・環境教育をサポートするポテンシャルを持つ試験研究機関やレジャー施設、NPO等の存在にスポットをあて、産学官民が連携した海洋・環境教育の今後の方向性を検討する際の参考とする。
 
2.2.1 試験研究機関
(1)国立研究機関・独立行政法人
海洋系の試験研究機関を、その目的から以下の4つに大別した。
 [1]海洋科学系、[2]水産系、[3]技術開発系、[4]環境・防災系
 
(a)海洋科学系研究機関
 わが国において最も代表的な海洋科学研究機関は、文部科学省所管の特殊法人である海洋科学技術センターである。同センターは、神奈川県横須賀市に位置し、わが国における海洋科学研究のまさにセンターとしての役割を果たしており、5隻の海洋観測調査船、2隻の深海調査艇(しんかい2000、しんかい6500)を保有する、世界的に見てもトップクラスの海洋研究機関である。
 また、同センターでは海洋科学研究のほか、青少年の教育・育成にも力を入れており、日本科学技術振興財団が実施しているサイエンスキャンプにも積極的に協力するとともに、平成8年度からは、夏休み期間を利用して全国の高校生、専門学校生および教諭を対象に2泊3日のコースのマリンサイエンス・キャンプを実施している。さらに、平成11年度からは、むつ研究所において大学生と大学院生を対象とした海洋科学技術学校を開設し、更なる青少年の育成に取り組んでいる。
(b)水産系研究機関
 わが国では、水産庁傘下で9つの水産研究所が全国に展開していたが、平成13年4月より独立行政法人化し、新たに水産総合研究センターとしてスタートした。
 このほか、全国の各都道府県には水産試験場(水産研究所、水産センター等さまざまな呼び名がある)があり、地域ごとの沿岸環境や生物相に応じた試験研究、水産技術開発、種苗生産等の業務を行っており、日本人にとって重要なタンパク源である水産資源の安定供給に貢献している。
 また、各研究所、試験所には、業務の範囲を越えて、地域で取り組まれている環境保全活動や環境教育活動に積極的に協力をする研究者・職員も増えてきている。
(c)技術開発系研究機関
 平成14年3月に、それまで国の傘下にあった研究機関の多くが独立行政法人化されたが、技術開発系研究機関の多くも独立行政法人となった。
 旧運輸省系の港湾技術研究所(横須賀)、船舶技術研究所(三鷹)、旧建設省系の土木研究所(つくば)は、それぞれ独立行政法人として港湾空港技術研究所、海上技術安全研究所、土木研究所と改組されるとともに、港湾技術研究所、土木研究所、建築研究所の一部が統合され、新たに国土交通省傘下の国土技術政策総合研究所となった。
 また、経済産業省工業技術院が独立行政法人産業技術総合研究所に改組されたのに伴い、海洋関連の技術開発・調査研究を実施していた地質調査所、資源環境技術総合研究所、電子技術総合研究所、中国工業技術研究所、四国工業技術研究所も、それぞれ衣替えをしている。
 このほか、水産研究所と同様、各都道府県に工業技術センターが存在するが、中でも長崎県工業技術センターは海洋関連の技術開発を地元のベンチャー企業と共同で実施しており、数多くの実績を残している。
(d)環境・防災系研究機関
 代表的な研究機関としては、国立環境研究所、気象研究所、国立防災科学技術センター等が上げられる。
  図4に全国での試験研究機関の分布を示す。
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図4 研究機関の分布
(出典:相模湾沿岸域課題調査 海洋教育・環境教育の視点から、平成7年3月) 注)機関名は組織改変前の旧称
 
(2)民間研究機関
 民間の研究機関としては、主に土木建設業界と鉄鋼造船業界の技術研究所に海洋・沿岸域を扱う機関が多いのが特徴である。しかしながら、バブル経済崩壊以降、長引く不況の影響によりかつてのような大型の技術開発は少なくなっている。一方、環境ビジネスをターゲットとして、環境配慮型の技術開発に力を入れる企業が増えてきている傾向が見える。
 
2.2.2 水族館・博物館・マリーナ等
(1)水族館
 全国の動物園および水族館が加盟する(財)日本動物園水族館協会には、淡水系も含め70の水族館が加盟しており、教育・環境教育に力を入れている。特に、動物園や水族館は動物虐待であるという意見が出されるようになって以来、単に見せるだけの展示内容から、触れる、体験する、学ぶという要素を取り入れる施設が多くなっている。
 平成14年度から小中学校のカリキュラムに取り入れられる「総合的な学習の時間」においても、生き物と直接触れ合える機会がもてる水族館が果たすべき役割は大きいものと考えられる。
 
(2)博物館
 現在、国公立、民間、個人も含めわが国には1,000以上にも上る博物館(美術館含む)が存在する。このうち、海洋・沿岸域にかかる展示を行っている施設の実数は把握できていないが、小規模な展示も含めればかなりの数に上ると推測できる。
 今後、全国において海洋・環境教育を展開する場合、これら全国に展開する博物館を活用することが重要であると考えられる。
 なお、前出の海洋科学技術センターが実施した「海洋研修に関する調査」では、水族館と博物館を対象としたアンケートも実施しており、回答があった82の機関のうち、約半数にあたる43の機関で、何らかの形で海洋に関する研修活動を実施しているという結果であった。すでに調査から7年が経過していることから、今後改めて現状を把握するための調査を実施することが望まれる。
 
(3)マリーナ施設
 海洋・環境教育の実践活動を考えた場合、海に直接触れることが重要であることは論を待たないが、最も海に近い場所にある施設としてマリーナは、海洋・環境教育の拠点として注目すべき施設である。
 全国には、68の公共マリーナと288の民間マリーナが存在し、地域的な偏りはあるものの、一般の人間が立ち入れる数少ない臨海施設としての意義は大きい。
 
(4)漁港
 全国には4,000箇所以上の漁港が存在し(第10次漁業センサス)、日本人の魚食文化を支える拠点として重要な位置付けにあるものの、わが国の水産業は漁獲量の減少、後継者不足等の問題を抱え、本来の漁船の基地としての役割以外への多目的利用のあり方が議論されている。
 フィッシャリーナ事業はその典型であるが、遊漁船の基地として活況を呈したり、休日には釣りを楽しむ家族連れで賑わいを見せたりするなど、全国各地の漁港は現実に市民が海に親しむ窓口になっている。
 また、過疎化が進む漁村地域では、数多く残された自然や独特の文化を資源として位置付けブルーツーリズムを推進する事例が増えるなど、新たな動きも見られる。
 
2.2.3 海洋関係団体
(1)特殊法人・財団法人・社団法人・任意団体
 わが国には、海洋関係省庁や地方自治体傘下で海洋・沿岸域の利用・開発・保全に携わるさまざまな公益法人が存在する。これら公益法人は、海洋・環境教育を財政面で支援したり、あるいは人材を派遣し実践的な活動に協力したりと、様々な方法でかかわっている。
 また、現在直接間接を問わず海洋・環境教育に携わっていない公益法人であっても、海洋・沿岸域に関する豊富な情報や知見を有している場合には、今後有力な支援組織になる可能性を秘めていると考えられる。
 
(2)漁業協同組合
 全国の沿岸都道府県には、わが国の水産業を支える漁業協同組合が数多く存在する。特に沿岸漁業を営む漁業者を抱える組合は、地先の海を誰よりもよく知る水先案内人として、海洋・環境教育を支える重要な人材バンクであると言えよう。
 また、実践的な海洋・環境教育を行う場合、実際に海に出て自然のダイナミズムを肌で感じることは非常に重要であると考えられるが、そのツールとして漁船は非常に有効であり、前述の漁港の役割とあわせて考えれば、漁業協同組合およびその構成員たる漁業者は、わが国海洋・環境教育を支える重要な役割を担っている。
 
2.2.4 NPO・NGO
 近年、国土交通省や水産庁等が掲げる自然共生型の港湾事業、漁港事業、海岸事業では、その担い手としてNPOが不可欠であるとうたっている。海洋・沿岸域の環境保全活動を行っているNPO・NGOは数多く存在するが、代表的な組織を以下に紹介する。
 
(1)海をつくる会
○主な活動内容:市民ダイバーの環境保全活動
・山下公園海底清掃大作戦
 東京湾の環境保全のため、毎年市民ダイバーなど約200名が集まり、山下公園前の海底を清掃する活動を行い、今年で21年目になる。毎年2トン近くのごみを回収しており、集まってくるダイバーの意識は啓発される。課題は、長年にわたる活動でもゴミが減らないという点である。
・野島定点観察
 横浜で唯一残された300mほどの自然海岸である野島海岸は、潮干狩りなど多くの市民に親しまれているが、年に数回、定期的に海岸清掃イベントを催している。また、横浜の海の環境の変化を観察するため、毎月、生き物の観察とリスト作成しているほか、横浜市沿岸で唯一残されたアマモ場(アマモ・コアマモ)の分布を継続して観察している。
 
(2)よこはま水辺環境研究会
○主な活動内容:企業ボランティアとしての活動
・横浜港ポートサイド地区におけるヨシ原の復元
 横浜市の設計コンペでグランプリをとったヨシ原のある親水護岸を実現させるため、産官学市民が連携し成功に結びつけ、事業主体として連携を図れる可能性を示した。子どもたちからカニが棲む護岸の要望があり、現在継続して活動を行っている。
・野島水路におけるヨシ原の復元
 塞がれていた野島水路の開削に伴い消失したヨシ原を復元できないかという発想から、産官学市民の連携で実証実験を行っている。
・横浜港新港地区における人工磯浜構築実験
 横浜港MM21地区の護岸は、親水護岸として市民が水辺に近づけるよう配慮された設計であるものの、階段護岸前に手すりがあり、眺めるだけの空間になっている。これを、多様な生き物が生息する護岸とし、市民が楽しめるようにできないかと考え、人工タイドプールの実験を行った。
・横浜港万国橋における藻揚造成実証実験
 シーブルー事業で俊渫履砂が行われた。劇的に環境が改善され、シロギス、ヒラメなど多くの生物が生息するようになった。河口域ということもあり、再堆積(毎年約20mm)が進み、このままでは悪化していく恐れがある。継続的にメンテナンス事業を行うことは制度上難しいという課題がある。
・汽水域セミナーの開催
 環境的にもたいへん重要な空間でありながら、開発圧力が高く、市民が近づきにくい場である汽水域をテーマに、あらゆるものが交じり合うという暗示的な意味合いも込めたセミナーを他のNPOと共同で開催している。
 パートナーシップをいかにしてつくるか、市民が水辺に近づけるようにするためには何が必要かなどを議論した。海においては行政と市民が対立関係になりがちであったため、市民側が連携を図り実行委員会形式で主催、行政の協力を得て開催した。当初は国の研究者のみが登壇していたが、徐々に行政の直接関係者が登壇するように変わった。復元ではなくまずは保全であろうという意見が多い。
・海の生き物ふれあい広場
 横浜港MM21地区にある「潮入りの池」は、横浜港の中心部で唯一子どもたちが膝まで水に浸かって遊べる場所である。自然海岸が消滅した場所ではこうした場所はほとんど見られない。
 この池で、漁業者と連携し行政の協力を得て、生き物を放し、タッチングプールのイベントを行った。水族館などの自分は水の外にいて、生き物を触れあう場所とは違い、自分が水の中に入り、生き物と触れ合えるよう配慮した。
 
(3)海辺つくり研究会
○主な活動内容:行政と市民のインタープリターとしての活動
・夢ワカメワークショップの開催
 京浜臨海部再生の検討を目的に、産官学市民が連携し、子どもたちが主体となり、ワカメ・コンブの育成を通じて京浜臨海部の再生を考えることにつながるようワークショップを開催している。総合学習が言われている中で、自分から身近な問題点を見つけ改善策を考え出すということが課題となっているが、体験型の環境学習をできる身近な場が少ない。インターネットでの情報を書き写して提出し、ごまかしているケースも少なくない。このような場を提供することによって、こうした中から生まれる子どもの感性には目を見張るものがある。
 また、京浜港湾工事事務所の会議室でイベントを行い、高齢の地元の漁業者の方にかつての海について講演を依頼するなど、多様な連携を図りつつある。
・多摩川河口干潟見学会(トビハゼの棲息地の保全)
 絶滅危倶種に指定されているトビハゼが多摩川で唯一観察される場所にて、見学会を開催し、その特殊な場の形成要因について調べている。
・アマモ場の保全・再生実験
 野島海岸では、潮干狩りに違法漁具(ジョレン)を用いている人が多いことから、アマモ場が掘り起こされ消滅の危機に瀕している。市民が海に親しむ、あるいは浄化のために海域の栄養を市民の手によって陸上に回収するということで、潮干狩り自体は単純に否定できない。これらとの共存を図るため、アマモの種を採取し、苗まで育成し、その場に戻す実験を行っている。現在、神奈川県水産総合研究所の水槽で苗を育成している。
・漁業者との連携による藻場造成実験
 横浜市漁業協同組合の若手研究会と連携を図り、藻場造成の実験を行っている。漁業者にとっても、子どものころ遊んだ海藻が繁茂する豊な海をつくるような夢のある仕事がしたいとの話から、市民活動との連携をスタートさせた。実際にはワカメを対象にしているが、徐々にカジメ場の復元に進化させていくことが課題となっている。








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