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5. 環境保全法 
5.1 環境基本法
 「環境基本法(平成5年法律91号)」は、1992年の「環境と開発に関する国連会議」(リオ会議)を受けて、わが国の廃棄物処理を含む広義の環境政策の新たな理念を定め、今後の政策の体系的展開の基礎となるものとして制定された。環境保全理念の中心となるのは、環境の恵沢の享受と承継(3条)、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築(4条)、国際的協調による地球環境保全の積極的推進(5条)の3つである。
 同法第1章ではこの三理念実現のための国・地方公共団体・事業者・国民の責務がそれぞれ明記され、第2章および3章では、環境の保全に関する基本的施策と環境審議会等の組織について定めが置かれている。環境保全の基本的施策としては、「環境基本計画」の制度が導入され、環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱が定められる。公害対策基本法による環境基準と公害防止計画はこの法律の下でも重要な施策として位置づけられた。しかし、環境影響評価制度については「必要な措置を講ずるものとする」との定めが置かれるにとどまった(20条)。さらに、環境への負荷活動を行う者が自らの負荷の低減に努めることとなるように誘導する措置については、今後の調査・研究の実施をうたうにとどめ、その導入の際には国民の理解と協力をえることの努力を強調しつつ、地球環境保全の必要との関係で国際的連携への配慮が規定されている (22条2項)。基本法は、一方で世界的な環境問題への取り組みの盛り上がりの中で制定されたという事情があり、他方で新たな環境保全措置のコスト負担についての経済界の警戒も強かったために、このような八方美人的な規定を持つことを避けられなかったといえる。
 しかし、その後、環境影響評価については「環境影響評価法(平成9年法律81号)」が制定された。わが国では1970年代後半から環境影響評価法の制定が試みられ、昭和59年からは「環境影響評価実施要綱(いわゆる閣議アセス)」によるアセス等が実施されて来たが、閣議アセスのさまざまな問題点も指摘される中で、地方自治体の条例や要綱に基づくより厳しいアセスが行われる事例も少なくなかった。立法は、これまで指摘されてきた閣議アセスの問題点を、手続開始の時期、対象事業の範囲、評価項目、評価基準等、いくつかの点で改善する形でなされた。法律の定める環境影響評価制度は以下のようなものである。
 制度の対象行為は、規模が大きく、環境影響の程度が著しいものとなるおそれがあり、かつ許認可等によって国が関与するものである。道路、ダム、鉄道、空港、発電施設、廃棄物の最終処分場、土地区画整理、工業団地造成、新都市基盤整備、流通団地造成等、12の事業が列挙されている(2条)。また、対象事業を、必ずアセスを行わせる第一種事業と、個別に判断をしてアセスの要否を決定する第二種事業に分ける。
 事業者は対象事業にかかるアセスを行う方法について、「環境影響評価方法書」を作成し、公告縦覧することを義務づけられ、早期の段階から外部にアセス手続が開かれるようにした(5条)。また、具体的な環境影響評価の項目、手法選定の指針、環境保全のための措置に関する指針を、環境基本法14条各号に定める事項の確保を旨として定めることとした(11、12条)。基本法14条各号は、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素を良好な状態に保持すること、生物の多様性の確保を図るとともに多様な自然環境を体系的に保全すること、人と自然との豊かなふれあいを保つことをあげる。
 事業者は方法書に従って環境影響評価を実施し、その結果を「環境影響評価準備書」としてまとめる(14条)。準備書記載事項として、環境保全のための措置のみならず、これを講ずることとするに至った検討の状況の記載が義務づけられ、代替案の検討等がこの義務の下で想定されている。
 方法書、準備書は、ともに事業者から、関係都道府県知事に送付され、公告・縦覧により一般に周知された上で、準備書については関係地域における説明会が義務づけられている(6、7条、15〜17条)。これらの書面につき環境の保全の見地からの意見を有する者が、意見書を提出することができるものとされる(8、18条)。事業者は準備書の手続を踏まえて、その記載事項について改めて検討を加え、必要に応じて追加調査を行った上で、評価書を作成する(21条)。評価書は許認可権者および環境庁長官に送付され、それぞれの審査に付される(22条)。環境庁長官は許認可権者に意見を述べることができ、許認可権者は環境庁長官の意見を勘案して事業者に対して意見を述べることができる(24条)。事業者は許認可権者の意見を勘案して、必要に応じて追加的な調査や環境保全対策の再検討等を行い、評価書に補正を加える(25条)。このようにして完成された評価書は、公告・縦覧される(27条)。この公告によって対象事業の着手制限は解除され(31条)、環境影響評価手続が完結する。
 評価書が事業に関係する意思決定に的確に反映されることを確保するために、許可権者は、評価書の記載事項および24条による意見に基づいて、対象事業につき環境保全についての適正な配慮がなされるものか否かを審査し、許認可等の審査にあたりその結果を合わせて考慮し、その考慮に基づいて許認可等を拒否する処分を行ったり、許認可に必要な条件を付することができる(33条)。以上の許認可以外にも、届出の受理、補助金交付、特殊法人の監督、国が自ら事業を行う場合についても、評価書の記載事項に基づいて審査を行い、これをそれぞれの判断に反映させることが義務づけられている(34〜37条)。また、事業者自身も、評価書の記載に従って環境の保全について適正な配慮をして事業を実施することが義務づけられている(38条)。
 なお、このような手続によらない特例的な手続でアセスが行われる領域として、都市計画に関連するもの(39〜46条)、港湾計画に関連するもの(47条、48条)、発電所に関連するもの(59条)があげられている。港湾計画に関連する特例の内容は、重要港湾に関する港湾計画のうちで一定の要件を満たすものの決定、または変更に際して、港湾管理者が環境影響評価手続を行わなければならないというものである。
5.2 海洋汚染および海上災害の防止に関する法律
 「海洋汚染および海上災害の防止に関する法律(昭和45年法律136号)」は、1973年の「船舶起因の海上汚染の防止に関する条約(MARPOL条約)」を受けて、昭和45年制定の「海洋汚染防止法」の一部改正と題名改正によって制定された法律である。その後、1975年の海洋投棄条約の制定等の国際条約体制の変遷、国内での大規模な船舶の衝突・炎上事故等を踏まえた幾度かの改正を経て今日に至っている。
 法の目的は、船舶・海洋施設・航空機から、海洋に油・有害液体物質等・廃棄物を排出することや、船舶および海洋施設において、油・有害液体物質等・廃棄物を焼却することを規制し、廃油の適正な処理を確保するとともに、排出された油・有害液体物質等・廃棄物その他の物の防除、海上火災の発生および拡大の防止、海上火災等に伴う船舶交通の危険の防止のための措置を講ずることによって、海洋の汚染および海上災害を防止し、海洋の汚染および海上災害の防止に関する国際約束の適確な実施を確保し、海洋環境の保全ならびに人の生命および身体ならびに財産の保護に資することにある。
 目的を達成するための規制制度のほかに、廃油処理事業の許可及び届出の制度を定め(第5章)、海上災害防止センターを設置(6章の2)する。
5.3 広域臨海環境整備センター法
 「広域臨海環境整備センター法(昭和56年法律76号)」は、昭和50年代において、近い将来、首都圏、近畿圏等の廃棄物最終処分場が絶対的に不足することが予測された状況に対応することを目的として制定された法律である。フェニックス法ともいわれる。
 当時、一方で、大都市圏において行政区域を超えた広域の廃棄物最終処分場の用地需要が非常に強くなり、他方で、大都市圏における廃棄物埋立護岸が昭和60年代前半には受け入れを完了することが見込まれるという事情があった。このような状況の下で、関係する港湾管理者および地方公共団体が共同して、広域的に利用できる廃棄物の海面埋立を行うための処理場の整備と、廃棄物による海面埋立により行う土地造成等をあわせて行う主体として、特殊法人でも認可法人でもない新たな法人として、多数の地方公共団体が出資して地方公社の広域版とも言うべき法人を設立して事業を行う必要があるとの認識で、本法が制定された。法律の具体的内容は以下の通り。
 厚生大臣は運輸大臣の協議によって、一つの都府県の区域を超えた廃棄物の広域的な処理が適等で、かつその処理のために海面埋立を行うことが特に必要であると認められる「広域処理対象区域」を指定する。運輸大臣は厚生大臣との協議によって、広域処理対象区域において生じた廃棄物の処理を行う広域処理場の整備を行うことが港湾の秩序ある整備に資することとなると認められる港湾を「広域処理整備対象港湾」として指定する(2条)。
 指定がされた後に、その区域の全部または一部が広域処理対象区域内にある地方公共団体の長及び広域処理場整備対象港湾の港湾管理者の長10人以上が発起人となり、関係地方公共団体及び関係港湾管理者が出資して、主務大臣の認可を受けてセンターを設立する(5条、9条、10条)。センターには管理委員会が置かれ(14条)、港湾管理者の委託を受けて、広域処理場を構成する廃棄物埋立護岸の建設・改良、維持・管理、廃棄物の海面埋立による土地造成を行い、地方公共団体の委託を受けて、一般廃棄物の最終処分場、一定の産業廃棄物の最終処分場の建設・改良、維持・その他の管理、当該施設における一般廃棄物および一定の産業廃棄物による海面埋立ならびに搬入施設塔の建設・改良、維持・その他の管理を行い、さらに地方公共団体の委託を受けないで、一般の事業者が処理責任を負っている産業廃棄物にかかる最終処分場の建設・改良、維持・その他の管理、当該施設における産業廃棄物による海面埋立を行う。
5.4 自然環境保全法
 「自然環境保全法(昭和47年法律85号)」は、自然公園法その他の自然環境の保全を目的とする法律とあいまって、自然環境を保全することが特に必要な区域等の自然環境の適正な保全を総合的に推進することにより、広く国民が自然環境の恵沢を享受するとともに、将来の国民にこれを継承できるようにすることを目的とする法律である。
 この法律に従って国は「自然環境保全基本方針」を定める(12条)。原生自然環境保全地域においては、建築物その他の工作物の新・改築等、宅地造成等、鉱物の掘採等、水面の埋立等の政令で定める自然環境保全に影響を及ぼす行為が原則として禁じられる(17条1項)。環境庁長官は、17条違反行為に対する中止、原状回復命令を出すことができ(18条1項)、立ち入り制限地区の指定ができる(19条)。
 「自然公園法(昭和32年法律161号)」は、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることを目的とする法律である。国立公園、国定公園、都道府県自然公園等について定める。民有地を含めて公園区域の指定をし(10条、11条)、保護及び利用のための公園計画を定め(12条、13条)、それに基づいて公園事業が行われる(14条〜16条)。公園計画はさらに規制計画と施設計画に別れる。特別保護地区(18条)、海中公園地区(18条の2)、第1種から第3種までの特別地域(17条)、普通地域に分けて、それぞれの地域に対応した保護、および行為規制が行われる。
5.5 水質汚濁防止法
 「水質汚濁防止法(昭和45年法律138号)」は、工場および事業場から公共用水域に排出される水の排出および地下に浸透する水の浸透を規制し、生活排水対策の実施を推進すること等によって、公共用水域および地下水の水質の汚濁の防止を図り、工場および事業場から排出される汚水および排水に関する人の健康被害が生じた場合の事業者の損害賠償責任について定める法律である。公共用水域とは河川、湖沼、港湾、沿岸海域その他公共の用に供される水域およびこれに接続する公共溝渠、灌漑用水路その他の公共の用に供される水路(下水道を除く)である。
 排水基準(3条)、総量削減基本方針(4条の2)、総量削減計画(4条の3)、総量規制基準(4条の5)、特定施設の設置の届出(5条)、計画変更命令等(8条)、排出水の排水の制限(12条)、総量規制基準の遵守義務(12条の2)、特定地下浸透水の浸透の制限(12条の3)、改善命令等(13条)の手段によって排出水の排水の規制が行われる。
5.6 瀬戸内海環境保全特別措置法
 「瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年法律110号)」は、瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を推進するために、瀬戸内海の環境保全に関する計画の策定等に関し必要な事項を定め、特定施設の設置の規制、富栄養化による被害の発生の防止、自然海浜の保全等に関し特別の措置を講ずることを目的とする法律である。70年代の赤潮の多発を契機として、瀬戸内海の環境保全の重要性が認識され、昭和48年に瀬戸内海環境保全臨時措置法が制定された。昭和53年にそれが特別措置法として恒久法化された。
 政府が瀬戸内海環境保全基本計画を策定し(3条)、それに基づいて府県計画が策定される(4条)。水質汚濁防止法の特定施設の設置と構造変更に許可制が取られ(5条〜11条)、富栄養化対策として指定物質削減指導方針が定められる(12条の4)。自然海浜の保全手段として自然海浜保全地区が指定され(12条の7)、地区内での行為の届出(12条の8)、埋立等について特別の配慮義務が関係府県知事に課されている(13条)。また、環境庁に瀬戸内海環境保全審議会が設置されている(23条)。
5.7 絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡規制に関する法律、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律、
 1980年ワシントン条約加盟との関係で、条約の国内における実施のために、日本は「絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律」を1987年に制定した。これは国内の固有種・依存種の保護よりは、国際的に絶滅に瀕した種の保護を目的とする取引規制の法律であった。
その後、1992年3月、ワシントン条約第8回締約国会議の京都開催が決まり、同年の地球サミットにおける生物多様性条約の採択が確実になったために、日本政府はそれにあわせて何らかの対策を示さざるを得なくなり、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」が1992年に制定された。
 この法律は、国内希少野生動植物種、特定国内希少野生動植物種の指定をして、捕獲、採取、殺傷、損傷を禁じ、生息地等保護区を指定することができる。生息地等保護区は管理地区と監視地区に分かれ水面埋立、土石採取、干拓、水位・水量の増減等を許可制にしている。
法制度としては一応このような整備がされたが、保護対象種の指定は進んでいない。また、生息地等保護区の指定も7箇所程度で、充分に行われていない。








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