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2. 海の管理制度の全体像
2.1 海の管理に関連する実定法制度の全体像
既に見たように、わが国の沿岸域管理は、
[1]計画法制による計画的管理(国土総合開発法、首都圏整備法、北海道開発法、離島振興法、小笠原諸島振興開発特別措置法、国土利用計画法、都市計画法、自然公園法等)
[2]海に関連する国土保全・公物管理実定法(国有財産法、海岸法、港湾法、港湾整備緊急措置法、港湾整備促進法、特定港湾施設整備特別措置法、漁港漁場整備法、河川法)、
[3]海に関連する人間活動を規制する行為規制法
i)水産関係として、水産基本法、漁業法、海洋生物資源の保存および管理に関する法律、沿岸漁業等振興法、水産資源保護法、海洋水産資源開発促進法、漁船法、日韓大陸棚共同開発協定特別措置法、
ii)鉱業関係として、鉱業法、鉱山保安法、石油および可燃性天然ガス資源開発法、石油備蓄法、石油パイプライン事業法、鉱業等に係る土地利用の調整手続に関する法律、砕石法、砂利採取法、深海底鉱業暫定措置法
iii)海上交通関係として、海上運送法、内航海運業法、港湾運送事業法、国際海上物品運送法、船舶法、船舶安全法、船舶職員法、船員法、海上交通安全法、航路標識法、港則法、海上衝突予防法、海難審判法、水難救護法、水先法、水路業務法、
iv)通信関係として、電波法、航海に関する条約の実施に伴う海底電線等の損壊行為の処罰に関する法律、
v)空間利用関係として、公有水面埋立法、都市計画法、都市公園法、農業振興地域の整備に関する法律、工場立地法、石油コンビナート等災害防止法、
vi)エネルギー利用関係として、石油備蓄法、電気事業法、電源開発促進法、発電用施設周辺地域整備法、核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律、消防法
vii)廃棄物処理関連として、廃棄物の処理および清掃に関する法律、広域臨海環境整備センター法、
viii)環境保全関連として、環境基本法、環境影響評価法、自然環境保全法、自然公園法、海洋汚染防止および海上災害の防止に関する法律、水質汚濁防止法、瀬戸内海環境保全特別措置法、
等々によることを原則とし、
[4]そのような実定法が存在しない場合には、海が国有であることから、国の所有権に基づく管理(国有財産法)が行われる。
2.2 海の管理と国有の意義
 しかし、これまで、海の国有性の意味はかならずしも明確にされてきていない。国有財産法上の行政財産として、所管官庁が海を管理してきた方法はまちまちである。漁業免許、公有水面埋立に関しては、国有財産としての使用料は徴収しておらず、国有財産法上の払下げ、貸し付け手続もとられていない。旧建設省は、法定外公共用物(実定公物管理法の適用を受けない公共用物)である海は建設省所管の国有財産であるとの前提の下で、「建設省所管国有財産取扱規則」(昭和30年建設省令1号)に基づき、都道府県知事の機関委任事務として、知事が規則を策定して管理するものと理解していた。これに対して、旧自治省は、機関委任事務となすためには、旧地方自治法184条1項2号により、法律または政令による根拠が必要であるのに対して、訓令に基づく事務委任は機関委任事務の根拠とならないとの認識もあり、原則論に立ち返って、海域は地方公共団体の自治権の内容としての一般管理権に基づいて、地方公共団体が公共事務として条例によって管理すべきものと考えていた。地方公共団体の対応も、建設省の考えに従うもの、自治省の考えに従うもの、一切の対応をしないもの等まちまちであった。
 以上が意味するところは、わが国においては、従来、国有と観念される海について、国有財産としての管理をいかになすべきかの統一的考えがなく、問題が起きるのに対応して、個別に管理が試みられてきたということである。具体的には、新たな問題に対応して、実定公物管理法や行為規制政法が立法され、それぞれの適用海域で、当該実定法による個別管理が行われてきたということである。
2.3 個別管理と総合的管理
 個別の実定法や計画制度にはそれぞれの対象毎の政策理念や管理の理念が定められているが、全体を統合する上位規範、ないしは規範相互の矛盾を調整する上位規範が存在していない。公有水面埋立法の水面に関し権利を有する者の同意制度(4条3項、5条)のように、部分的には異なる実定法制度を調整する法規定は存在するが、すべての場合にそのような規定が存在するわけではないし、実定法による規制の対象となっていない、国有財産としての海の管理部分では、そのような調整のルールも形式上は存在しない。
 海は陸上での活動の影響を大きく受けるが、陸の活動が海に及ぼす影響を直接問題とする法制度は存在しない。陸と海を一体的に捉え、管理する制度は、海岸法の海岸保全区域制度と一般公共海岸制度とがあるが、これらの制度は機能的な限界を有しており、沿岸域全体の管理には充分な制度とはなっていない。
2.4 沿岸域と計画制度
2.4.1 計画法の体系
 国土総合開発法(昭和25年法律第205号)は、法的な裏付けを持った開発行政の出発点となった法律である。同法の下で国土総合開発計画が策定される。国土総合開発計画は、全国総合開発計画、都府県総合開発計画、地方総合開発計画、特定地域総合開発計画の4計画を総合する名称である。法定計画としての都府県総合開発計画と地方総合開発計画は策定されていない。全国総合開発計画も法律が制定されてから12年後の昭和37年に初めて制定された。しかし、その後昭和49年には新全国総合開発計画、昭和52年には第三次全国総合開発計画、昭和62年には第4次全国総合開発計画、平成10年には第5次全国総合開発計画が制定された。第5次全国総合開発計画においては、それまでの一極一軸型の国土構造から多軸型の国土構造への転換を長期構想とする「21世紀の国土のグランドデザイン」が提示された。
 国土利用計画法(昭和49年法律92号)は、国土の利用に関する全国計画、都道府県計画、市町村計画の制度を設け、都道府県知事は全国計画と都道府県計画を基本として土地利用基本計画を定める。土地利用基本計画は、都市地域、農業地域、森林地域、自然公園地域、自然保全地域の5地域を定め、この計画に即して、適切かつ合理的な土地利用が図られるように、公害防止、自然環境・農林地の保全、歴史的風土の保存、治山、治水等に配慮しつつ、土地利用の規制に関する措置、その他の措置を講ずるものとされる。しかし、この土地利用基本計画の5地域は特段の規制的な意味をもたず、都市計画法、農業振興地域の整備に関する法律、森林法、自然公園法、自然環境保全法の既存の地域制度を利用するにとどまる。この法律の制定にあわせて国土庁が設置された。
 北海道、首都圏、近畿圏、中部圏、東北地方、北陸地方、中国地方、四国地方、九州地方、沖縄の各ブロックについて、それぞれ北海道開発法、首都圏・近畿圏・中部圏整備法、東北から九州までの各地方についての開発促進法、沖縄については振興開発特別措置法が定められ、ブロック毎の開発計画が策定されている。
 北海道開発法(昭和25年法律126号)による北海道総合開発計画は、国が樹立する計画で、その行政組織として北海道開発庁が置かれている。現在第5期計画が決定されている。北海道は明治以降の歴史的経緯により、特別な開発対象地域として位置づけられ、国土総合開発法の制定と同時期に、法律による特別の位置づけを与えられた。
 大都市圏計画として、首都圏、近畿圏、中部圏の整備計画が存在する。この3ブロックの整備計画は、首都圏においては基本計画、整備計画、事業計画の3計画からなり、既成市街地、近郊整備地帯、都市開発区域、近郊整備地帯内における近郊緑地保全区域といった細かな区域区分が行われている。近郊整備地帯と都市開発区域については「首都圏の近郊整備地帯及び都市開発区域の整備に関する法律(昭和33年法律98号)」によるそれぞれの整備計画が定められている。他方で、「首都圏の既成市街地における工業等の制限に関する法律(昭和34年法律17号)」で、既成市街地では一定規模以上の工場や学校の新増設が制限されていることに対応して、近郊整備地帯及び都市開発区域内では、整備計画によって工業団地造成事業に関する都市計画が定められることになっている。近畿圏整備計画は、基本整備計画と事業計画の2段階構成であること、中部圏整備計画は基本開発整備計画と事業計画の2段階構成であること等、若干の相違はあるが、大都市圏整備計画はいずれも東北から九州までの他の5ブロックの整備計画とは異なる複雑な体系になっている。なお、「首都圏、近畿圏及び中部圏の近郊整備地帯等の整備のための国の財政上の特別措置に関する法律」があり、近郊整備地帯や都市開発区域において計画に基づいて行われる公共事業について、地方債の特例と国の負担金・補助金の特例規定をしている。
 沖縄振興開発特別措置法(昭和47年法律185号)は、昭和47年の沖縄の本土復帰に伴って、経済・社会の各分野における沖縄と本土との格差是正を目的として制定された。同法によって沖縄開発庁が設置され、沖縄振興開発計画を策定し、実施に関する事務を推進し、実施に関する行政機関の事務の総合調整を行っている。
 
2.4.2 計画の実態
 先に見たように、実定法と同様、沿岸域に関する計画が多様な形で存在しており、陸上の国土総合開発計画制度や、国土利用計画制度のように、計画制度が法定され、体系化されたものになっていない。
 国土利用計画においては、沿岸域の利用の長期方向が定められている。第5次全国総合開発計画である「21世紀の国土のグランドデザイン」(平成10年3月31日閣議決定)で、沿岸域圏を自然の系として適切に捉え、地方公共団体が主体となり沿岸域圏の総合的な管理計画を策定することとされており、国は計画策定の指針を明らかにすることとされている。これを受けて、平成12年2月23日、「沿岸域総合管理計画策定のための指針」が策定されている。これによれば、全国48区分の沿岸域圏に関し、良好な環境の形成、安全の確保、多面的な利用に関する10年を目安とする期間の基本方針を定めるマスタープランとしての沿岸域総合管理計画が、関係地方公共団体(都道府県及び政令指定都市等)を中心に、他の行政機関、企業、地域住民、NPO等の多様な関係者の代表者を構成員とする沿岸域圏総合管理協議会によって策定され、それを関係地方公共団体の長が認定し、その円滑かつ確実な実施について指示することが想定されている。
 沿岸域の中でも利用の密度の高い東京湾、大阪湾、伊勢湾に関しては、首都圏基本計画、近畿圏基本整備計画、中部圏基本開発整備計画が沿岸域の総合的な利用と保全の方策を示している。
 国土交通省河川局に設置された沿岸域管理研究会(平成13年6月)提言では、国として沿岸域の管理のあるべき基本方針を策定し、各地域で、都道府県を基本とする地方公共団体が、関係する市町村・都道府県と連携しながら、自然の区分を一定の系として、国が策定する基本方針に基づき手各地域における総合的な基本計画を策定することが必要との提言をなしている。
 海岸法は主務大臣及び都道府県知事が海岸保全区域等にかかる海岸の保全に関する海岸保全基本方針、海岸保全基本計画の制度を定める。
 都道府県レベルで、海域利用に関する基本的な計画・構想を策定するところは多い。その一つの系は、昭和63年3月、建設技術開発会議海洋開発部会が「沿岸域の総合的な利用方策について」を提言し、そこで「沿岸域総合利用指針」を策定すべきとの提言が行われたことを前提に、都道府県のいくつかが策定したものである7。具体的には、仙台湾沿岸域総合利用指針(平成元年3月)、島根沿岸域の総合利用指針(平成元年3月)、日向灘沿岸域総合利用指針、(平成元年3月)、若狭湾沿岸域総合利用の指針(平成2年3月)、東京湾沿岸域総合利用指針(平成2年4月)、駿河湾沿岸域総合利用指針(平成2年9月)、高知県沿岸域総合離床指針(平成3年3月)、新潟沿岸域の総合保全利用指針(平成3年3月)、茨城県沿岸域保全利用指針(平成3年3月)、京都府沿岸域保全利用指針(平成4年3月)、長門沿岸域保全利用指針(平成4年3月)、陸奥湾岸保全利用の指針(平成4年3月)等である8
 その他の地方公共団体の沿岸域関連の構想・計画としては、長崎県海洋利用基本構想、その下の大村湾海域利用構想、山形県沿岸域総合利用構想、福島県沿岸域総合利用構想、富山21世紀海ビジョン、鹿児島ウォーターフロントプラン、その下での錦江湾ウォーターフロント整備基本構想等々がある。
 都道府県レベルで、環境基本計画を策定し、それに関連して海域環境の保全を取り上げるものも多い9
 下水道法は都道府県が流域別下水道整備総合計画を定めることとしており、沿岸域の水質保全にかかわる事項を定める。
 港湾法は、港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本指針(大臣)の下で、重要港湾については港湾計画を定めることとしている。水産基本法は水産に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために、政府が水産基本計画を策定することを定めている(11条)。水産資源保護法は保護水面の管理計画制度を設け、都道府県知事が保護水面における水産動植物の採捕の制限・禁止をすることを定める。 TAC法(海洋生物資源の保存及び管理に関する法律)は資源動向、TACの基本事項について大臣が基本計画を定め(3条)、その下で都道府県が都道府県計画を策定する(4条)こととしている。
2.5 管理主体
2.5.1 自治体の区域と海
 国の管理する部分と地方公共団体の管理する部分の区別が、さまざまな意味で明確ではない。そもそも、自治体の区域が海域に及ぶかについて明治憲法時代からの議論の対立があった。戦後、昭和36年の地方自治法改正によって、公有水面と埋立地と市町村の区域に新たに生じた土地について、境界変更や所属の確認をなす規定(旧規定9条の3、9条の4、9条の5)が設けられ、その後は海域が地方公共団体の区域に属することは立法的に明白となったと解されている。
 
2.5.2 改正地方自治法、改正海岸法の考え方
 なお、近年、海岸法の改正、地方自治法の改正等があり、ここ数年の制度変化が激しいので、全体を再整理しておく。
 
1)機関委任事務の廃止と法定外公共用物の管理
 まず、地方自治法の改正により機関委任事務は廃止されたが、それに代わって「法律またはこれに基づく政令により都道府県、市町村または特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来なすべき役割にかかるものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして、法律またはこれに基づく政令に特に定めるもの」は、第1号法定受託事務とされた(2条9項)。国有財産法についてみれば、9条3項は「国有財産に関する事務の一部は、政令で定めるところにより都道府県または市町村が行うことができる」と定めており、9条3項により都道府県または市町村が行うこととされる事務は、第一号法定受託事務とされている(9条4項)。法定外公共用物としての海についての旧建設省の見解は、今日でも海に関しては、第一号法定受託事務として地方公共団体が海を管理すべきという形で生きることとなる。
 
2)海岸法改正による新たな海岸管理
 新海岸法は、海岸保全区域に加えて、これまで海岸法の対象となっていなかった公共海岸全体を一般公共海岸区域として管理対象とした。これによって、国有海浜地全体の適正な管理を推進する体制が整備され、事務区分として海岸法7条の海岸保全区域の占用許可、8条の海岸保全区域における行為制限にかかる許可、一般公共海岸区域の占用許可、行為の制限にかかる許可等は第一号法定受託事務からはずされ、自治事務とされた(40条の4)。海岸については地方公共団体の管理主体性が実定法上で明らかになった。
 しかし、海岸法の適用を受けない沿岸域の海域に関しては法定外公共用物が残っており、それに関する海の管理主体については、既に見たような旧建設省と自治省との見解の対立が未だに解消していない。法定外公共用物である海の部分を管理する実定法が制定されれば問題は解決するが、それがない場合には、唯一の公的管理の手がかりとしての財産管理の主体性と、問題となっている海域の性格にふさわしい管理主体の合理的判断の総合的考慮が必要である状況は依然として変わらない。後者については、改正地方自治法は海の管理を直接念頭に置くものではないが、海が地方公共団体の区域として観念される以上、同法で示された国と地方公共団体の役割分担の理念を無視することはできない。
 地方自治法1条の2第2項は、国においては「国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点にたって行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に行う」こととし、「住民に身近な行政はできるだけ地方公共団体に委ねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定および市策の実施にあたって、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」と定める。
 この規定による国と地方公共団体との役割分担の理念と、国有財産管理に関する法定受託事務との関係をどのように解すべきであろうか。
 沿岸域の住民とのかかわりの強さとを考えると、旧自治省の指摘するように、海域は地方公共団体の自治権の内容としての一般管理権に基づいて、地方公共団体が管理すべきものという側面が、新地方自治法の下ではよりいっそう強調される可能性も高い。沿岸域における海の利用については、まさに「住民に身近な行政の対象」であることも明白な事実であり、自治法改正以前から有力に主張されたように、「法定外公共用物の管理は、その利用及び管理の地域密着性に鑑み、財産的帰属とは別に」その管理を考えるべきという整理は10、改正地方自治法の下ではよりいっそう強調される可能性がある。
 しかし、法定外公共用物である海について、国有財産法による管理を前提とするならば、本来、地方公共団体が所有しない海面、海底等の物としての管理――その物の使用を他人に許可したり、制限したりする公物の機能管理――は、第一号法定受託事務であり、実定公物管理法が自治事務としない限りは、地方公共団体が自治事務としてその管理を積極的に行うことはできないとの結論が導かれることとなる。
 法定外公共用物としての海に関して、その管理を地方公共団体が条例を策定して行えるか、第一号法定受託事務の範囲で行うかの問題は、今日でも依然として解決していないのである。








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