VIII−2. 沿岸域の総合管理 ―法制度の側面から―
横浜国立大学大学院 国際社会科学研究科 来生 新
[サマリー]
はじめに
本稿の目的は、わが国の沿岸域管理がこれまで個別的な管理であったこととの関係で、それを超える総合的管理が必要かどうか、それが現行の個別的帰納的なアプローチに勝るものでありうるかを検討するための基礎作業を行うことである。総合的管理の必要性を判断するためには、現在の個別アプローチの総体を把握し、その管理の機能的な限界の認識と評価をする必要がある。本稿は、多岐にわたる現行の沿岸域管理の法制度の総体を把握することを試みるものである。
本稿の構成は以下のとおり。全体に現行制度の紹介をしている。
1. |
海の所有関係 |
1.1 |
海の国有と私有 |
1.1.1 |
海の所有権 |
1.1.2 |
沿岸域の陸地部分の所有権 |
1.2 |
自然公物の自由使用原則 |
2. |
海の管理制度の全体像 |
2.1 |
海の管理に関する実定法制度の全体像 |
2.2 |
海の管理と国有の意義 |
2.3 |
個別管理と総合的管理 |
2.4 |
沿岸域と計画制度 |
2.4.1 |
計画法の体系 |
2.4.2 |
計画の実態 |
2.5 |
管理主体 |
2.5.1 |
自治体の区域と海 |
2.5.2 |
改正地方自治法,改正海岸法の考え方 |
1) |
機関委任事務の廃止と法定外公共用物の管理 |
2) |
海岸改正法による新たな海岸管理 |
3. |
公物管理実定法 |
3.1 |
海岸法 |
3.2 |
港湾法,漁港法(漁港漁場整備法) |
3.3 |
河川法 |
3.4 |
公有水面埋立法 |
4. |
事業活動規制法 |
4.1 |
漁業法 |
4.2 |
鉱業・エネルギー関係法 |
4.3 |
海上交通関係法 |
4.4 |
船舶・海上構築物関係法 |
5. |
環境保全法 |
5.1 |
環境基本法 |
5.2 |
海上汚染および海上災害の防止に関する法律 |
5.3 |
広域臨海環境整備センター法 |
5.4 |
自然環境保全法 |
5.5 |
水質汚濁防止法 |
5.6 |
瀬戸内海環境保全特別措置法 |
5.7 |
絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡規制に関する法律,絶滅のおそれのある野生動植物の保存に関する法律 |
6. |
神奈川県における沿岸域に関する地方計画 |
6.1 |
県の計画体系 |
6.2 |
沿岸域関連の計画:個別計画の名称および概要 |
6.2.1 |
総合計画21「III環境との共生をめざして」にかかわる計画 |
1) |
神奈川県環境基本計画 |
2) |
かながわ新みどり計画 |
6.2.2 |
総合計画21「IV安全で魅力ある都市をめざして」にかかわる計画 |
1) |
かながわ都市マスタープラン |
2) |
神奈川県地域防災計画 |
3) |
湘南なぎさプラン |
4) |
いきいき末来相模川プラン |
6.2.3 |
総合計画21「V活力ある地域経済をめざして」にかかわる計画 |
1) |
かながわ農業生活活性化計画 |
2) |
かながわ海業推進計画 |
7. |
今後の検討課題 |
海に関連する実定法制度は非常に多く、その整理も筆者のこれまでの研究の蓄積状況との関係で精粗まちまちに終わらざるをえなかった。今後の検討課題は、計画制度、実定法制度を含めて、各制度についての研究密度を同質にし、それを何らかの軸で統一的に整理して、各種の法制度と計画制度の関連、抵触等が認識できるマトリックスを作成し、現行管理制度の機能の限界について具体的な判断が可能なような整理を施すことである。整理の軸をどうするかも今後の検討課題である。