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3.3.2 沿岸域の「防護・防災関連施設」における生態配慮・景観形成の必要性
 海岸防護施設・防災関連施設の整備・配置にあっては、「生態系への配慮」とともに、当該空間の環境への理解を促すひとつの手立てとなる「景観形成」の両者の視点を満足させる必要がある。
 
【解説】
 海岸線に隣接する地域は、海域という過酷な自然空間と対峙することから、海岸から押し寄せる自然の外力から当該地域を守るために、海岸線周辺には多種多様な海岸防護施設・防災関連施設が配置されている。
 しかし、そうした構造物が設置される浅場や砂浜といった海岸空間においては、生物多様性を促す貴重な空間であると同時に、海岸特有の自然的景観が備わる場合が多いため、海岸防護施設・防災関連施設の整備・配置の仕方如何によっては、自然的景観に大きな悪影響を与えることもある1)。
 よって、海岸防護施設・防災関連施設の整備・配置にあっては、「生態系への配慮」とともに2)、当該空間の環境への理解を促すひとつの手立てとなる「景観形成」の両者の視点を満足させる必要がある3)。
 
【根拠】
1) 図3−1は、現代の若者が抱く海浜の心象風景を把握するために実施した調査結果の一例(スケッチ例)である。この調査は、現在の大学生に、今までに見た日本の海浜の中で「深く印象に残り」「繰り返し想い起こされる風景」を自らスケッチしてもらうというものである。
 およそ200人の大学生が描いたスケッチの中で、約7割は砂浜・汀線・磯・岬などの自然景観要素であったが、残りの3割はコンクリートが露呈した突堤や道路という人工景観要素で占められていた。つまり、スケッチ例(図3−1)からわかるように、たとえば砂浜・汀線という自然景観要素は、本来その端部が岬や磯などで終結するはずが、スケッチではその部分が「突堤」という人工物(海岸構造物)に変容してしまっている。
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図3−1 大学生の心象風景として描写された海浜*1
 このように現代の海浜の心象風景は、砂浜と松原が一体となった「白砂青松」や汀線が延々と続いて浦が湾曲する「長汀曲浦」という、和歌や名所図会などを通してこれまでに継承されてきた我が国の海浜の心象風景(図3−2)とは、大きく異なることに気付かされる。
 以上のことは、沿岸域の防災事業で用いられる海岸防護施設・防災関連施設の影響によって、これまで受け継がれてきた海浜の風情が次第に失われつつある状況を浮き彫りにしているのである。
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(吹上げの浜:淡路国名所図会より)
図3−2 古来より愛でられてきた我が国の伝統的な海浜景観
 
2) 砂浜は「環境基盤」とも呼ばれるように生物多様性を促し、また「消波効果」を有することも知られるようになった*2
 このようなことから海岸防護形式は、かつての防波堤・突堤等の線的な単体構造物で防護を行う線的防護方式から、近年では砂浜とそれを安定させる海岸防護施設を複合化することで「環境創造」と「防災」の両者の機能を満たした「面的防護方式」が主流になってきた。
 また、海岸防護施設においても、従来のコンクリートを剥き出しにした形態から、近年では構造体の上部(天端)に土破や植栽を施したり、接水部に自然石を積み上げることなどにより、生物生息場を創造する手法も見られはじめている(図3−3、3−4)。こうした手立てにおいて空間の質的充実をどのようにするかは今後の課題となろうが、生物生息場を量的に拡大する海岸防護整備・デザインのあり方のひとつとして、以上のような砂浜造成事業や構造物の緑化等は促進すべき手法といえる。
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図3−3 植栽が施された離岸堤
 
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図3−4 植栽が施された突堤
 








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