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VIII. 沿岸域の総合管理
VIII−1. 沿岸域管理の必要性と実現化のための提言
日本大学理工学部海洋建築工学科  横内 憲久  岡田 智秀
[サマリー]
 我が国は、その地勢・地形上山地や丘陵地が多く、可住面積が国土の2〜3割程度といわれ、そのほとんどが沿岸域にある。また、人口の約半数がこの沿岸域に居住し、生産・業務・商業・レクリエーションなどの社会経済活動の基盤ともなっており、約3万5,000kmの海岸線を有する沿岸域の環境は、沿岸域ばかりでなく、海域を含めた我が国全体の環境を左右するきわめて重要な空間である。そのため、沿岸域の活用・保全等にあたっては、21世紀の我が国の沿岸域のあり方を早急に定め、官民一体となって計画的に管理(マネージメント)を行い、沿岸域を持続的に利用・保全しなければならない時期にきている。
 このような沿岸域管理の要請に対して、ここ数年、国や自治体をはじめ、いくつかの学協会(機関)等では、そのあり方などを検討しており、徐々にではあるが要請に応えるべくその機運は高まってきているといえよう。しかし、これらの多くは、沿岸域管理の枠組みや制度(管理システム)等の検討に特化しており、現状から一歩踏み込んだ具体的展開にまでは至っていないといわざるを得ない。
 そこで、ここでは、これまで諸機関で検討された沿岸域管理のあり方等を踏まえ、「沿岸域管理とその課題」、「沿岸域管理の概要」などを整理して、沿岸域管理および沿岸域管理計画の必要性やその内容等を概観するとともに、いくつかの沿岸域管理に関わる具体的な提言を試みることとした。
 これまでに検討された沿岸域管理に関わる課題としては、「沿岸域管理によって現出する空間の具体的イメージの欠如」、「沿岸域管理の達成手段の不明さ」、「既存管理制度等とのコンフリクト(競合)」の3つを示している。また、これらの課題に対する具体的解決策のひとつとしての「沿岸域管理の実現化のための提言」では、「環境」、「景観」、「漁業権および漁業補償」に関する9つの提言を著している。
 人間を含めた生態系の生活基盤を保全すべく「環境に関する提言」では、「環境PFI」および「ミチゲーション」を、環境管理に対する国民的コンセンサスを促すべく「景観」については、「心象風景」や「人と建築物と海景」を、さらに、沿岸域の多目的利用(利用調整)を促進させるための「漁業権および漁業補償」については、「新たな漁業権区域」と「事後逐次保証」を中心として、その提言の根拠性を示しながら述べている。
 これらの提言を実行に移すためには、各専門分野からのさらなる詳細な検討を行う必要があるが、沿岸域管理により具体性を持たせるための意義性は有していると認識するものである。








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