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3. 水産資源の総合管理制度の現状
 前章では、わが国の水産資源の総合管理にかかわる諸制度の江戸時代以降の変遷の経緯について検討を加えた。本章では、現在、わが国の水産資源の総合管理手段となっている主要な法制度の概要を検討することとしよう。
3.1 水産基本法
3.1.1 法律の概要
 水産基本法はわが国の水産政策の基本理念を「水産物の安定的供給の確保」と「水産業の健全な発展」という二つの基本理念として示した(2条、3条)。
 水産物の安定供給の確保という理念については、[1]海洋法に関する国連条約の的確な実施を旨として水産資源の適切な保全及び管理が行われるとともに、環境との調和に配慮しつつ、水産動植物の増養殖を推進すること、[2]世界の水産物の受給及び貿易の不安定要素の存在に鑑み、水産資源の持続的な利用を確保しつつ、わが国の漁業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入とを適切に組み合わせることという基本方針が示された。
 水産業の健全な発展という理念に関しては、[1]水産資源を持続的に利用しつつ、高度化し、多様化する国民ニーズに即した漁業生産、加工、流通がおこなわれるよう、効率的かつ安定的な漁業経営が育成されること、漁業、水産加工業、水産流通業の連携が確保されること、漁港、漁場その他の基盤が整備されること、[2]漁村が地域住民の生活の場として水産業の健全な発展の基盤となっていることに鑑みて、生活環境の整備その他福祉の向上によって、その振興が図られることという基本方針が示された。
 またこれらの基本理念を関係者全体の取り組みを通じて達成するという考え方に立ち、同法は、国及び地方公共団体の責務を定め、水産業業者の努力義務について規定するのみならず、漁業者以外の者で水産動植物の採捕やこれに関連する活動を行う者(遊漁者や遊漁船業者等)の政策実施への協力義務、消費者の役割等についても規定する(4〜8条)。
 二つの基本理念にそれぞれ対応して、基本法は基本的施策について規定する。
 水産物の安定供給の確保に関する基本的施策として、以下のことが定められた。
[1]食糧である水産物の安定供給の確保を食糧・農業・農村基本法と水産基本法が一体となって行うこと、
[2]排他的経済水域等における水産資源の適切な保存と管理を、最大持続生産量を実現しうる水準での資源維持または回復を目的として、漁獲量及び漁獲努力量管理等を行うこと、ただしそれが漁業経営に著しい影響を及ぼす場合で必要があると認める場合は緩和措置を講ずること、
[3]排他的経済水域以外の水域における水産資源の適切な管理及び保存を、国際的な協力、わが国漁業の指導・監督等で行うこと、
[4]水産資源の適切な保存管理に資するための調査、研究を行うこと、
[5]種苗の生産放流の推進、養殖漁場の改善促進等を行うこと、
[6]水質保全、繁殖地の保護整備等を行うこと、
[7]排他的経済水域以外の水域に関し、操業に関する外国との協議、水産資源の探査等を行うこと、
[8]水産物の輸出入について、国内生産による需要充足ができないものの輸入確保、特に必要がある場合の輸入制限・関税率調整、輸出促進のための競争力の強化等を行うこと、
[9]開発途上地域における水産業の振興等に関する技術・資金協力等国際協力を推進すること(12〜20条)。
 また、水産業の健全な発展に関する基本的施策として、[1]漁業に関して、i)効率的かつ安定的な漁業経営の育成を、経営合理化に資する条件整備、漁船その他の施設の整備の促進、事業の共同化の推進等によって行うこと、ii)漁場利用の合理化を促進すること、iii)人材育成及び確保を行うこと、iv)漁業災害による損失の補填、水産物価格の著しい変動緩和等を行うこと、[2]水産加工・流通業に関して、事業基盤強化、漁業との連携促進、流通合理化等で健全な発展を図ること、[3]水産業に共通する施策としてi)漁港整備、漁場の整備開発等基盤整備を行うこと、ii)技術開発及び普及を図ること、iii)女性の水産業への参画を促進すること、iv)高齢者の活動を促進すること、[4]漁村に関して、i)総合的な振興を図ること、ii)ゆとりある生活のために都市と漁村の交流を図り、遊漁船業の適正化を測ること、iii)国民生活や国民経済の安定に果たす水産業及び漁村の多様な役割について、国民の理解と関心を深めるために、多面的な情報の提供や必要な施策を講ずることが定められた(21条〜32条)。
 
3.1.2 水産基本計画
 基本理念を実現するために、政府は、[1]水産に関する施策についての基本的な指針、[2]水産物の自給率の目標、[3]水産に関し政府が総合的活計画的に講ずべき施策、[4]その他水産に関する施策を総合的活計画的に推進するために必要な事項を、水産政策審議会の意見を聴いて定め、国会への報告をする水産基本計画制度を設けた(11条)。この計画はおおむね5年ごとに変更することを予定するものである。
 現在水産政策審議会での検討が進行中であり、その答申を経て平成13年度中に、第一次の水産基本計画が策定される予定となっている。
3.2 漁業法
3.2.1 漁業法の概要
 漁業法は、漁業権、入漁権、許可漁業、漁業調整、採捕制限等について定め、それによって漁獲努力量を減少させることにより、資源の総合管理に一定の役割を果たす機能をはたしている。
 
1)漁業権
 漁業権は、知事の免許によって設定される(10条)、特定の水面において特定の漁業を独占的に営み、利益を享受する権利である(6条、23条)。特定の漁業を独占的に営み、その利益を犯すものに対抗しうる(返還請求権、妨害排除請求権、妨害予防請求権を行使しうる)権利であるという漁業権の性質は、23条が漁業権を物権とみなし、土地に関する規定を準用する旨を定めることによって導かれる。漁業法は定置(6条3項)、区画(6条4項)、共同(6条5項)の3種の漁業権を定める。
 漁業者は、業として、漁業権や指定漁業の許可に基づかなくとも、自由な漁業を営みうるが(自由漁業)、この種の漁業は物権的請求権によって独占的な利益享受を保証されていない点で、漁業権漁業とは異なり、他の海面利用との関係で行政庁による調整を期待しえない点で許可漁業と異なる。
 漁業法は、地元漁民に漁業権を優先的に与えて漁業を営ませるために、漁業免許の適格性を定め、その優先順位を定めている(14条〜19条)。
 漁業権を地元漁民に優先的に与える前提として、漁業法は知事に対して、その管轄する水面について「漁業上の総合利用を図り、漁業生産力を維持発展させるために」、いかに漁場を利用すべきかに関する計画である漁場計画を定めることを義務付けている(11条)。すなわち、知事は漁業権の内容たる漁業の免許をする必要があり、かつ、当該漁業の免許をしても漁業調整その他の公益に支障を及ぼさないと認める時に、海区漁業調整委員会の意見を聞いて、漁業種類、漁場の位置および区域、漁業時期その他免許の内容たるべき事項、免許予定日、申請期間ならびに定置漁業および区画漁業についてはその地元地区、共同漁業についてはその関係地区を定めることが義務付けられている。これによって漁業権の対象となる漁業の種類が定められる。
 その上で漁業権の種類ごとに免許を受けるものの適格性と、免許申請が競合した場合の優先順位についての定めがある。
 定置および区画漁業権についての適格性要件は、海区漁業調整委員会における投票の結果、総委員数の3分の2以上によって、
[1]漁業または労働に関する法令を遵守する精神を著しく欠き、または漁村の民主化を阻害するものであると認められた者であること
[2]どんな名目によるのであれ、上記[1]の規定によって適格性を有しないものによって、実質上その申請にかかる漁業の経営が支配されるおそれがあると認められた者であること
という要件のいずれにも該当しないと認められた者とされている。
 共同漁業権は、漁場計画に定める関係地区の全部または一部をその地区内に含む漁業協同組合またはその漁業共同組合を会員とする連合会であって、一定の要件を満たすもののみに与えられる。
 また、定置漁業および区画漁業の免許は経営者免許であり、漁業者または漁業従事者が第一優先順位を有する。さらに、定置漁業件については、地元地区の全部または一部をその地区内に含み、地元組合員世帯数の地元漁民の世帯数に占める割合が高い等の、一定の条件を有する漁業協同組合は、これらの優先順位付けにかかわらず、第一優先順位となる(16条)。また、定置漁業権について、株式会社は組合自営や漁業生産組合等よりも後順位とされ、区画漁業権についても個人である漁民優先とされている(17条2項1号)。なお平成13年の漁業法改正によって、定置漁業の免許の優先順位における法人形態の追加がなされ、定款に株式譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めのある株式会社を、第一または第ニ優先の法人として追加した。
 このような漁業権の付与のシステムが、漁業に対する参入制限の機能をはたしていることは明らかであり、法人の漁業権獲得が後順位となっているために、漁業に大規模な資本の導入を難しくし、効率的な漁業経営の実現を妨げている側面がある。しかし、他方でこれによって漁獲努力量が削減、資源の総合管理には大きな意味を持ってもいる。
 一度与えられた漁業権は、定置漁業権5年、区画漁業権10年、共同漁業権10年の期間効力を有する。
 
2)許可漁業
 許可漁業は、大臣管理漁業と知事管理漁業に大別される。規模が大きく外国との取り決め等の関係から、全国統一の規制が必要な遠洋漁業や沖合漁業については大臣管理に委ねられ、指定漁業(漁業法52条、指定漁業を定める政令で16業種が指定されている)、承認漁業(漁業法65条、水産資源保護法4条、承認漁業等省令)として大臣の許可に委ねられている。これらの漁業よりも小規模な沖合漁業や沿岸漁業についても、動力漁船により運用漁具を使用する漁業等を中心に、都道府県知事の許可制がとられている。これには法定知事許可漁業(漁業法66条による4業種)と、一般知事許可漁業(漁業法65条、水産資源保護法4条)がある。
 許可漁業は漁業権漁業と異なり、排他的独占的な権利を与えられるものではなく、好漁場であればあるほど操業は競争的になる。許可の期限は5年である。昭和37年改正で、遠洋漁業許可の権利化により許可が高額で売買され、それが社会問題化したために、許可の承継は合併または相続等の一定の場合に限定された。
 これらの漁業については、競争的であるが故に、水産資源の水準に応じた漁獲努力量の管理(漁獲能力が過剰にならないように許可を実施すること)が非常に重要な意味を持つ。指定漁業については、58条1項が、水産動植物の繁殖保護、漁業調整その他の公益に支障を及ぼさない範囲で、指定漁業を営む者の数や経営等を勘案して、許可を与えるべき船舶の総トン数別隻数、総トン数、操業区域、操業期間別の隻数、許可等の認可申請期間を大臣が定め、あらかじめ公示することを義務付けている。
 許可の売買は一方で市場メカニズムを漁業の世界に導入することであり、漁業経営の合理化に資するところが大きい。TAC等による割当も、枠の売買を通じて市場メカニズムを働かせることができる。資源管理と市場メカニズムによる効率化の問題が大きな検討課題となる。
 
3)漁業調整
 漁業法65条は、大臣または知事が、漁業取締その他の調整のために、省令または規則を定めて、[1]水産動植物の採捕または処理に関する制限、禁止、[2]水産動植物若しくはその製品の販売または所持に関する制限、禁止、[3]漁具、漁船に関する制限、禁止、[4]漁業者の数、資格に関する制限を行うことができる旨を定める。
 この省令、規則が漁具、漁法、漁獲サイズ等のコントロールを通じて、水産資源の総合管理に重要な影響を及ぼす手段となっていることは明らかである。
 この調整を行う主体が海区漁業調整委員会である。戦後の漁業制度改革によって設けられた海区漁業調整委員会は、水面を総合的に利用し、もって漁業生産力を発展させ、合わせて漁業の民主化を図るために設けられた。おおむね漁業環境が同様と認められる面的広がりとして、都道府県の区域またはそれを分けた区域の地先水面をもって「海区」として定め、全国で66の海区漁業調整委員会と、35の連合海区調整委員会が設けられている。原則15人の委員で構成され、選挙によって選ばれた漁民委員9人、知事の選任する学識経験委員4人、知事の専任する公益代表委員2人で構成される。
 任務は、[1]知事の漁場計画についての諮問に対する答申、[2]知事の漁業免許に係る適格性、優先順位に関する諮問に対する答申、[3]漁業調整のために必要な水産動植物の採捕に関する制限等の指示(いわゆる委員会指示)の発動等であり、水産資源管理全体に大きな影響力をもつ組織であるといえる。
 
3.2.2 漁場計画
 漁場計画は既に見たように、漁業権設定の前提として必ず樹立されるべきものである。
 昭和24年に現行漁業法が制定される以前は、漁業権は先願主義による免許で設定されていた。免許は一定期間を限るものであるが、存続期間の更新制度によって、実質的には漁業権は永久に続くものとされていた。現行漁業法はこのような先願主義と更新制度を改めて、漁業権の設定を、漁場の利用方式についての調査研究と技術的検討を前提とする漁場計画制度と一体化させた。すなわち、現行漁業法11条は、漁業権を免許する必要があり、それが漁業調整その他の公益に影響を及ぼさない時には、都道府県知事に漁場計画を樹立し、漁業権を付与することを義務付けている。
 しかし、逆に、漁業権はこの要件を満たす限りで与えられるものであるので、後述のように、状況変化に伴い、いったん与えた漁業権を知事が自らのイニシィアティヴで消滅・変更させることも想定されている。
 先に見たように、漁業権免許に際しては漁場計画の樹立の過程で、「その他の公益に支障を及ぼさない」かどうかの判断が必要とされる。その意味では、漁業法も漁業の利益と他の公益とを比較考量する構造をもつ。しかしここでの「公益」は非常に限定的に解釈されている。漁業法39条に例示のある船舶の航行、停泊、繋留、水底電線の敷設のほか、土地収用法およびその特別法によって土地を収用し、使用することのできる事業の用に供する場合には、ここでいう「公益」に該当するが、地域開発による単なる工場誘致のための埋め立てであって、土地収用法の対象とならない事業等の用に供する場合には、ここでいう公益には該当しないとされる9
 さらに、公益上の理由がある場合には、両者抵触しないように原案を修正して漁場計画を樹立すべきであり、漁場計画を樹立しないとの判断を極力避けるべきとされる。とりわけ、従来から漁業権が設定されていた水面について、期間満了時に公益性の不当な拡大解釈をすべきではないとされる。
 しかし、漁業権が存続中でも、「漁業調整、船舶の航行、停泊、係留、水底電線の敷設その他公益上必要があると認めるときは、都道府県知事は、漁業権を変更し、取り消し、またはその行使の停止を命ずることができる」ものとされている(39条)。この場合には、都道府県はそれによって生じた通常生ずべき損失を補償することが義務付けられている(同条6項、7項)。さらに、それによって利益を受ける者がある場合には、都道府県はその者に対して補償金額の全部または一部の負担を命じうる(同条13項)。補償金額の算定は、「公共用地の取得に伴う閣議決定要綱」(昭和37年6月26日)に基づいて行われている。
 一方で、漁業権の変更、取り消し、行使の停止は、漁業内部の漁業調整上の必要から行われ、これは過剰努力量の削減手段として、指定漁業の許可の変更、取り消し、停止とならんで(63条1項により準用する39条)水産資源の総合管理上大きな意味を持つ行政手段となっている。また他方で、これは公有水面の埋立等に代表される海の陸地化、非漁業的利用との関係で、漁業補償問題を引き起こし、これも水産資源の総合管理に大きな影響をもつ。より大きな海の利用の観点からも注目される規定となっている。
3.3 海洋生物資源の保存および管理に関する法律
3.3.1 海洋生物資源の保存および管理に関する法律(TAC法)の概要
1)立法の趣旨と法目的
 平成8年、国連海洋法条約の発効に伴い、同条約上の義務を履行するためにTAC法が制定された。同法は水産基本法の制定に伴い平成13年に改正された。同法は、排他的経済水域内等10の海洋生物資源の保存・管理のために計画を策定し、漁獲量および漁獲努力量の管理ための所要の措置を講ずることによって、漁業法、水産資源保護法による措置と相まって、排他的経済水域等における海洋生物資源の保存および管理をはかり、海洋法条約の実施確保、漁業の発展、水産資源の供給の安定に資すること(1条)を目的とする。漁獲可能量を決定すること等によって保存および管理を行うことが適当である「特定海洋生物資源」については、沿岸漁業等振興審議会の意見を聴いた上で政令で定める(2条8項)。
 
2)基本計画
 農林水産大臣は、排他的経済水域における海洋生物資源の保存、管理のための、「海洋生物資源の保存および管理に関する基本計画」を策定する(3条)。また、都道府県知事は、基本計画に即して、都道府県計画を策定する(4条)。
基本計画の対象は以下のような事項である(3条)。
[1]海洋生物資源の保存および管理に関する基本方針、
[2]特定海洋生物資源ごとの動向に関する事項、
[3]排他的経済水域等において、漁獲可能量11を決定すること等により保存および管理を行うことが適当な海洋生物資源で、政令で定める第一種特定海洋生物資源ごとの漁獲可能量に関する事項、
[4]その漁獲可能量中で、漁業法の指定漁業等の種類別に定める数量に関する事項、
[5]その数量について、操業区域別または操業期間別の数量を決める場合にはその数量に関する事項、
[6][3]の漁獲可能量について、海面がその区域内に存する都道府県別に定める数量に関する事項
[7][4]の数量、[5]の数量に関して、実施すべき施策に関する事項
[8]排他的経済水域等において、漁獲努力可能量12を決定すること等により保存および管理を行うことが適当である海洋生物資源であって、政令で定められる、第2種特定海洋生物資源ごとの漁獲努力量による管理の対象となる採捕の種類ならびに当該採捕の種類にかかる海域および期間並びに漁獲努力可能量に関する事項
[9][8]の漁獲努力可能量のうち指定漁業等の種類別に定める量に関する事項
[10][8]の漁獲努力可能量について、都道府県別に定める量に関する事項
[11]大臣管理努力量に監視実施すべき施策に関する事項
 また、[3]および[8]に関する事項は、MSYを実現することができる水準に特定海洋生物資源を維持し、回復させることを目的として、[2]の事項および他の海洋生物資源との関係等を基礎として、特定海洋生物資源に係る漁業の経営その他の事情を勘案して定めることとされている。大臣は都道府県ごとに数量を定めようとする時には、あらかじめ関係都道府県知事の意見を聞き、定めた時には直ちに関係都道府県知事に通知をすることを義務付けられている。
 
3)都道府県計画
 都道府県の知事は、基本計画に即して、前記[6]の数量、または[10]の数量に関して、実施すべき施策に関する都道府県の計画を、関係海区漁業調整委員会の意見を徴した上で定めることを義務付けられている(4条)。なお、前記[6]の数量の中には、遊漁等漁業活動以外の採捕行為によって採捕される数量も含まれている。それが4条2項3号で「採捕の種類別」という用語が用いられている理由である。
 都道府県計画には、特定海洋生物資源ではない海洋生物資源のうち、都道府県の条例で定める海域(指定海域)において、都道府県漁獲限度量13を決定すること等によって保存および管理を行う海洋生物資源として都道府県の条例で定める「指定海洋生物資源14」についても、都道府県計画に、生物資源ごとの都道府県漁獲限度量や、漁獲努力量、漁獲努力限度量等に関する事項等を定めることとされている(5条)。
 
4)基本計画等の達成のための措置
 農林水産大臣は基本計画達成のために、知事は都道府県計画達成のために、この法律に定められた措置と、漁業法または水産資源保護法による採捕制限等の措置を講ずる。このような措置として以下のような種類のものがある。
[1]管理量を管理するための措置
i)採捕数量、漁獲努力量の公表(8条)
ii)採捕者に対する助言、指導、勧告(9条)
iii)採捕者に対する採捕停止等の命令(10条)
iv)指定漁業者および知事許可漁業者への個別漁獲限度量の割当による採捕制限(11条)
v)採捕停止命令違反者に対する停泊命令(12条)
[2]協定
i)採捕を行う者が、大臣または知事の、管理量、管理努力量に係る海洋生物資源の保存および管理協定を締結した場合、それが適当である旨の大臣または知事の認定を受けることができる(13条〜14条)
ii)協定参加のあっせんの要請(15条)
iii)認定協定参加者が採捕対象者の3分の2以上等である場合の、漁業法等による公的担保措置の要請(16条)
[3]採捕の数量等の報告
都道府県の規則に基づいて報告義務を課すことが可能(17条)
 
5)報告および立ち入り検査
 農林水産大臣および都道府県知事は、採捕の状況の報告を求め、職員による漁場、船舶等への立ち入り検査をすることができる(17〜18条)。
この法律の概念図を添付するので参照されたい(http://www.jfa.go.jp/より)
図1 制度の概念図(平成10年計画)
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3.3.2 海洋生物資源の保存および管理に関する基本計画の現状
 現在第一種特定海洋生物資源として、さんま、すけとう、まあじ、まさばおよびごまさば、するめいか、ずわいがにの7種の魚種につき、漁獲可能量等に関する事項等が定められている。
 
3.3.3 水産資源保護法
3.3.3.1 水産資源保護法の概要
 水産資源保護法は、昭和27年に制定され、水産資源の保護、培養、維持と漁業の発展を図ることを目的とする。漁業法と一体となって、水産資源の採捕制限の手段を提供する法律であり、保護水面制度とさく河魚類の保護培養による水産資源の保護培養制度を持つ。
 
1)採捕制限等
 水産資源保護法4条は、大臣および知事に、水産資源の保護培養のために必要があると認めるときに、[1]採捕制限または禁止、[2]販売または所持に関する制限または禁止、[3]漁具または漁船に関する制限または禁止、[4]水産動植物に有害なものの遺棄または漏洩、その他水産動植物に有害な水質汚濁に関する制限または禁止、[5]水産動植物の保護培養に必要な物の採取または除去に関する制限または禁止、[6]水産動植物の移植に関する制限または禁止を行うための、省令、規則を制定する権限を与える。
 また、水産資源保護法は爆発物や有害物を使用する漁法の制限を定める(5〜6条)。
さらに大臣は、水産資源の保護のために、漁業法65条1項の漁業調整に関する命令および前記4条の規定に基づき大臣の許可を要する漁業について、漁業の種類および水域別に、当該漁業に従事することができる漁船の隻数の最高限度を定め(9条)、現に漁業の許可を得ている漁船が定数を超えるときには、許可の取り消し、変更等を行いうる(10条)。許可の取り消しに対しては政府が損失補償をする義務を有する(11条)。
 これに加えて、13条は、大臣に、水産資源の保護のために、漁業法65条1項の漁業調整に関する命令および前記4条の規定に基づき大臣の許可を要する漁業について、漁業の種類および水域別に、当該漁業により漁獲すべき年間の数量の最高限度を定めて、関係漁牛舎ないしはその団体にその限度を超えないように勧告する権限を与える。
 以上が水産資源保護法の採捕制限の主要な規定である。
 
2)科学的調査
 水産資源保護法は、保護培養に必要であると認められる種類の漁業について、漁獲数量、操業の状況および海況等に関して、科学的調査を実施する義務を大臣に課している(29条)。
 
3.3.3.2 保護水面制度およびさく河魚類の保護培養
1)保護水面制度
 農林大臣は、原則として知事の申請に基づいて、水産動植物が産卵し、稚魚が生育し、または水産動植物の種苗が発生するのに適している水面であって、その保護培養のために必要な措置を講ずべき水面として大臣が指定する区域である(14条)保護水面を指定することができる(15条)。保護水面管理者は当該保護水面を直轄する都道府県知事であり、それが2以上の都道府県知事の管轄に属するとき等には、保護水面を管理する知事を指定するか、または自らが管理する(16条)。保護水面管理者は管理計画を立てることを義務付けられる(15条2項、4項、5項)。管理計画の対象事項は以下のようなことである(17条)。
[1]増殖すべき水産動植物の種類、その増殖の方法、増殖施設の概要
[2]採捕制限し、禁止する水産動植物の種類および制限または禁止の内容
[3]制限し、禁止する漁具、漁船、その制限または禁止の内容
 
2)さく河魚類の保護培養
 さけ、ますについては、大臣が毎年度、人工孵化放流を実施する河川、B所、放流数を計画的に定めて、国営の人工孵化放流を実施する旨が法定されている(20条)。
3.4 漁船法
 昭和25年制定の漁船法は、漁船の建造等の事前許可制度と、漁業に従事している漁船の登録、検認の適切な実施を通じて、漁船の用途、性能についての確認を行い、不適切な建造計画を排除するとともに、無許可操業漁船の出現を未然に防止することにより、漁業調整・水産資源の総合管理上、重要な機能をはたしている。
 具体的には、[1]漁業調整その他の公益上の必要性によって、動力漁船の合計トン数の最高限度や、性能の基準を設定する(3条)、[2]漁船の建造、改造および転用に関する大臣または知事の許可制(3条の2〜7条)、[3]漁船の当道府県漁船原簿への登録の義務付け(9条〜21条)等を行う。
 平成13年に、省エネ化に伴う漁業支出の低減や、漁獲物の鮮度維持のための高速化を図るために生ずる、漁船の長さの増大傾向や、漁業許可者と漁船の建造許可者が異なるケースにおける手続の簡素化の要請の増大等があり、法改正が実施された。
3.5 漁港漁場整備法
 従来、沿岸漁業の基盤整備として、漁港法による漁港整備とならんで、昭和49年制定の沿岸漁場整備開発法により、[1]漁礁設置事業、[2]水産動植物の増殖場および養殖場の造成事業、[3]沿岸漁場保全事業(公害原因等により効用が低下している沿岸漁場において浚渫等を行う)からなる沿岸整備開発事業が実施されてきた。従来の水産基盤整備は物的生産性の向上を中心課題として実施されてきたといえる。
 しかし、水産基本法体制のもとで、つくり育てる漁業やTAC等資源管理を前提とする漁業との関係で、国内水産物の持続的利用と安全な水産物供給体制の整備や、資源の回復をはかるための水産資源の生息環境となる漁場等の積極的な保全・創造、水産業の振興を核とした漁村の総合的な振興が必要との認識が高まり、平成13年、従来の漁港と沿岸漁序整備開発法を統合し、漁港漁場整備法として総合的な施策を体系的に実施する新たな方向が打ち出された。
 
3.5.1 漁港漁場整備法の概要
 漁港法は昭和25年に制定されたが、平成13年、水産基本法体制のもとで漁港及び漁場の一体的整備を目的とする法制度に全面改正された。具体的な改正は以下のとおり。
[1]法律の題名、目的等の見直し
 法律の題名を「漁港法」から「漁港漁場整備法」に改正し、漁港漁場整備事業の総合的・計画的な推進を主目的とし、また、環境との調和と豊かで住みよい漁村の振興を目的規定に明記した。
[2]長期計画の一本化
 従来の漁港整備長期計画と沿岸漁場整備開発計画を一本化し、漁港漁場整備事業の実施目標及び事業量を定める「漁港漁場整備長期計画」を作成することとした。
[3]地方分権の推進
 従来の漁港整備計画(国が整備する漁港名、主要施設等を計画に定める)に代えて、国(農林水産大臣)は「漁港漁場整備基本方針」によって基本的な考え方のみを提示し、地方公共団体はこれに沿って自主的に「特定漁港漁場整備事業計画」を策定することとした。
[4]透明性、客観性の確保
 審議会の公開や資料公表、ならびに事業計画に関する手続の整備として、特定漁港漁場整備事業計画の策定等に当たって、関係地方公共団体及び関係漁港管理者と協議するとともに、公告縦覧・公表の制度を取り入れた。
 
3.5.2 漁港漁場長期整備基本方針
 改正以前の漁港整備計画は、農林水産大臣が漁港審議会の意見を徴した上で定め、閣議の決定を経て、さらに内閣が国会に提出して承認を受け、内閣は毎年度国の財政の許す範囲で漁港整備計画を実施するために必要な経費を予算計上することを義務付けられる。漁港整備計画は、港湾整備5ヵ年計画15とは全く異なる、国会の承認が法的に定められるという特徴を有していた。漁港法制定時の、食糧確保のために基本的なインフラとしての漁港を重視するという、議員立法の特徴がそこに表現されていたといってよい。これまで9次にわたる長期計画が策定されていた。
 また、沿岸漁場整備計画は、沿岸漁場整備開発法(昭和49年法49)によって、沿岸漁場整備開発事業の総合的かつ計画的な実施に資するために、沿岸漁業等振興審議会の意見を徴して、農林水産大臣が案を策定し、閣議決定されるものである。
14年度から第9次長期漁港計画、第4次沿岸漁場整備計画のあとを受けた漁港漁場整備長期計画をスタートさせることになった。しかし、財政諮問会議の長期計画の見直しとの関係で、現在、14年中のスタートがどうなるか不確定の状況にある。
3.6 遊漁
 水産資源の総合的な管理との関係で遊漁による採捕の問題が無視しえない規模になっている。平成5年時点で、海面遊漁者数は約3,700万人、遊漁専業を利用した船釣りによる水産資源の採捕量は、平成9年で29,000トン(遊漁採捕量調査、農林水産庁東経情報部)に上るとされ、同年の沿岸漁業漁獲量の1.7%にあたる。地域、魚種によっては遊漁による採捕量が無視しえない状況となっている。
 現在わが国の海面における遊漁は、漁業法65条および水産資源保護法4条1項に基づく都道府県漁業調整規則、および漁業法67条に基づく海区漁業調整委員会指示によって管理されている。
 漁業調整規則では、「非漁民等の漁具漁法の制限」が設けられており、その他にも体長制限、禁止区域、有害物の遺棄漏洩の禁止等、漁業に対するのと同様の規制が行われている。
 海区漁業行政委員会指示によっては、各地域の実態に応じた各種の規制が行われ、この措置に遊漁者の意見を反映させるために、遊漁者も参加する海面利用協議会が設けられ、海区漁業調整委員会に意見を述べる制度となっている。
 TACとの関係では、制度的には、遊漁による採捕もTACの内数として管理対象となる。しかし、現在のTAC対象7魚種の漁獲量に比すると、遊漁による採捕量は無視しうる程度であり、具体的数量管理の必要性は当面ないと考えられている。しかし、遊漁の実態は地方によって異なり、その採捕量管理は、知事が地域の実情を踏まえて行うこととなる。仮に遊漁にTAC管理を行うとする時に、遊漁者の数の多さと遊漁の形態の多様さ等を考えると、その執行のコストが非常に大きなものになる可能性がある。
 遊漁船を利用する遊漁については、遊漁船業の適正化に関する法律があり、現在改正案が国会に上程されている。








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