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2. 世界の水産物需給
 世界の食料需給の問題はもちろん水産物だけの問題ではなく、量的な点からいえば穀物、次いで肉類がより重要な位置を占めていることは確かである。しかし、上に述べたような理由から将来にわたって水産物供給が果たす役割はきわめて重要と考えられる。そこで、ここでは水産物の需給状況について述べることにする。
2.1 世界の食料需給
 世界の水産物需給を検討する前に、まず簡単に世界の人口と農水産物生産の推移を見ておこう。図1はUnited Nations, 1991. World Population Prospects, 1990 による世界の人口予測を図示したものである。また、世界の地域別の将来人口推移と農水産物生産の現状を示したのが表1である。国連の人口予測は2年ごとの改訂のたびに下方修正が行われてきているが、それでも1980年から2000年にかけての20年間の増加と2000年から2020年にかけての20年間の増加予測はいずれも20億人近くであり、依然として食料供給の点からは人口増加が重要な問題である点には変わりはない。
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図1 世界人口の予測
 さらに、人口増加を地域別に見ると、1997年に対する2030年の増加は、ヨーロッパが唯一5%の減少を示している以外はいずれも40%前後の高い増加を示している。中でも、アフリカは80%を超える高い増加である。人口増加の地域間格差は、人口と食料供給における不均衡を一層助長することになる。1998年の農水産物の生産量を見ると、穀類、イモ類、肉類、水産物のいずれもアジアが最大の生産地域であり、これに次ぐのはヨーロッパあるいは北アメリカである。アジアには多くの途上国も含まれ、当面は高い人口増加率が続くが、高い農水産物生産力食料供給問題は次第に改善されていくとの予測もできる。また、ヨーロッパ、北アメリカの先進国では人口増加は停滞に転善されていくとの予測もできる。また、ヨーロッパ、北アメリカの先進国では人口増加は停滞に転じ、自地域内の人口との単純な対比では供給過剰状態となる。これに対して、アフリカでは高い人口増加率に対して低い農水産物生産力という関係は当面改善されそうにない。このように、人口増加率は長期的傾向としては低下傾向にあるとはいえ、依然として続く人口増加はアフリカのように生産力の乏しい地域での増加が中心であることから、食料供給問題は依然として重大な問題であり続けるであろう。
表1 地域別人口推移と農水産物生産
  推計人口
(1997)
(百万人)
将来人口(1) 生産量(1998年)(2)
2010年
〔百万人〕
2020年
〔百万人〕
2030年
〔百万人〕
穀類
〔百万トン〕
イモ類
〔百万トン〕
肉類
〔百万トン〕
水産物
〔百万トン〕
世界計 5,849 6,795 7,502 8,112 2,054 625 216 127
アジア 3,538 4,1369 4,545 4,877 994 265 82 74
北アメリカ 467 532 579 618 435 31 45 6
南アメリカ 327 395 440 480 93 43 21 11
ヨーロッパ 729 724 712 691 385 146 44 13
アフリカ 758 973 1,187 1,406 114 138 10 1
オセアニア 29 34 38 41 33 3 5 1
資料(1):United Nations,World Population Prospects, The 1998 Revision Volume 1:Comprehensive Tablesより
資料(2):FAO「Production Yearbook」及び FAO「 Yearbook of Fishery Statistics」より作成
2.2 世界の水産物需給
 図2は世界の漁業生産量の推移を示したものである。生産量は1950年から1998年に至る約50年間に実に6倍の増加を示している。この間、1970年代には石油危機や世界的な200海里漁業水域設定の動きに伴う生産体制の混乱から生産は一時停滞するが、その後は再び70年代以前と同様の成長を遂げ、90年代後半にはついに1億2千万トンを超える水準に達している。
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図2 世界の漁業生産の推移FAO「Yearbook of Fishery Statistics」より
 次に国別の漁業生産の推移を示したのが図3である。資料は図2と同じである。かつて世界の2大生産国であった日本とロシア(旧ソ連)はいずれも80年代をピークとして急速に生産を低下させ、その一方で中国、インド、米国、インドネシア等が生産を順調にのばしてきた。しかし、中国を除けばそれらの国々の生産も90年代後半をピークとして停滞あるいは減少傾向に転じており、依然として高い生産の伸びを維持しているのは中国だけとなっている。チリやペルーはアンチョビー(カタクチイワシ)を中心とする主として魚粉等の原料となる多獲性浮魚類の漁獲に大きく依存しており、その生産量はエルニーニョなどの海洋環境変動に左右されて安定しない。
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図3 主要国別の漁業生産の推移
 次にこれらの生産を捕獲漁業と養殖業にわけて近年の推移を見たものが図4である。資料は図2と同じである。93から98年の6年間に限った数値であるが、この間には97年をピークとして総生産量は減少に転じている。その内訳を見ると養殖業による生産は一貫して増加しているが捕獲漁業による生産は停滞から減少傾向を示すようになっている。養殖業による生産の伸びは当面は続くであろうが先述したような理由から今後ともその成長が続くとは考えにくい。他方、捕獲漁業による生産は、実態としてはイワシ類等に代表される多獲性浮魚資源の変動を強く反映している側面もあるが、それにしてもこの漁獲が今後大幅に伸びることは期待できない。
 この点を魚種別の生産量で確認しておこう。世界で漁獲される主要魚種のうち、主として魚粉等の非食用原料として利用される典型的な魚種としてニシン・イワシ類を、主として食用として利用される魚種の代表としてタラ類(スケトウダラを含む)、カツオ・マグロ類に注目してそれらの生産量の推移を示したものが図5である。資料は図2と同じである。魚種別生産量では最も大きな割合を占めるニシン・イワシ類は資源変動と思われる変化を示しているが、この間の動きから見て最大でも25百万トン程度が上限であろうと推測される。また、タラ類の生産量はすでにピークを過ぎて減少傾向を示している。このような動きに対してカツオ・マグロ類だけは徐々にではあるが生産量を伸ばしている。しかし、これらの魚種の生産の動きを食用供給という面から見ると次のように考えられる。ニシン・イワシ類は主として非食用向けの生産であり、これが食用需要を充たすべくその用途を容易に変えるとは考えにくい。また、タラ類は過去の過剰漁獲からくる資源衰退が指摘されるように漁獲量も長期低迷を続けている。また、カツオ・マグロ類は生産を伸ばしてはいるものの、近年各種の規制措置の導入等により今後大幅な漁獲の伸びを期待することは現実的ではない。このように、個別の魚種に注目してみても、今後世界の食用需要の増加に応え得る生産の動きは期待できないと考えられる。世界の水産物生産状況に見る以上のような問題点が、今後の世界の食料問題を考える上で資源利用・管理体制の新たな枠組みの再構築を必要とする所以である。
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図4 世界の漁業、養殖別生産量の推移
 
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図5 世界の主要魚種別生産量の推移








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